18 / 78
【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!
第18話
しおりを挟む
「彼女、あんなに綺麗なコだったんだね」
男性専用の化粧室で。
隣に来た男が声をかけてきた。
王家御用達の男性用の香水を数敵落とした手洗いの水。
新しく用意させたその水に手を浸した彼は、傍らに控えていた小姓からタオルを受け取り、オスカーに声をかけてきた。
第2王子のランドール殿下だった。
オスカーとは貴族学苑の同級生に当たる。
友人と言えるような間柄でもないが、顔を合わせると言葉も交わした。
「ウェズリーと婚約していたし、学苑ではあまり目立っていなかったから、意識していなかったけれど。
悪くないね……いや、いいよ、すごく。
思わず二度見してしまったな」
ランドールは王太子とは母が違う第2王子で、まだ成人していないのに女性慣れしている。
それで典型的な清純派ヒロインのミシェルには食指を動かさない設定だったので、側近のウェズリーも遠慮などせずに恋人の位置に収まっていられたのだった。
「義妹をお褒めいただきましてありがとうございます、と言うべきですか?」
「お前は相変わらず、俺に対しても愛想のないヤツだね」
「……」
「気に入って貰おうとへいこらするヤツより、俺はお前を側近にしたいんだけどな」
その言葉通り、ランドールはオスカーを気に入っているようで、周りに側近達が居ない時等は彼に対して本音を漏らすこともあった。
『今の側近なんて俺が選んだ訳じゃないからな』と。
「彼女、お前にべったりだな。
お前も息抜きしたいだろ?
俺がダンスを申し込むから、お前はその間に羽根を伸ばせばいい」
第2王子から言われたら、それは提案ではなく命令だ。
ここは学苑ではなく王城で。
苑内での自分の事なら断れても、王城内で侯爵家に関係する事だと塩対応は出来なかった。
「……よろしくお願いします」
「任せてくれよ。
彼女には夢のようなひとときをあげるよ」
ロザリンドを火遊びの激しいランドールに預けることには躊躇いがあったが、さすがに側近の元婚約者で、有力貴族の令嬢で、何よりわずか15歳の義妹に。
デビュタントの夜、無体な事をするはずはない。
そう思って……思いたくて。
オスカーは頷くしかなかった。
少しだけ心が疼いたけれど、その痛みに気付かないふりをして。
化粧室を出てホールに向かおうとすると、廊下で待ってくれていたらしいロザリンドはウェズリーと一緒に居た。
まったく、どいつもこいつも!
着飾って綺麗になったロージーに集まりやがって!
そんな苦々しい思いが渦巻くまま、彼女のところへ急いだ。
近付いてくるオスカーに気が付いて、ウェズリーは若干ロザリンドとの距離を開けた。
『シスコン兄貴がやってきたよ』と思いながら。
「元婚約者殿はあまり、近付いて欲しくないな」
「オスカー、そんなこと言わないでよ。
会場じゃ話しかけたくても、皆見てるし。
何よりコルテス侯爵夫人が俺を殺したいのを隠さないしさ」
「……義母上から暗殺者を送られてないだけでも感謝しろよ。
今さら何だ?」
「……暗殺者って、笑えない冗談……
ランドール殿下がロージーに興味を持ち出しているから
気を付けるように言っていたんだ」
オスカーはそれを聞いて引き寄せたロザリンドの肩を強く抱き締めた。
化粧室でランドールに遭遇する前にそれを教えて欲しかった。
そうであったら、両親には伝言を頼んで、先にふたりで帰れたのに。
ランドールからの申し出を自分は受けてしまった。
今さら帰ることは出来ない。
「今から第2王子殿下が君にダンスを申し込んでくる」
「……嫌です、断ってもいいでしょう?」
「王族に誘われて、断ることは許されない」
「……」
ロザリンドの瞳がすがるように自分を見てくる。
「一曲だけでいい、侯爵家の為だと……」
家の為だと、そんなことを言う自分が自分で許せない。
ホナミの理想であるオスカーがこんな情けない男だとは。
だが、貴族である以上……
「わかりました」
ロザリンドも覚悟を決めたようで、背筋をすっと伸ばした。
女性に手が早く、その分飽きるのも早いランドールに泣かされた令嬢は数多い。
捨てられた本人達だけではなく、家族も皆我慢をしている。
見境ないランドールのことを鬼畜と呼ぶ人間も居る。
『夢のようなひとときをあげる』
ダンスの事を言っているのだ、と思いたかった。
まだ花開く前のロザリンドだ。
どうか、ダンス一曲で殿下が済ませてくれますように。
無理矢理にその蕾を開かせて散らそう等と、思わないでくれますように。
今はそう祈るしかない3人だった。
男性専用の化粧室で。
隣に来た男が声をかけてきた。
王家御用達の男性用の香水を数敵落とした手洗いの水。
新しく用意させたその水に手を浸した彼は、傍らに控えていた小姓からタオルを受け取り、オスカーに声をかけてきた。
第2王子のランドール殿下だった。
オスカーとは貴族学苑の同級生に当たる。
友人と言えるような間柄でもないが、顔を合わせると言葉も交わした。
「ウェズリーと婚約していたし、学苑ではあまり目立っていなかったから、意識していなかったけれど。
悪くないね……いや、いいよ、すごく。
思わず二度見してしまったな」
ランドールは王太子とは母が違う第2王子で、まだ成人していないのに女性慣れしている。
それで典型的な清純派ヒロインのミシェルには食指を動かさない設定だったので、側近のウェズリーも遠慮などせずに恋人の位置に収まっていられたのだった。
「義妹をお褒めいただきましてありがとうございます、と言うべきですか?」
「お前は相変わらず、俺に対しても愛想のないヤツだね」
「……」
「気に入って貰おうとへいこらするヤツより、俺はお前を側近にしたいんだけどな」
その言葉通り、ランドールはオスカーを気に入っているようで、周りに側近達が居ない時等は彼に対して本音を漏らすこともあった。
『今の側近なんて俺が選んだ訳じゃないからな』と。
「彼女、お前にべったりだな。
お前も息抜きしたいだろ?
