【完結】原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

Mimi

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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

第28話

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 そんなある日、音楽室に忘れものを取りに戻った際に、ひとりで居たアビゲイルに会った。
 珍しく彼女の周りには取り巻きの令嬢達はおらず、オスカーもまたひとりだった。

 軽く頭を下げて教室を出ようとしたオスカーを、アビゲイルが呼び止めた。


「コルテス様、申し訳ございませんが。
 そのまま立っていてくださいませんか?」

 偉そうではないが、人に命じることに慣れた人間特有の拒否させない何かを含んだ声だった。


 将来の王妃陛下になるかもしれない
(物語が進行して王太子の動向次第では婚約破棄になるかもしれない)
 アビゲイルにそう頼まれて、仕方なくオスカーが立ち止まると。


 アビゲイルはゆっくりと彼の周りを3周した。
そして『うーん、もう少しそのままでね』と、少し砕けた口調になり。
 離れて見て、近づいて見て、を繰り返したのだった。
 それはまるで、画家や彫刻家がモデルを検分するように。
 そして満足したのか、大きく頷いた。


「完璧です、ありがとうございました」

「あの、これは一体?」

 オスカーは彼女に尋ねたが、ただアビゲイルは微笑むのみでそれに答えず、丁寧にカーテシーをして先に音楽室から出て行った。


 その日からオスカーの中ではグレンフォール公爵令嬢アビゲイル・フロイドは変な女認定されている。
 それはイケメンが好むテンプレ『おもしれー女』枠ではなく、本当の意味での変な女だ。


 ◇◇◇


 とりあえずオスカー本人は、仮面祭りの夜の詳細を思い出そうとしているのだが。
 何故か最近、それが思い出せなくなってきていた。

 辺境へと送られた兄のダンカンが王都に向かったようだ、と実家からの知らせを受け取ったのが昨日だったので。
『そうだ、これが始まりだった。ここからの流れはどうだったかな』と昨日から何度となく思い返そうとしては、いつの間にか違うことを考えてしまっている。


 ヒーローのオスカーにとっては大一番のイベントを、今頃になって肝心な部分が思い出せなくて情けないのに。
 それもその瞬間だけで、後はダンカンを心配している自分に切り替わる。


 転生したと自覚した日から、常に自分の事をミカミの目で俯瞰して見ていたオスカーだった。
 しかし、その境があやふやになってきているのが彼の不安をかきたてていた。


 とにかく、全ては仮面祭りが終わってからだ。
 ミシェルの事は出来れば無しにしたいが、物語の強制力が働けば自分は彼女に恋をしてしまう。


 もしこの世界のどこかにホナミが存在しているのならと諦めたくないが、結婚をロザリンドに申し込まれて正直心が揺れている自分が居るのも確かで。

 この5年間、義妹としか見ていなかったロザリンドを意識するようになったのはいつからだろうか。


 結婚を提案された時からだろうか。
 ふたりの距離がいきなり近くなったデビュタントの夜からだろうか。
 それとも、ロザリンドが倒れてしまった午後からだろうか……


 気を失ったロザリンドを抱き締めていたウェズリーや、ダンスにかこつけて彼女に密着したランドールに対して、大きな怒りと小さな嫉妬を感じていたが、そんな自分を認めないようにしていた。
 オスカーは義妹を女性として愛するような男じゃないはずだから。


 だが実際の自分は身近にいるロザリンドと、思い出が薄れていくホナミの間で心が揺れている。
 これでは、まるでアーノルドとオスカーの間でふらふらしていたヒロインと同じだな、と自分に呆れた。


 自己嫌悪に沈んでいたオスカーの食事の手が止まっていたようで、義父が声をかけてきた。


「今日はウェインの家から連絡があったようだな」

「……」

 コルテス侯爵には、まだ兄ダンカンが辺境から脱走したことは伝わっていないようだった。
 辺境伯は預かったダンカンを、侯爵に知られることなく連れ戻そうとしているのだろう。


「卒業まで成績を落とさないようにと。
 あとは実家の皆の近況を知らせてくれました」

「実家の皆様はお変わりないようか?」

「はい、お陰様で……」

「卒業式には、マーカス伯爵ご夫妻をお招きしましょうね」

「……ありがとうございます」


 オスカーの学業成績に満足している義父母が顔を見合わせて微笑んでいる。
 ふたりに嘘を吐いて誤魔化した事が心苦しい。
 そうだった、次はダンカンから俺に手紙が来る。


『会いたい』


 確かそう書かれていて、俺は祭りの夜ダンカンに会う為にウチを出て、髪を染める魔法をグレンジャーに頼んで……、と思い出した。

 しかし今もまた、何を思い出したのかモヤモヤして来て頭の中に何も浮かんでこないオスカーだった。
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