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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

第15話

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 原作者のホナミが転生したロザリンドはモブキャラで、ホナミも彼女については大まかにしか考えていなかった。

 一番初めにヒロインの魅力に攻略された侯爵令息ウェズリーの婚約者として存在していただけで、名前も適当に付けたしセリフ等もない。

 ヒーローとなるオスカーの義理の妹であるが、彼との交流シーンもないし、オスカーがクローズアップされる第2章でも、ロザリンドを主役カップルに絡ませるつもりもなかったホナミだった。


 単に『ウェズリーの婚約者でオスカーの義理の妹』。
 ただそれだけの設定であり、物語上ではウェズリーとの婚約破棄の事さえ記されていない。 


 今宵の夜会にしても、ヒロインが参加しないので、原作には書かれていないイベントで、どんな流れになるのかわからない。
 だからこそ自由にしてもいいんじゃないか、とロザリンドは都合良く考えた。


「今夜は、お義兄様としか踊りたくありません」

「それは光栄だけど、ロージーを独占したら俺が恨まれるから。
 嫌じゃなければ、他の男とも踊ってあげないとね」


 オスカーはロザリンドに優しいが、それはあくまでも義兄としてだ。
 前世の記憶が戻る前のロザリンドはオスカーとは実の兄妹のようだと思い込んでいたが。
 一人娘で10年間蝶よ花よと大切に育てられてきた彼女は、兄という存在に憧れていた。

 それで幼い義妹にも、優しく微笑んで丁寧に接してくれるオスカーに直ぐに懐いたのだが。
 本当の兄なら妹に気に入って貰おうとしないから、蕩けるような笑顔は見せないし、気長に彼女の遊びに付き合ってくれたりしなかっただろうに、無知だったロザリンドはそんなことにも気が付かなかった。


 大人のホナミからしたら、コルテス侯爵家の人間に対してのオスカーの態度は『他人行儀』の、一言に尽きた。
 彼との間には決められたような距離があって、こちらが何センチか詰めても、それと同じだけオスカーが引いてしまうので、ふたりの距離は変わらない。



 今夜は一晩中、絶対にオスカーの側から離れないから。
 縁談相手のご令嬢を紹介される時間も与えない。
 私は他の男となんて踊らないし。
 貴方に義妹以上の気持ちを持って貰えるように。
 今夜は絶対に……ふたりの距離を失くしてみせる。


 26歳のホナミにとって、初恋も知らない17歳のオスカーをその気にさせて落とすのは簡単なように思えた。

 前世では未成年に対するそれは犯罪行為だったけど、ここでなら大丈夫だし?
 日本人だった感覚からしたら、欧米型のオスカーは成年男子の見た目だし?
 15歳のロザリンドだって、高校に入学したての女の子には見えないし?
 捨て身でアタックしたら、何とかなるかも?

 確信はないが、やってみる価値はある。


 ……の、はずだったのに。
 それがどうしてこうなった?



 今ロザリンドの手は、第2王子のランドール殿下に握られて。
 彼女の細い腰は、殿下に密着されている。


 こんな衆目のなかで王族にダンスを申し込まれて、それを断ること等許されるはずもなく。
 オスカーはロザリンドをランドール殿下に引き渡した。
『終わったら、直ぐに迎えに行くから』
 そう囁いて、彼女の背中に手を添えて。


 第2王子殿下に抱かれてくるくると廻るロザリンドを微妙な表情で見守る両親の顔が見え。 
 邪魔な義妹が居なくなったことで、ご令嬢方に囲まれているオスカーの頭が遠くに見えた。


 こんなはずじゃなかったのに。
 どうしてこうなった?
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