俺がダンスを申し込むから、お前はその間に羽根を伸ばせばいい」
第2王子から言われたら、それは提案ではなく命令だ。
ここは学苑ではなく王城で。
苑内での自分の事なら断れても、王城内で侯爵家に関係する事だと塩対応は出来なかった。
「……よろしくお願いします」
「任せてくれよ。
彼女には夢のようなひとときをあげるよ」
ロザリンドを火遊びの激しいランドールに預けることには躊躇いがあったが、さすがに側近の元婚約者で、有力貴族の令嬢で、何よりわずか15歳の義妹に。
デビュタントの夜、無体な事をするはずはない。
そう思って……思いたくて。
オスカーは頷くしかなかった。
少しだけ心が疼いたけれど、その痛みに気付かないふりをして。
化粧室を出てホールに向かおうとすると、廊下で待ってくれていたらしいロザリンドはウェズリーと一緒に居た。
まったく、どいつもこいつも!
着飾って綺麗になったロージーに集まりやがって!
そんな苦々しい思いが渦巻くまま、彼女のところへ急いだ。
近付いてくるオスカーに気が付いて、ウェズリーは若干ロザリンドとの距離を開けた。
『シスコン兄貴がやってきたよ』と思いながら。
「元婚約者殿はあまり、近付いて欲しくないな」
「オスカー、そんなこと言わないでよ。
会場じゃ話しかけたくても、皆見てるし。
何よりコルテス侯爵夫人が俺を殺したいのを隠さないしさ」
「……義母上から暗殺者を送られてないだけでも感謝しろよ。
今さら何だ?」
「……暗殺者って、笑えない冗談……
ランドール殿下がロージーに興味を持ち出しているから
気を付けるように言っていたんだ」
オスカーはそれを聞いて引き寄せたロザリンドの肩を強く抱き締めた。
化粧室でランドールに遭遇する前にそれを教えて欲しかった。
そうであったら、両親には伝言を頼んで、先にふたりで帰れたのに。
ランドールからの申し出を自分は受けてしまった。
今さら帰ることは出来ない。
「今から第2王子殿下が君にダンスを申し込んでくる」
「……嫌です、断ってもいいでしょう?」
「王族に誘われて、断ることは許されない」
「……」
ロザリンドの瞳がすがるように自分を見てくる。
「一曲だけでいい、侯爵家の為だと……」
家の為だと、そんなことを言う自分が自分で許せない。
ホナミの理想であるオスカーがこんな情けない男だとは。
だが、貴族である以上……
「わかりました」
ロザリンドも覚悟を決めたようで、背筋をすっと伸ばした。
女性に手が早く、その分飽きるのも早いランドールに泣かされた令嬢は数多い。
捨てられた本人達だけではなく、家族も皆我慢をしている。
見境ないランドールのことを鬼畜と呼ぶ人間も居る。
『夢のようなひとときをあげる』
ダンスの事を言っているのだ、と思いたかった。
まだ花開く前のロザリンドだ。
どうか、ダンス一曲で殿下が済ませてくれますように。
無理矢理にその蕾を開かせて散らそう等と、思わないでくれますように。
今はそう祈るしかない3人だった。
49
お気に入りに追加
693
あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

私だってあなたなんて願い下げです!これからの人生は好きに生きます
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のジャンヌは、4年もの間ずっと婚約者で侯爵令息のシャーロンに冷遇されてきた。
オレンジ色の髪に吊り上がった真っ赤な瞳のせいで、一見怖そうに見えるジャンヌに対し、この国で3本の指に入るほどの美青年、シャーロン。美しいシャーロンを、令嬢たちが放っておく訳もなく、常に令嬢に囲まれて楽しそうに過ごしているシャーロンを、ただ見つめる事しか出来ないジャンヌ。
それでも4年前、助けてもらった恩を感じていたジャンヌは、シャーロンを想い続けていたのだが…
ある日いつもの様に辛辣な言葉が並ぶ手紙が届いたのだが、その中にはシャーロンが令嬢たちと口づけをしたり抱き合っている写真が入っていたのだ。それもどの写真も、別の令嬢だ。
自分の事を嫌っている事は気が付いていた。他の令嬢たちと仲が良いのも知っていた。でも、まさかこんな不貞を働いているだなんて、気持ち悪い。
正気を取り戻したジャンヌは、この写真を証拠にシャーロンと婚約破棄をする事を決意。婚約破棄出来た暁には、大好きだった騎士団に戻ろう、そう決めたのだった。
そして両親からも婚約破棄に同意してもらい、シャーロンの家へと向かったのだが…
※カクヨム、なろうでも投稿しています。
よろしくお願いします。

[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します
シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。
両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。
その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる