上 下
17 / 78
【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

第17話

しおりを挟む
 こうしてオスカーが次期侯爵としてオブライエン家に迎え入れられて、5年の歳月が過ぎた。

 彼の記憶では、1ヶ月後の仮面祭りでヒロインのミシェルと恋に落ちることになっていて……
 正直なところオスカーは、どうにかしてそれをなくすことは出来ないだろうかと、悩んでいたのだった。


 次期侯爵になるのだから早く婚約者を決めたい、と急かす義理の両親(特に義母) には、学苑を卒業してからとお願いした。
『周囲に後継はこいつで大丈夫と、認めて貰える成績を取りますので』と、もっともらしい理由をつけたが、本当はミシェルとのラブ展開のせいだ。
 決められた運命がそうさせるのなら、下手に婚約者など作って泣かせることはしたくなかった。


 俺はあのミシェルの恋人になんか、なりたくない。
 それがオスカーの本音だ。


 自分がオスカーに転生した以上は、逃れられない事なのだろうか?
 異世界転生、異世界恋愛がテーマのマンガを主にしたコミック誌の編集者だったので、『物語の強制力』については知っている。



 この『乙女は愛を知って花開く~底辺令嬢ですが王太子殿下に溺愛されています?~』(略して『乙花』) は、ヒロインのミシェルがフライ男爵家に引き取られ、王立貴族学苑に入学するところから始まるので、彼が15歳で高等部に進学するまでは、ミシェルは現れない。


 それでストーリーを気にすることなく過ごすことが出来たので、オスカーは出来ればこのままで、ミシェルと関わることなく居たかったのだ。
 何故なら、ミカミヒロキは物語のヒロインが好きではなかったから。

 明るく健気な設定のせいか、『今、笑うとこじゃないよね?』な場面でも笑っているヒロインだった。
 始めはオスカーも令嬢達から邪険にされているミシェルを守るべきかと思ったのだが、ウェズリーや他の攻略対象者達が次々と彼女の盾になり始めたので俺はいいよな、と静観することにした。


 ミシェルから離れて、彼女を観察してみると『私はいいこでしょ』アピールが鼻についた。
 ウェズリーと別れてからは、作り笑いが減って少し雰囲気も変わったが、苦手なタイプなのは変わらない。


 ホントに俺はこんな女と、運命の恋に落ちてしまうのか?
 テンプレの逆ハーヒロインなんて、どれだけ見た目が良かろうと全然タイプじゃない。


 婚約者が居ようと、身分の違いがあろうと、お構いなしに距離を詰める女。
 他人のコンプレックスを頼んでもないのに指摘して、理解者の顔をする女。

 ミカミからすると、自分は愛してもいない癖に男達に囲まれて逆ハーレムを作るミシェルは、実際には関わりたくないヒロインだったのだ。


 だからこそ。
 原作者のホナミには第1章はテンプレで。
 第2章からはそれをひっくり返しませんか?と提案したのだった。

 チカ先生はミカミの提案に、面白いと言ってくれたが。
 肝心のホナミは考え込んでしまった。


「ファンになってくださった方達が離れていくんじゃ?」

「別にミシェルに辛い思いをさせるのではありません。
愛される一方の受け身のヒロインから、愛を求めてアクティブに行動するヒロインに成長させるんです」

 王太子とオスカーの両方から愛されて揺れ惑うヒロインではなく。
 最初はガンガン王太子にアタックするが、相手を間違っていたと知るや、彼の手を振り切って、オスカーの元に走るヒロインにしましょう、とミカミは力説した。


「そんな変わり身の早いヒロインなんて、燃えそうじゃないですか……」


 ホナミは原作者なのに、ミカミに反対する時や注文をつける時も遠慮がちに言う。
 それがいつも、ミカミにはやりきれない思いをさせていることを、勿論ホナミ自身は気付いていない。


『俺を怒らせる心配なんかしないでいいよ』と言いたかった。
『腹を立てた男が皆、女性に手をあげる訳じゃありませんよ』と。



 初めての顔合わせの日、カフェオレを飲む為にホナミがマスクをずらしたので口元の傷が見えた。


『カップル間のあれこれなんだから、こっちからは何も聞けないよ。
 ミカミさんも見て見ぬふりをして』

 手洗いに彼女が立った後、隣に居たチカ先生がミカミに注意をした。


 ホナミと会うたびに、密かに彼女の傷を確認した。
 以前より数が増えていると、見えない場所はどれ程酷いのか、と怒りがこみあげて。
 減っていると他人事なのに安堵した。


 ホナミに対するその気持ちが愛なのか、判断は付かなかったが。
 彼女をどうにかして救えないかと思っていた。
 彼女の方から相談なりしてくれたら、直ぐに動けるようにDVの救済関連を検索していた。
 そんな男から離れてしまえばいい、と言ってしまいそうな自分を抑えていた。


 彼女はどうなったのだろうか?
 事故ったバスから無事に助け出されたのだろうか?
 そして、殴る男から逃れることは出来ただろうか?



