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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!
第21話
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その日はアビゲイルと、お互いに決定的な話をすることはなかった。
アビゲイルに貴女も転生したのか、と聞くことがどうしても出来なかった。
メインキャラのミシェルも、モブキャラのロザリンド(自分) も、ある日いきなり記憶が甦ったのだ。
もしかしたら、転生したのは自分達2人だけではないような気はしていた。
あのバスに乗っていた50人弱の人間が全員亡くなってしまったのか知る方法はないが、何人かは2人と同様に残念ながら命を落として、この世界に転生している可能性は高かったからだ。
既に前世の記憶が戻っているのに、自分と同じように口をつぐんでいる者が何人も居るのかも知れない。
それはずっと考えていたことだった。
ロザリンドがそれを確信したのは、ランドール王子殿下の存在が大きかった。
改めて彼の行動を振り返ると、彼も転生者だったのかもしれない、と思えた。
彼の母は、王妃の息子である王太子に成り代わろうと企てていたのだが、当のランドールはそれに乗らなかった。
計画が未遂に終わったこと、これ以降ランドールという駒を失った側妃に付くような貴族が現れないだろう事から、国王陛下はクロエ妃に対して、死罪ではなく離縁という罰を与えただけだった。
ホナミだった頃に歴史の授業で教わった古今東西のトップの継承を巡る骨肉の争いは、大抵がそれをひっくり返そうとした方が破れて、悲惨な最期を迎えている。
ロザリンド同様に、それを知るランドールは無用の兄弟の争いを避けようとして、己の支持者を失くすように動いていたのだろうか?
自ら遠国の後宮に赴いたのは、ランドールが持つ美貌と聡明な頭脳、それに加えて21世紀の知識があれば、女王の寵愛レースに勝てる勝算があったからだろうか?
既に出国したランドールに確かめる事はもう出来ないけれど。
享楽家で刹那的だと思われていた第2王子殿下は、全て計算の上で冷静に動いていた、とアビゲイルからも見えていた。
自分も母も死ぬことなく、王国を二分する争いに発展させることもなく、事を治めたランドール。
自分が考えていた登場人物なのに、彼等はもうそんな設定には収まらなくなってきている。
ウェズリーの主である第2王子が王家を離れること等、ホナミは書いていない。
もう原作者だった前世は忘れるつもりだった。
だが、転生者であることを隠しているアビゲイルとランドールの存在が、簡単にはそれをさせてくれなかった。
ヒロインのミシェルにしろ、特に重要ではないランドールにしろ。
前世の性格が影響しているのか、登場人物が思ってもみない行動を起こすようになってきて、新しい展開が始まってきている。
原作者だからと言って、この世界は楽勝ではない、とロザリンドは気を引き締めることにした。
◇◇◇
「はっきり言うけれど、ほとんどのおウチが釣書を返して欲しいと言って来ているわ。
まだのところもそう言ってくるのは時間の問題ね」
忌々しそうに母が嘆いた。
釣書とは、ロザリンドに申し込まれた縁談相手の自己紹介が綴られた書状だ。
あのデビュタントの夜の出来事が、コルテス兄妹の大立ち回りとして、王都中の噂になっていたのだ。
男性であるオスカーが王族相手(ランドールと彼の護衛2名) に拳を振るった事は、相手が最悪な評判の第2王子だったことも併せて、武勇伝として彼の人気に拍車をかけたが……
ご令嬢のロザリンドがパンチを放ってランドール王子殿下を意識朦朧とさせた事は、別の意味での一大スキャンダルになっていたのだった。
「オスカーが追い付くまで、どうして待てなかったのかしら?」
高位貴族のご令嬢のなさる所業とは思えない、と『狙い目』だと縁組みを申し込んできていた家門は、揃って撤回を申し入れてきていた。
「義母上、貞操がかかっていたのですよ?
ロージーが自らそれを守ろうとした事は立派ではないですか。
私はロージーの義兄であることが誇らしいです」
「……それは私もそうなのだけど。
結婚相手としての評判が地に落ちているようなのは事実よ」
「義母上に反論するつもりはありませんが、そのようにつまらない女性像を押し付けようとする相手など、こちらからお断りしても差し支えありませんね」
「そうだな、そんな奴等はこちらからお断りだ」
オスカーにしては珍しく母に自分の考えを主張してくれて、父もそれに同意したので、母は黙った。
父と義兄が自分の味方に付いてくれたからには、私は黙っていた方が良い、とロザリンドは判断した。
自分までもが何か言うと、母は孤立してしまう。
そしてそれは、ややこしい展開を呼ぶ。
しばらく家族全員が無言を続け。
ようやく気を取り直した母が今度はオスカーの話題を持ち出した。
「ロージーの縁組が決まらないと、小姑が居座る貴方の方もなかなか決まらないわよ」
「でしたら、ロージーに婿を取って後を継がせてください
この侯爵家が手に入るなら、引く手あまたになるのでは?」
(ちょ、ちょっと、お母様、お義兄様。
ここに、あなた方おふたりの目の前に本人がいるのに。
結構キツい事を言い合ってくれていますよね?)
