28 / 78
【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!
第28話
しおりを挟む
そんなある日、音楽室に忘れものを取りに戻った際に、ひとりで居たアビゲイルに会った。
珍しく彼女の周りには取り巻きの令嬢達はおらず、オスカーもまたひとりだった。
軽く頭を下げて教室を出ようとしたオスカーを、アビゲイルが呼び止めた。
「コルテス様、申し訳ございませんが。
そのまま立っていてくださいませんか?」
偉そうではないが、人に命じることに慣れた人間特有の拒否させない何かを含んだ声だった。
将来の王妃陛下になるかもしれない
(物語が進行して王太子の動向次第では婚約破棄になるかもしれない)
アビゲイルにそう頼まれて、仕方なくオスカーが立ち止まると。
アビゲイルはゆっくりと彼の周りを3周した。
そして『うーん、もう少しそのままでね』と、少し砕けた口調になり。
離れて見て、近づいて見て、を繰り返したのだった。
それはまるで、画家や彫刻家がモデルを検分するように。
そして満足したのか、大きく頷いた。
「完璧です、ありがとうございました」
「あの、これは一体?」
オスカーは彼女に尋ねたが、ただアビゲイルは微笑むのみでそれに答えず、丁寧にカーテシーをして先に音楽室から出て行った。
その日からオスカーの中ではグレンフォール公爵令嬢アビゲイル・フロイドは変な女認定されている。
それはイケメンが好むテンプレ『おもしれー女』枠ではなく、本当の意味での変な女だ。
◇◇◇
とりあえずオスカー本人は、仮面祭りの夜の詳細を思い出そうとしているのだが。
何故か最近、それが思い出せなくなってきていた。
辺境へと送られた兄のダンカンが王都に向かったようだ、と実家からの知らせを受け取ったのが昨日だったので。
『そうだ、これが始まりだった。ここからの流れはどうだったかな』と昨日から何度となく思い返そうとしては、いつの間にか違うことを考えてしまっている。
ヒーローのオスカーにとっては大一番のイベントを、今頃になって肝心な部分が思い出せなくて情けないのに。
それもその瞬間だけで、後はダンカンを心配している自分に切り替わる。
転生したと自覚した日から、常に自分の事をミカミの目で俯瞰して見ていたオスカーだった。
しかし、その境があやふやになってきているのが彼の不安をかきたてていた。
とにかく、全ては仮面祭りが終わってからだ。
ミシェルの事は出来れば無しにしたいが、物語の強制力が働けば自分は彼女に恋をしてしまう。
もしこの世界のどこかにホナミが存在しているのならと諦めたくないが、結婚をロザリンドに申し込まれて正直心が揺れている自分が居るのも確かで。
この5年間、義妹としか見ていなかったロザリンドを意識するようになったのはいつからだろうか。
結婚を提案された時からだろうか。
ふたりの距離がいきなり近くなったデビュタントの夜からだろうか。
それとも、ロザリンドが倒れてしまった午後からだろうか……
気を失ったロザリンドを抱き締めていたウェズリーや、ダンスにかこつけて彼女に密着したランドールに対して、大きな怒りと小さな嫉妬を感じていたが、そんな自分を認めないようにしていた。
オスカーは義妹を女性として愛するような男じゃないはずだから。
だが実際の自分は身近にいるロザリンドと、思い出が薄れていくホナミの間で心が揺れている。
これでは、まるでアーノルドとオスカーの間でふらふらしていたヒロインと同じだな、と自分に呆れた。
自己嫌悪に沈んでいたオスカーの食事の手が止まっていたようで、義父が声をかけてきた。
「今日はウェインの家から連絡があったようだな」
「……」
コルテス侯爵には、まだ兄ダンカンが辺境から脱走したことは伝わっていないようだった。
辺境伯は預かったダンカンを、侯爵に知られることなく連れ戻そうとしているのだろう。
「卒業まで成績を落とさないようにと。
あとは実家の皆の近況を知らせてくれました」
「実家の皆様はお変わりないようか?」
「はい、お陰様で……」
「卒業式には、マーカス伯爵ご夫妻をお招きしましょうね」
「……ありがとうございます」
オスカーの学業成績に満足している義父母が顔を見合わせて微笑んでいる。
ふたりに嘘を吐いて誤魔化した事が心苦しい。
そうだった、次はダンカンから俺に手紙が来る。
『会いたい』
確かそう書かれていて、俺は祭りの夜ダンカンに会う為にウチを出て、髪を染める魔法をグレンジャーに頼んで……、と思い出した。
しかし今もまた、何を思い出したのかモヤモヤして来て頭の中に何も浮かんでこないオスカーだった。
珍しく彼女の周りには取り巻きの令嬢達はおらず、オスカーもまたひとりだった。
軽く頭を下げて教室を出ようとしたオスカーを、アビゲイルが呼び止めた。
「コルテス様、申し訳ございませんが。
そのまま立っていてくださいませんか?」
偉そうではないが、人に命じることに慣れた人間特有の拒否させない何かを含んだ声だった。
将来の王妃陛下になるかもしれない
(物語が進行して王太子の動向次第では婚約破棄になるかもしれない)
アビゲイルにそう頼まれて、仕方なくオスカーが立ち止まると。
アビゲイルはゆっくりと彼の周りを3周した。
そして『うーん、もう少しそのままでね』と、少し砕けた口調になり。
離れて見て、近づいて見て、を繰り返したのだった。