 もし、君もこの世界に転生しているなら。
 君が理想だと言っていたオスカーに、俺はなれたよ。
 もし、君に巡り合えたなら。
 今世こそ、その手を取ることが出来るだろうか……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者が竜騎士候補に混ざってる

五色ひわ
恋愛
 今回の竜騎士選定試験は、竜人であるブルクハルトの相棒を選ぶために行われている。大切な番でもあるクリスティーナを惹かれるがままに竜騎士に選んで良いのだろうか?   ブルクハルトは何も知らないクリスティーナを前に、頭を抱えるしかなかった。  本編24話→ブルクハルト目線  番外編21話、番外編Ⅱ25話→クリスティーナ目線

【完結】黒ヒゲの七番目の妻

みねバイヤーン
恋愛
「君を愛することはない」街一番の金持ちと結婚することになったアンヌは、初夜に夫からそう告げられた。「君には手を出さない。好きなように暮らしなさい。どこに入ってもいい。でも廊下の奥の小さな部屋にだけは入ってはいけないよ」 黒ヒゲと呼ばれる夫は、七番目の妻であるアンヌになんの興味もないようだ。 「役に立つところを見せてやるわ。そうしたら、私のこと、好きになってくれるかもしれない」めげない肉食系女子アンヌは、黒ヒゲ夫を落とすことはできるのか─。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ

春ことのは
恋愛
深夜、高熱に魘されて目覚めると公爵令嬢エリザベス・グリサリオに転生していた。 エリザベスって…もしかしてあのベストセラー小説「悠久の麗しき薔薇に捧ぐシリーズ」に出てくる悪役令嬢!? この先、王太子殿下の婚約者に選ばれ、この身を王家に捧げるべく血の滲むような努力をしても、結局は平民出身のヒロインに殿下の心を奪われてしまうなんて… しかも婚約を破棄されて毒殺? わたくし、そんな未来はご免ですわ! 取り急ぎ殿下との婚約を阻止して、わが公爵家に縁のある殿方達から婚約者を探さなくては…。 __________ ※2023.3.21 HOTランキングで11位に入らせて頂きました。 読んでくださった皆様のお陰です! 本当にありがとうございました。 ※お気に入り登録やしおりをありがとうございます。 とても励みになっています! ※この作品は小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました

和泉杏咲
恋愛
HOTランキング(女性向け)入りありがとうございました……(涙) ヒーローのあだ名が「チンアナゴ」になった作品、2023/9/1に完結公開させていただきました。 小学生レベルの下ネタも、お色気な下ネタもあるR15ぎりぎりの作品になっております。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー そこそこの財産を持ち、そこそこの生活ができるけど、貴族社会では1番下のブラウニー男爵家の末娘、リーゼ・ブラウニーは、物心ついた頃から読み込んでしまった恋愛小説(ちょっぴりエッチ)の影響で、男女問わず「カップリング」を勝手に作っては妄想するようになってしまった。 もちろん、将来の夢は恋愛小説(ちょっぴりエッチ)を書く作家。 娘を溺愛する両親や兄達も、そこそこの財産があればスタンスなので、リーゼを無理に嫁がせる気はなし。 そんなリーゼが今最も推しているのは、眉目秀麗文武両道で評判のエドヴィン王子と、王子の婚約者候補ナンバー1と言われる公爵令嬢アレクサンドラのカップル。 「早く結婚すればいいのに。結婚式はぜひ遠目で眺めて、それを元に小説書いてデビューしたい」 そんな風にリーゼは胸をときめかせていた。 ところがある日、リーゼの元に何故か「王子の婚約者選抜試験」の知らせが届く。 自分の元に来る理由が分からず困惑したものの 「推しカプを間近で眺める絶好のチャンス!」 と、観光気分で選抜試験への参加を決意する。 ところが、気がついた時には全裸で知らない部屋のベッドに寝かされていた……!? しかも、その横にはあろうことかエドヴィン王子が全裸で寝ていて……。 「やっとお前を手に入れた」 と言ってくるエドヴィン王子だったが 「冗談じゃない!私とのカップリングなんて萌えない、断固拒否!」 と逃げ帰ったリーゼ。 その日からエドヴィン王子から怒涛のアプローチが始まるだけでなく、妊娠も発覚してしまい……? この話は「推しカプ至上主義!(自分以外)」のリーゼと、「リーゼと結婚するためなら手段を選ばない」エドヴィン王子の間で巻き起こる、ラブバトルコメディだったりする……。 <登場人物> リーゼ・ブラウニー  男爵令嬢 18歳 推しカプに人生を捧げる決意をした、恋愛小説家志望。 自分と他人のカップリングなんて見たくもないと、全力で全否定をする。推しに囲まれたいという思いだけで絵画、彫刻、工作、裁縫をマスターし、日々推しを持ち歩ける何かをせっせと作っている。 エドヴィン  王子 18歳 パーティーで知り合ったリーゼ(ただしリーゼ本人は全く覚えていない)に一目惚れしてから、どうすればリーゼと結婚できるか、しか頭になかった、残念すぎるイケメン王子。

乙女ゲームのモブ令嬢に転生したので、カメラ片手に聖地巡礼しようと思います。

見丘ユタ
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公であったが、転生先はメインキャラではなくモブ令嬢、ミレディだった。 モブならモブなりに、せっかくのゲーム世界を楽しもう、とミレディは聖地巡礼と称し、カメラ片手にヒロインたちの恋模様を堪能するのだった。

【完結】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、本気になった当て馬義兄に溺愛されています

廻り
恋愛
魔女リズ17歳は、前世の記憶を持ったまま、小説の世界のヒロインへ転生した。 隣国の王太子と結婚し幸せな人生になるはずだったが、リズは前世の記憶が原因で、火あぶりにされる運命だと悟る。 物語から逃亡しようとするも失敗するが、義兄となる予定の公子アレクシスと出会うことに。 序盤では出会わないはずの彼が、なぜかリズを助けてくれる。 アレクシスに問い詰められて「公子様は当て馬です」と告げたところ、彼の対抗心に火がついたようで。 「リズには、望みの結婚をさせてあげる。絶対に、火あぶりになどさせない」 妹愛が過剰な兄や、彼の幼馴染達に囲まれながらの生活が始まる。 ヒロインらしくないおかげで恋愛とは無縁だとリズは思っているが、どうやらそうではないようで。

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

処理中です...