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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!
第6話
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ただ彼から……シュウジから。
解放されたい、そう願っていた。
目的の温泉地まで後1時間くらいです、とミカミがトイレ休憩で寄ったSAで言ったので、到着するまで眠ることにした。
バスに揺られると眠くなる質だったが、ファンの方達が居るのに眠るわけにいかない、と我慢していたのだ。
「もう到着だけですし、着いたら着いたで各部屋をチカ先生と挨拶に回っていただきますので、1時間だけですけど、ゆっくりお休みになってくださいね」
カフェオレのカップをホナミに差し出しながらミカミが微笑んだ。
マスクをしているので、微笑んでいるのか本当はわからなかったが、見えているメガネの奥の瞳は優しげに細められていた。
ミルクや砂糖の増減を設定出来る自販機のカフェオレだが、その味はホナミの好みにドンピシャで。 そのカフェオレの甘さと温かさがホナミの気持ちを和らげていく。
シュウジから1泊だけでも離れて眠れることが嬉しかった。
最初はホナミの言動に腹立ちを見せたシュウジだったが、近頃は彼女に関係のない仕事や人間関係の鬱憤をホナミにぶつけるようになってきていたから。
それでホナミは眠った……深く深く。
いきなりの衝撃に、目を覚ますまで。
◇◇◇
自分は死んだのだ、とロザリンドは思った。
重い瞼を開いた目の前に彼が居たから。
チカ先生の渾身のイケメン。
オスカー・オブライエン・コルテス。
私の理想の男。
上辺だけの優しさじゃない。
薄っぺらな美しさじゃない。
言葉だけの強さじゃない……
「ロージー、大丈夫か?」
オスカーの紫の瞳が心配げに揺れていた。
あぁ、いい……オスカー。
貴方、声も良いわね。
アニメ化の話なんてなかったけど、もしそうなったら貴方の声はこんな感じ、と想像していた声優さんが居たけれど、今の貴方の声はその人より合ってるわ。
いいなぁ、最高ね……
死にたくない、といつも暴力の中で思っていたけど。
貴方に抱かれているなんて、こんな最高なシチュエーション、私は死んでしまって。
ここが天国だからなのね。
「ロージー! 良かった! 気がついたんだね!」
ロザリンドはうっとりと目の前のオスカーを見つめていたかったのに、横から声がしたので、仕方なくそちらを見た。
(あ、あら、このキャラは……)
ヒロインのミシェルの攻略対象者で、ロザリンド・オブライエン・コルテスの婚約者、ウェズリー。
チカ先生には『顔だけの男ね』と、一言で片付けられたウェズリー・ノース・ラザフォード。
そして、ロザリンドは思い出した。
ウェズリーとの一連の出来事を。
彼から殴られるかも知れないと、パニックになり逃げようとして、腕を掴まれて。
その途端に脳内に、様々な記憶や情報が流れ込んできて、その波を処理できなくて意識を手放したこと。
自分も何度となく使用したのに、現実にはあり得ないと思っていた設定だった。
『異世界転生』
自分が自分の作品の、お気に入りキャラのオスカーの義妹で、モブキャラのロザリンドに転生したのだ、と気が付いた。
「お、お義兄様……」
「大丈夫か? 何処か痛みがあったり、苦しいところはないか?」
「はい、大丈夫です……」
自分が作ったキャラなのに、オスカーは一番の推しだ。
ロザリンドの自分は義妹だが、こんなに彼に抱き締められた事などないし、これからもないだろう。
こんな機会はもう二度とない。
ロザリンドは弱々しく微笑んで見せた。
オスカーが安心させるように頷きながら彼女の頬に掌を沿わせて、瞳を覗き込んできた。
そのあまりの身近なドアップの破壊力に、くらくらしてロザリンドは息が止まりそうになった。
好き、大好き!
ぎゅっとして! キスして!
解放されたい、そう願っていた。
目的の温泉地まで後1時間くらいです、とミカミがトイレ休憩で寄ったSAで言ったので、到着するまで眠ることにした。
バスに揺られると眠くなる質だったが、ファンの方達が居るのに眠るわけにいかない、と我慢していたのだ。
「もう到着だけですし、着いたら着いたで各部屋をチカ先生と挨拶に回っていただきますので、1時間だけですけど、ゆっくりお休みになってくださいね」
カフェオレのカップをホナミに差し出しながらミカミが微笑んだ。
マスクをしているので、微笑んでいるのか本当はわからなかったが、見えているメガネの奥の瞳は優しげに細められていた。
ミルクや砂糖の増減を設定出来る自販機のカフェオレだが、その味はホナミの好みにドンピシャで。 そのカフェオレの甘さと温かさがホナミの気持ちを和らげていく。
シュウジから1泊だけでも離れて眠れることが嬉しかった。
最初はホナミの言動に腹立ちを見せたシュウジだったが、近頃は彼女に関係のない仕事や人間関係の鬱憤をホナミにぶつけるようになってきていたから。
それでホナミは眠った……深く深く。
いきなりの衝撃に、目を覚ますまで。
◇◇◇
自分は死んだのだ、とロザリンドは思った。
重い瞼を開いた目の前に彼が居たから。
チカ先生の渾身のイケメン。
オスカー・オブライエン・コルテス。
私の理想の男。
上辺だけの優しさじゃない。
薄っぺらな美しさじゃない。
言葉だけの強さじゃない……
「ロージー、大丈夫か?」
オスカーの紫の瞳が心配げに揺れていた。
あぁ、いい……オスカー。
貴方、声も良いわね。
アニメ化の話なんてなかったけど、もしそうなったら貴方の声はこんな感じ、と想像していた声優さんが居たけれど、今の貴方の声はその人より合ってるわ。
いいなぁ、最高ね……
死にたくない、といつも暴力の中で思っていたけど。
貴方に抱かれているなんて、こんな最高なシチュエーション、私は死んでしまって。
ここが天国だからなのね。
「ロージー! 良かった! 気がついたんだね!」
ロザリンドはうっとりと目の前のオスカーを見つめていたかったのに、横から声がしたので、仕方なくそちらを見た。
(あ、あら、このキャラは……)
ヒロインのミシェルの攻略対象者で、ロザリンド・オブライエン・コルテスの婚約者、ウェズリー。
チカ先生には『顔だけの男ね』と、一言で片付けられたウェズリー・ノース・ラザフォード。
そして、ロザリンドは思い出した。
ウェズリーとの一連の出来事を。
彼から殴られるかも知れないと、パニックになり逃げようとして、腕を掴まれて。
その途端に脳内に、様々な記憶や情報が流れ込んできて、その波を処理できなくて意識を手放したこと。
自分も何度となく使用したのに、現実にはあり得ないと思っていた設定だった。
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自分が自分の作品の、お気に入りキャラのオスカーの義妹で、モブキャラのロザリンドに転生したのだ、と気が付いた。
「お、お義兄様……」
「大丈夫か? 何処か痛みがあったり、苦しいところはないか?」
「はい、大丈夫です……」
自分が作ったキャラなのに、オスカーは一番の推しだ。
ロザリンドの自分は義妹だが、こんなに彼に抱き締められた事などないし、これからもないだろう。
こんな機会はもう二度とない。
ロザリンドは弱々しく微笑んで見せた。
オスカーが安心させるように頷きながら彼女の頬に掌を沿わせて、瞳を覗き込んできた。
そのあまりの身近なドアップの破壊力に、くらくらしてロザリンドは息が止まりそうになった。
好き、大好き!
ぎゅっとして! キスして!
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