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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!
第11話
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『こんな世界に来たくて来たんじゃない』と、ミシェルは言っていた。
元々はセレブだった、とも言っていた。
前世の彼女は多分幸せなリア充だったのだろう……
だが、『本当は王太子と恋に落ちるから』と、恋人だったウェズリーを捨てた。
彼女は納得出来ないながらも、ちゃんとストーリー通りに進める気があるのだと思った。
「食堂での事、聞いたよ
大丈夫?」
帰りの馬車で。
オスカーに気遣われた。
誰かに教えられたのだろう。
「はい。大丈夫です」
最近はこんな会話ばっかりだと、思いながらロザリンドは答えた。
大丈夫? と、オスカーが聞いて
大丈夫ですと、自分が答えて。
婚約破棄が心の傷になどなっていないと、オスカーにきちんと伝えないといけないな……
「ウェズリーが君を庇ったらしいね?
あいつ、まだ君の事を諦めていないみたいだな」
「いいえ、お義兄様にお伝えした方からはそう見えただけで……
私じゃなくてミシェル様を庇ったのです」
ロザリンドがきっぱりはっきりとそう断言したので、オスカーはその話を続けるのは止めた。
そして、本日の授業や友人の話を始めたので、ロザリンドは相槌を打ったり、笑ったりした。
◇◇◇
もう、自分が作者であった前世に囚われるのはやめよう
そうロザリンドは決意した。
自分はこの秘密を誰にも言わず、ロザリンドとして生きるのだ。
侯爵令嬢として相応しい人生を全うしよう。
不本意な転生をしてしまったミシェルには申し訳ないけれど、私はあの男から逃げることが出来た。
申し分ない家族と、目と心の保養の推しが居て。
今の自分に何の文句があろうか。
この世界に、私が理想を求めた世界に。
転生させてくださってありがとうございます!と何処かにいらっしゃる転生の神様に、感謝を捧げたい位だった。
この世界に転生する時、つまり事故の起こった当時までに公開されていたのは、第1章までだ。
その第1章最終話でヒロインが恋をしたのは王太子ではなく、オスカーだと読者は知るのだが。
転生したミシェルがその事を知らず、自分の恋の相手は王太子殿下だと思い込んでいるのは何故だろう、とロザリンドは不思議だった。
その辺りの記憶が曖昧で、どうしても思い出せない。
……それでつい、彼女は欲張りになってしまった。
もしも……転生物でよくある、いわゆる物語の強制力が公開されていた箇所までしか効かないのなら。
何らかの事情で第1章最終話が公開されていなかったなら。
ミシェルとオスカーの燃えるような恋は始まらない。
仮面祭りの一夜だけの出来事で、終われるかもしれない。
そもそも強制力なんかも、なかったら?
オスカーが祭りの夜、城下に出かけることを私が阻止したら?
一夜の出来事さえも、なかったことに出来ないかしら?
ミシェルは祭りに出かけ、お忍びで遊びに来ている王太子アーノルド殿下に接触しようとがんばるだろう。
それが成功するか失敗するかはわからないけれど、オスカーとは出会わない。
自分でも酷い女だと思う。
だけど私はやはりオスカーをミシェルに取られたくないのだ。
あの食堂での騒動がなければ、複雑な気持ちのままオスカーを送り出したと思う。
尊い推しの幸せを一番に考えて、涙をこらえて微笑みを浮かべ送り出しただろう。
だが、実際のミシェルに会ってみて。
自分の思い描いたヒロイン像とはかけはなれたミシェルには反発心しか持てなかった。
大好きなオスカーがミシェルを抱き締めて愛を囁く、なんて考えたくもなかった。
考え無しにこの世界の何人かに、自分が転生者であり、男爵令嬢にとっては雲の上の存在である王太子殿下が恋人になるのだ、とペラペラと話してしまったミシェル。
そんな軽はずみな彼女がオスカーに相応しいなんて認められなかった。
一夜の恋の相手が本当はオスカーだ、とミシェルは知らない。
だから、それを奪っても……
知らないんだから彼女は傷つかないよね?
