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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

第27話

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 グレンフォール公爵家から戻ってきたロザリンドは、玄関ホールまで迎えに出たオスカーにも何も告げず、そのまま部屋に引きこもってしまった。

 今夜のディナーも要らないと、メイドに言付けをして、早々にベッドに入ってしまったらしい。


「貴方がすげなく断るから」

 オスカーが『お義兄様と結婚を』と言い出した義妹に、待ったをかけたことを義母は言っているのだ。


「……」

「貴方を責めてるんじゃないわ、それは誤解しないでね。
 その気にならないのは仕方のないことですもの」


 ロザリンドがそう言い出した時は、義母だって驚いて口をポカンと開いていたくせに。
 ところがしばらくすると、考えを切り替えて。
『そうだ、そうなればオスカーもロージーもずっとこのウチに居る』と俄然乗り気になった。


「陛下はウチに借りがあるから、承認されやすいでしょうから」


 そして、気持ちが追い付いていない義父のお尻を叩いて、『陛下に直ぐに届けを出しましょう』と、言い出した。
 今義父は義妹の噂が落ち着くまでは、と義母を言い聞かせて届け出を保留している状態だ。


 借りがあるというのは、デビュタントの夜にロザリンドが鬼畜王子のランドールに私室に連れ込まれそうになった件だとオスカーは考えた。

 それまでの第2王子の所業を知っていながら放置していた責を追求された国王陛下を庇ったのは、愛娘を汚されそうになった被害者側のコルテス侯爵だったので、以降の国王陛下は彼に強く出られなくなったからだ。


『これが貴族のパワーゲームに勝つと、いうことだ』
と、得意そうに語るコルテス侯爵を家族は冷めた目で見ていたが、オスカーにとってはとにかくロザリンドが無事であったことが喜ばしかった。


 ランドールを倒したのが王城の廊下であったこと。
 倒れている第2王子に馬乗りになり、彼を締め上げている義妹。
 その場の目撃者がオスカーの他に多数居たことからロザリンドの貞操が守られた事を疑う者は居ない。

 結果として、ロザリンドの縁談は潮を引くように撤回が相次いでいるが、これがもし一歩でも私室に連れ込まれた後に起こった出来事であったなら。
 純潔を散らされる前にあのランドールを退けていたとしてもロザリンドは傷物と社交界で周知されていただろう。
 

 パワーゲームの本当の勝者は義父ではなくロザリンドだと、この世界のトップの王族に女性ながら抵抗した義妹のことを、誇らしく思うオスカーだった。


 しかし、だからと言って。
 彼女と結婚するのは、また違う話だ。
 ロザリンドの事は、決して嫌いではない。
 嫌いなわけがない……可愛くて、思いきり甘やかしてやりたい……
 ……だが自分には。


 2週間後の仮面祭りの夜に振りかかってくる厄災がある。
 それを取り除いて解決しない以上、何の約束も出来ないのだ。


 編集者ミカミとして、その夜に何が起こるのかは知っているはずなのだが。
 このところ、その事については自信がなくなってきている。



「今日もローはグレンフォールのアビゲイル様と会っていたようだな?」

 それまで黙っていた義父がオスカーに尋ねた。
 義母からの圧から救おうと、話題を変えてくれたのだ。
 義父はロザリンドの事をただひとり、ローと呼んだ。
 その事がはっきり口に出さなくても、娘を愛していることを表していて、オスカーはそんな義父が好ましい。


「前回は先方からのお招きで、今日はローからお伺いしたんだったな?
 あの方とは友人ということなのかな?
 オスカー、お前アビゲイル様とは同級生だったな」

 義父が絶妙な話題を出したことで、義母の顔も嬉しそうな表情に変わった。


「ロージーが王太子殿下のご婚約者の友人になれたのかしら?
 アビゲイル様は、どのような御方なの?」

「……私は同級生とは申しましても、さほど交流はありませんから。
 美しくて頭の良いアビゲイル嬢は王太子妃殿下にふさわしい公爵令嬢だと、苑内で噂に聞いておりますが」



 そう……美しくて頭が良くて、少し変わっているアビゲイル嬢。
 義父母に話すとややこしくなるだろうから教えなかったのだが、オスカーからしたらアビゲイルは変わった公爵令嬢だった。


 彼女は王太子殿下の婚約者なので、まあまあ登場回数の多いキャラだ。
 ありがちな悪役令嬢ではないがヒロインのライバルに該当する。
 それで、オスカーはアビゲイルを機会があれば周囲に気付かれないように観察していたのだが、時々本人と目が合った。


 言葉など交わしたことは皆無に近かったが視線だけはよく合う公爵令嬢。
 オスカーはその容姿ゆえに女性から視線を向けられることに慣れていたが、アビゲイルからのそれは全く違う種類のものであるのは感じられた。

 ミシェルの様に嫌な印象はなかったが、『見られていること』に理解が出来なくてモヤってはいた。
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