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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!
第8話
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侍女長のマーシアが先立ち、ロザリンドの私室の扉を開いた。
彼女が素早く整えられたベッドの上掛けをめくると、そこに丁寧かつ慎重にオスカーは義妹を横たえた。
羽毛枕に広がった彼女の黒髪を優しい手つきで整える。
「気分はどう?」
「悪くはないです、ありがとうございます……」
ベッドの側にメイドが椅子を持ってきたので、オスカーはそれに座り、ロザリンドの手を取った。
「あいつに、ウェズリーに……何かされた?」
ウェズリーは多分これから皆に吊し上げられるだろう。
この婚約も、彼の有責で破棄になるかも。
それは全然構わなかったが、これだけは言っておいてあげよう。
「いいえ、何もされてはおりません。
私が気を失ったのを支えてくれていただけです」
あの時は殴られるかもと、思った。
今から思うと、ウェズリーと思い出したくもなかった男が瞬間重なったのだろう。
早く逃げなくてはと、慌てた時に『それ』に襲われたのだ。
まさしく、襲われるようだった。
頭の中に色々な情景が浮かんで消えて、何人もの人間の顔が流れて。
吐き気を催すほどの膨大な情報量を受け止められなくて、シャットダウンした感じで、ロザリンドは意識を失った。
だが今は落ち着いて。
『それ』を、受け入れつつある。
それも貴方のおかげだと、オスカーに告げたかった。
貴方が抱いてくれていたから、私は。
そう言葉にしない代わりに、ロザリンドはオスカーの手をぎゅっと握った。
ウェズリーがロザリンドを殴るつもりじゃなかったのは、今ならわかる。
彼は自分が考えたキャラクターだ。
この物語には、女性を殴る男はひとりも登場させていないからだ。
彼は考えなしの馬鹿者だけど、その疑いだけは晴らしておいてあげようと、ロザリンドは思った。
「わかった、その事は義父上に申し上げておくよ。
ウェズリーについて君の気持ちを話せるなら、話してくれないかな」
「……もう、彼との婚約は無しにしていただけたら嬉しいです」
ウェズリーは決して悪い人ではないけれど。
ロザリンドを愛していないもの。
彼は、ミシェルに心を捧げたひと。
記憶が戻った今となれば、貴族階級あるあるの愛のない結婚など真っ平だ。
「その事も伝えていいね?」
オスカーが確認してきたので、ロザリンドはうなづいた。
さようなら、ウェズリー。
私はこれから(仮面祭りの夜まで) オスカー義兄様に一筋だから!
あんたなんか、要らないの!
その後、ロザリンド・オブライエン・コルテス侯爵令嬢と、ウェズリー・ノース・ラザフォード侯爵令息の婚約は、ラザフォード侯爵令息の有責による破棄が決定された。
◇◇◇
そして2ヶ月が過ぎ、季節は秋になりロザリンドは王立貴族学苑に入学した。
コルテス侯爵家の兄妹には共に婚約者が居ない状態となり、それは多くの貴族家門の、『狙い目』となった。
ふたりに対して何通もの釣書やお茶会、夜会の招待状が届けられた。
それらの選別は全て彼等の母、コルテス侯爵夫人が行った。
ウェズリーとロザリンドの破談も決定したのは、この母だった。
ロザリンドが倒れた日、侯爵夫人はとある伯爵家のお茶会に出席していて、
娘が倒れた報せを早馬で知らされた。
自分が出掛ける時に丁度、娘の婚約者と玄関ホールで会ったので軽く挨拶を交わした。
幼い頃から馴染んでいるウェズリーを彼女は信用していた。
だから慌てて邸に帰るコルテス侯爵夫人を見送るために中座して、動転していた彼女に耳打ちしたホステスの伯爵夫人の言葉が信じられなかった。
「ラザフォード侯爵令息のお噂ご存知でしょうか?」と。
伯爵夫人は尚も続けた。
「娘から聞いたのです。
ロザリンド嬢が随分気に病まれているようだ、と。
お倒れになったのは、その事が原因では?」
最初は今回のウェズリーの『たかが気の迷い』で、破談にするつもりは当主のコルテス侯爵にはなかったが、妻の意見でそれは決定された。
「悪気なく浮気をする男は、必ず何度でも繰り返すのです」
ウェズリーは悪気のない男だから、と彼を庇う発言をした侯爵に、そう言いきった侯爵夫人の口調は冷たさを通り越して、何の感情も読み取れなかった。
彼女が素早く整えられたベッドの上掛けをめくると、そこに丁寧かつ慎重にオスカーは義妹を横たえた。
羽毛枕に広がった彼女の黒髪を優しい手つきで整える。
「気分はどう?」
「悪くはないです、ありがとうございます……」
ベッドの側にメイドが椅子を持ってきたので、オスカーはそれに座り、ロザリンドの手を取った。
「あいつに、ウェズリーに……何かされた?」
ウェズリーは多分これから皆に吊し上げられるだろう。
この婚約も、彼の有責で破棄になるかも。
それは全然構わなかったが、これだけは言っておいてあげよう。
「いいえ、何もされてはおりません。
私が気を失ったのを支えてくれていただけです」
あの時は殴られるかもと、思った。
今から思うと、ウェズリーと思い出したくもなかった男が瞬間重なったのだろう。
早く逃げなくてはと、慌てた時に『それ』に襲われたのだ。
まさしく、襲われるようだった。
頭の中に色々な情景が浮かんで消えて、何人もの人間の顔が流れて。
吐き気を催すほどの膨大な情報量を受け止められなくて、シャットダウンした感じで、ロザリンドは意識を失った。
だが今は落ち着いて。
『それ』を、受け入れつつある。
それも貴方のおかげだと、オスカーに告げたかった。
貴方が抱いてくれていたから、私は。
そう言葉にしない代わりに、ロザリンドはオスカーの手をぎゅっと握った。
ウェズリーがロザリンドを殴るつもりじゃなかったのは、今ならわかる。
彼は自分が考えたキャラクターだ。
この物語には、女性を殴る男はひとりも登場させていないからだ。
彼は考えなしの馬鹿者だけど、その疑いだけは晴らしておいてあげようと、ロザリンドは思った。
「わかった、その事は義父上に申し上げておくよ。
ウェズリーについて君の気持ちを話せるなら、話してくれないかな」
「……もう、彼との婚約は無しにしていただけたら嬉しいです」
ウェズリーは決して悪い人ではないけれど。
ロザリンドを愛していないもの。
彼は、ミシェルに心を捧げたひと。
記憶が戻った今となれば、貴族階級あるあるの愛のない結婚など真っ平だ。
「その事も伝えていいね?」
オスカーが確認してきたので、ロザリンドはうなづいた。
さようなら、ウェズリー。
私はこれから(仮面祭りの夜まで) オスカー義兄様に一筋だから!
あんたなんか、要らないの!
その後、ロザリンド・オブライエン・コルテス侯爵令嬢と、ウェズリー・ノース・ラザフォード侯爵令息の婚約は、ラザフォード侯爵令息の有責による破棄が決定された。
◇◇◇
そして2ヶ月が過ぎ、季節は秋になりロザリンドは王立貴族学苑に入学した。
コルテス侯爵家の兄妹には共に婚約者が居ない状態となり、それは多くの貴族家門の、『狙い目』となった。
ふたりに対して何通もの釣書やお茶会、夜会の招待状が届けられた。
それらの選別は全て彼等の母、コルテス侯爵夫人が行った。
ウェズリーとロザリンドの破談も決定したのは、この母だった。
ロザリンドが倒れた日、侯爵夫人はとある伯爵家のお茶会に出席していて、
娘が倒れた報せを早馬で知らされた。
自分が出掛ける時に丁度、娘の婚約者と玄関ホールで会ったので軽く挨拶を交わした。
幼い頃から馴染んでいるウェズリーを彼女は信用していた。
だから慌てて邸に帰るコルテス侯爵夫人を見送るために中座して、動転していた彼女に耳打ちしたホステスの伯爵夫人の言葉が信じられなかった。
「ラザフォード侯爵令息のお噂ご存知でしょうか?」と。
伯爵夫人は尚も続けた。
「娘から聞いたのです。
ロザリンド嬢が随分気に病まれているようだ、と。
お倒れになったのは、その事が原因では?」
最初は今回のウェズリーの『たかが気の迷い』で、破談にするつもりは当主のコルテス侯爵にはなかったが、妻の意見でそれは決定された。
「悪気なく浮気をする男は、必ず何度でも繰り返すのです」
ウェズリーは悪気のない男だから、と彼を庇う発言をした侯爵に、そう言いきった侯爵夫人の口調は冷たさを通り越して、何の感情も読み取れなかった。
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