ロザリンドは無理矢理にでも、そう思い込むことにした。
自作のヒロインが真の幸せを掴むはずだった物語を、続けないことを作者が決めたのだ……
……罪悪感に苛まれながら。
元々はセレブだった、とも言っていた。
前世の彼女は多分幸せなリア充だったのだろう……
だが、『本当は王太子と恋に落ちるから』と、恋人だったウェズリーを捨てた。
彼女は納得出来ないながらも、ちゃんとストーリー通りに進める気があるのだと思った。
「食堂での事、聞いたよ
大丈夫?」
帰りの馬車で。
オスカーに気遣われた。
誰かに教えられたのだろう。
「はい。大丈夫です」
最近はこんな会話ばっかりだと、思いながらロザリンドは答えた。
大丈夫? と、オスカーが聞いて
大丈夫ですと、自分が答えて。
婚約破棄が心の傷になどなっていないと、オスカーにきちんと伝えないといけないな……
「ウェズリーが君を庇ったらしいね?
あいつ、まだ君の事を諦めていないみたいだな」
「いいえ、お義兄様にお伝えした方からはそう見えただけで……
私じゃなくてミシェル様を庇ったのです」
ロザリンドがきっぱりはっきりとそう断言したので、オスカーはその話を続けるのは止めた。
そして、本日の授業や友人の話を始めたので、ロザリンドは相槌を打ったり、笑ったりした。
◇◇◇
もう、自分が作者であった前世に囚われるのはやめよう
そうロザリンドは決意した。
自分はこの秘密を誰にも言わず、ロザリンドとして生きるのだ。
侯爵令嬢として相応しい人生を全うしよう。
不本意な転生をしてしまったミシェルには申し訳ないけれど、私はあの男から逃げることが出来た。
申し分ない家族と、目と心の保養の推しが居て。
今の自分に何の文句があろうか。
この世界に、私が理想を求めた世界に。
転生させてくださってありがとうございます!と何処かにいらっしゃる転生の神様に、感謝を捧げたい位だった。
この世界に転生する時、つまり事故の起こった当時までに公開されていたのは、第1章までだ。
その第1章最終話でヒロインが恋をしたのは王太子ではなく、オスカーだと読者は知るのだが。
転生したミシェルがその事を知らず、自分の恋の相手は王太子殿下だと思い込んでいるのは何故だろう、とロザリンドは不思議だった。
その辺りの記憶が曖昧で、どうしても思い出せない。
……それでつい、彼女は欲張りになってしまった。
もしも……転生物でよくある、いわゆる物語の強制力が公開されていた箇所までしか効かないのなら。
何らかの事情で第1章最終話が公開されていなかったなら。
ミシェルとオスカーの燃えるような恋は始まらない。
仮面祭りの一夜だけの出来事で、終われるかもしれない。
そもそも強制力なんかも、なかったら?
オスカーが祭りの夜、城下に出かけることを私が阻止したら?
一夜の出来事さえも、なかったことに出来ないかしら?
ミシェルは祭りに出かけ、お忍びで遊びに来ている王太子アーノルド殿下に接触しようとがんばるだろう。
それが成功するか失敗するかはわからないけれど、オスカーとは出会わない。
自分でも酷い女だと思う。
だけど私はやはりオスカーをミシェルに取られたくないのだ。
あの食堂での騒動がなければ、複雑な気持ちのままオスカーを送り出したと思う。
尊い推しの幸せを一番に考えて、涙をこらえて微笑みを浮かべ送り出しただろう。
だが、実際のミシェルに会ってみて。
自分の思い描いたヒロイン像とはかけはなれたミシェルには反発心しか持てなかった。
大好きなオスカーがミシェルを抱き締めて愛を囁く、なんて考えたくもなかった。
考え無しにこの世界の何人かに、自分が転生者であり、男爵令嬢にとっては雲の上の存在である王太子殿下が恋人になるのだ、とペラペラと話してしまったミシェル。
そんな軽はずみな彼女がオスカーに相応しいなんて認められなかった。
一夜の恋の相手が本当はオスカーだ、とミシェルは知らない。
だから、それを奪っても……
知らないんだから彼女は傷つかないよね?
ロザリンドは無理矢理にでも、そう思い込むことにした。
自作のヒロインが真の幸せを掴むはずだった物語を、続けないことを作者が決めたのだ……
……罪悪感に苛まれながら。
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