アビゲイルに貴女も転生したのか、と聞くことがどうしても出来なかった。
メインキャラのミシェルも、モブキャラのロザリンド(自分) も、ある日いきなり記憶が甦ったのだ。
もしかしたら、転生したのは自分達2人だけではないような気はしていた。
あのバスに乗っていた50人弱の人間が全員亡くなってしまったのか知る方法はないが、何人かは2人と同様に残念ながら命を落として、この世界に転生している可能性は高かったからだ。
既に前世の記憶が戻っているのに、自分と同じように口をつぐんでいる者が何人も居るのかも知れない。
それはずっと考えていたことだった。
ロザリンドがそれを確信したのは、ランドール王子殿下の存在が大きかった。
改めて彼の行動を振り返ると、彼も転生者だったのかもしれない、と思えた。
彼の母は、王妃の息子である王太子に成り代わろうと企てていたのだが、当のランドールはそれに乗らなかった。
計画が未遂に終わったこと、これ以降ランドールという駒を失った側妃に付くような貴族が現れないだろう事から、国王陛下はクロエ妃に対して、死罪ではなく離縁という罰を与えただけだった。
ホナミだった頃に歴史の授業で教わった古今東西のトップの継承を巡る骨肉の争いは、大抵がそれをひっくり返そうとした方が破れて、悲惨な最期を迎えている。
ロザリンド同様に、それを知るランドールは無用の兄弟の争いを避けようとして、己の支持者を失くすように動いていたのだろうか?
自ら遠国の後宮に赴いたのは、ランドールが持つ美貌と聡明な頭脳、それに加えて21世紀の知識があれば、女王の寵愛レースに勝てる勝算があったからだろうか?
既に出国したランドールに確かめる事はもう出来ないけれど。
享楽家で刹那的だと思われていた第2王子殿下は、全て計算の上で冷静に動いていた、とアビゲイルからも見えていた。
自分も母も死ぬことなく、王国を二分する争いに発展させることもなく、事を治めたランドール。
自分が考えていた登場人物なのに、彼等はもうそんな設定には収まらなくなってきている。
ウェズリーの主である第2王子が王家を離れること等、ホナミは書いていない。
もう原作者だった前世は忘れるつもりだった。
だが、転生者であることを隠しているアビゲイルとランドールの存在が、簡単にはそれをさせてくれなかった。
ヒロインのミシェルにしろ、特に重要ではないランドールにしろ。
前世の性格が影響しているのか、登場人物が思ってもみない行動を起こすようになってきて、新しい展開が始まってきている。
原作者だからと言って、この世界は楽勝ではない、とロザリンドは気を引き締めることにした。
◇◇◇
「はっきり言うけれど、ほとんどのおウチが釣書を返して欲しいと言って来ているわ。
まだのところもそう言ってくるのは時間の問題ね」
忌々しそうに母が嘆いた。
釣書とは、ロザリンドに申し込まれた縁談相手の自己紹介が綴られた書状だ。
あのデビュタントの夜の出来事が、コルテス兄妹の大立ち回りとして、王都中の噂になっていたのだ。
男性であるオスカーが王族相手(ランドールと彼の護衛2名) に拳を振るった事は、相手が最悪な評判の第2王子だったことも併せて、武勇伝として彼の人気に拍車をかけたが……
ご令嬢のロザリンドがパンチを放ってランドール王子殿下を意識朦朧とさせた事は、別の意味での一大スキャンダルになっていたのだった。
「オスカーが追い付くまで、どうして待てなかったのかしら?」
高位貴族のご令嬢のなさる所業とは思えない、と『狙い目』だと縁組みを申し込んできていた家門は、揃って撤回を申し入れてきていた。
「義母上、貞操がかかっていたのですよ?
ロージーが自らそれを守ろうとした事は立派ではないですか。
私はロージーの義兄であることが誇らしいです」
「……それは私もそうなのだけど。
結婚相手としての評判が地に落ちているようなのは事実よ」
「義母上に反論するつもりはありませんが、そのようにつまらない女性像を押し付けようとする相手など、こちらからお断りしても差し支えありませんね」
「そうだな、そんな奴等はこちらからお断りだ」
オスカーにしては珍しく母に自分の考えを主張してくれて、父もそれに同意したので、母は黙った。
父と義兄が自分の味方に付いてくれたからには、私は黙っていた方が良い、とロザリンドは判断した。
自分までもが何か言うと、母は孤立してしまう。
そしてそれは、ややこしい展開を呼ぶ。
しばらく家族全員が無言を続け。
ようやく気を取り直した母が今度はオスカーの話題を持ち出した。
「ロージーの縁組が決まらないと、小姑が居座る貴方の方もなかなか決まらないわよ」
「でしたら、ロージーに婿を取って後を継がせてください
この侯爵家が手に入るなら、引く手あまたになるのでは?」
(ちょ、ちょっと、お母様、お義兄様。
ここに、あなた方おふたりの目の前に本人がいるのに。
結構キツい事を言い合ってくれていますよね?)
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