【完結】原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

Mimi

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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

第18話

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「彼女、あんなに綺麗なコだったんだね」

 男性専用の化粧室で。
 隣に来た男が声をかけてきた。

 王家御用達の男性用の香水を数敵落とした手洗いの水。
 新しく用意させたその水に手を浸した彼は、傍らに控えていた小姓からタオルを受け取り、オスカーに声をかけてきた。
 


 第2王子のランドール殿下だった。
 オスカーとは貴族学苑の同級生に当たる。
 友人と言えるような間柄でもないが、顔を合わせると言葉も交わした。


「ウェズリーと婚約していたし、学苑ではあまり目立っていなかったから、意識していなかったけれど。
 悪くないね……いや、いいよ、すごく。
 思わず二度見してしまったな」


 ランドールは王太子とは母が違う第2王子で、まだ成人していないのに女性慣れしている。
 それで典型的な清純派ヒロインのミシェルには食指を動かさない設定だったので、側近のウェズリーも遠慮などせずに恋人の位置に収まっていられたのだった。


「義妹をお褒めいただきましてありがとうございます、と言うべきですか?」

「お前は相変わらず、俺に対しても愛想のないヤツだね」

「……」

「気に入って貰おうとへいこらするヤツより、俺はお前を側近にしたいんだけどな」


 その言葉通り、ランドールはオスカーを気に入っているようで、周りに側近達が居ない時等は彼に対して本音を漏らすこともあった。

『今の側近なんて俺が選んだ訳じゃないからな』と。


「彼女、お前にべったりだな。
 お前も息抜きしたいだろ?
 俺がダンスを申し込むから、お前はその間に羽根を伸ばせばいい」


 第2王子から言われたら、それは提案ではなく命令だ。
 ここは学苑ではなく王城で。
 苑内での自分の事なら断れても、王城内で侯爵家に関係する事だと塩対応は出来なかった。


「……よろしくお願いします」

「任せてくれよ。
 彼女には夢のようなひとときをあげるよ」


 ロザリンドを火遊びの激しいランドールに預けることには躊躇いがあったが、さすがに側近の元婚約者で、有力貴族の令嬢で、何よりわずか15歳の義妹に。
 デビュタントの夜、無体な事をするはずはない。


 そう思って……思いたくて。
 オスカーは頷くしかなかった。
 少しだけ心が疼いたけれど、その痛みに気付かないふりをして。


 化粧室を出てホールに向かおうとすると、廊下で待ってくれていたらしいロザリンドはウェズリーと一緒に居た。


 まったく、どいつもこいつも!
 着飾って綺麗になったロージーに集まりやがって!

 そんな苦々しい思いが渦巻くまま、彼女のところへ急いだ。

 近付いてくるオスカーに気が付いて、ウェズリーは若干ロザリンドとの距離を開けた。
『シスコン兄貴がやってきたよ』と思いながら。


「元婚約者殿はあまり、近付いて欲しくないな」

「オスカー、そんなこと言わないでよ。
 会場じゃ話しかけたくても、皆見てるし。
 何よりコルテス侯爵夫人が俺を殺したいのを隠さないしさ」

「……義母上から暗殺者を送られてないだけでも感謝しろよ。 
 今さら何だ?」

「……暗殺者って、笑えない冗談……
 ランドール殿下がロージーに興味を持ち出しているから
気を付けるように言っていたんだ」


 オスカーはそれを聞いて引き寄せたロザリンドの肩を強く抱き締めた。
 化粧室でランドールに遭遇する前にそれを教えて欲しかった。
 そうであったら、両親には伝言を頼んで、先にふたりで帰れたのに。


 ランドールからの申し出を自分は受けてしまった。
 今さら帰ることは出来ない。

 
「今から第2王子殿下が君にダンスを申し込んでくる」

「……嫌です、断ってもいいでしょう?」

「王族に誘われて、断ることは許されない」

「……」


 ロザリンドの瞳がすがるように自分を見てくる。

「一曲だけでいい、侯爵家の為だと……」

 家の為だと、そんなことを言う自分が自分で許せない。
 ホナミの理想であるオスカーがこんな情けない男だとは。
 だが、貴族である以上……


「わかりました」

 ロザリンドも覚悟を決めたようで、背筋をすっと伸ばした。
 女性に手が早く、その分飽きるのも早いランドールに泣かされた令嬢は数多い。
 捨てられた本人達だけではなく、家族も皆我慢をしている。
 見境ないランドールのことを鬼畜と呼ぶ人間も居る。



『夢のようなひとときをあげる』

 ダンスの事を言っているのだ、と思いたかった。

 まだ花開く前のロザリンドだ。
 どうか、ダンス一曲で殿下が済ませてくれますように。
 無理矢理にその蕾を開かせて散らそう等と、思わないでくれますように。

 今はそう祈るしかない3人だった。
 

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