それはまるで、画家や彫刻家がモデルを検分するように。
そして満足したのか、大きく頷いた。
「完璧です、ありがとうございました」
「あの、これは一体?」
オスカーは彼女に尋ねたが、ただアビゲイルは微笑むのみでそれに答えず、丁寧にカーテシーをして先に音楽室から出て行った。
その日からオスカーの中ではグレンフォール公爵令嬢アビゲイル・フロイドは変な女認定されている。
それはイケメンが好むテンプレ『おもしれー女』枠ではなく、本当の意味での変な女だ。
◇◇◇
とりあえずオスカー本人は、仮面祭りの夜の詳細を思い出そうとしているのだが。
何故か最近、それが思い出せなくなってきていた。
辺境へと送られた兄のダンカンが王都に向かったようだ、と実家からの知らせを受け取ったのが昨日だったので。
『そうだ、これが始まりだった。ここからの流れはどうだったかな』と昨日から何度となく思い返そうとしては、いつの間にか違うことを考えてしまっている。
ヒーローのオスカーにとっては大一番のイベントを、今頃になって肝心な部分が思い出せなくて情けないのに。
それもその瞬間だけで、後はダンカンを心配している自分に切り替わる。
転生したと自覚した日から、常に自分の事をミカミの目で俯瞰して見ていたオスカーだった。
しかし、その境があやふやになってきているのが彼の不安をかきたてていた。
とにかく、全ては仮面祭りが終わってからだ。
ミシェルの事は出来れば無しにしたいが、物語の強制力が働けば自分は彼女に恋をしてしまう。
もしこの世界のどこかにホナミが存在しているのならと諦めたくないが、結婚をロザリンドに申し込まれて正直心が揺れている自分が居るのも確かで。
この5年間、義妹としか見ていなかったロザリンドを意識するようになったのはいつからだろうか。
結婚を提案された時からだろうか。
ふたりの距離がいきなり近くなったデビュタントの夜からだろうか。
それとも、ロザリンドが倒れてしまった午後からだろうか……
気を失ったロザリンドを抱き締めていたウェズリーや、ダンスにかこつけて彼女に密着したランドールに対して、大きな怒りと小さな嫉妬を感じていたが、そんな自分を認めないようにしていた。
オスカーは義妹を女性として愛するような男じゃないはずだから。
だが実際の自分は身近にいるロザリンドと、思い出が薄れていくホナミの間で心が揺れている。
これでは、まるでアーノルドとオスカーの間でふらふらしていたヒロインと同じだな、と自分に呆れた。
自己嫌悪に沈んでいたオスカーの食事の手が止まっていたようで、義父が声をかけてきた。
「今日はウェインの家から連絡があったようだな」
「……」
コルテス侯爵には、まだ兄ダンカンが辺境から脱走したことは伝わっていないようだった。
辺境伯は預かったダンカンを、侯爵に知られることなく連れ戻そうとしているのだろう。
「卒業まで成績を落とさないようにと。
あとは実家の皆の近況を知らせてくれました」
「実家の皆様はお変わりないようか?」
「はい、お陰様で……」
「卒業式には、マーカス伯爵ご夫妻をお招きしましょうね」
「……ありがとうございます」
オスカーの学業成績に満足している義父母が顔を見合わせて微笑んでいる。
ふたりに嘘を吐いて誤魔化した事が心苦しい。
そうだった、次はダンカンから俺に手紙が来る。
『会いたい』
確かそう書かれていて、俺は祭りの夜ダンカンに会う為にウチを出て、髪を染める魔法をグレンジャーに頼んで……、と思い出した。
しかし今もまた、何を思い出したのかモヤモヤして来て頭の中に何も浮かんでこないオスカーだった。
41
お気に入りに追加
693
あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

私だってあなたなんて願い下げです!これからの人生は好きに生きます
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のジャンヌは、4年もの間ずっと婚約者で侯爵令息のシャーロンに冷遇されてきた。
オレンジ色の髪に吊り上がった真っ赤な瞳のせいで、一見怖そうに見えるジャンヌに対し、この国で3本の指に入るほどの美青年、シャーロン。美しいシャーロンを、令嬢たちが放っておく訳もなく、常に令嬢に囲まれて楽しそうに過ごしているシャーロンを、ただ見つめる事しか出来ないジャンヌ。
それでも4年前、助けてもらった恩を感じていたジャンヌは、シャーロンを想い続けていたのだが…
ある日いつもの様に辛辣な言葉が並ぶ手紙が届いたのだが、その中にはシャーロンが令嬢たちと口づけをしたり抱き合っている写真が入っていたのだ。それもどの写真も、別の令嬢だ。
自分の事を嫌っている事は気が付いていた。他の令嬢たちと仲が良いのも知っていた。でも、まさかこんな不貞を働いているだなんて、気持ち悪い。
正気を取り戻したジャンヌは、この写真を証拠にシャーロンと婚約破棄をする事を決意。婚約破棄出来た暁には、大好きだった騎士団に戻ろう、そう決めたのだった。
そして両親からも婚約破棄に同意してもらい、シャーロンの家へと向かったのだが…
※カクヨム、なろうでも投稿しています。
よろしくお願いします。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる