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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

第1話

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「君は転生って、言葉を知っている?」

 ロザリンドの目の前の男が彼女に聞いた。


「て、転生?」

 生まれて初めて聞く言葉だった。


 男の名前はウェズリー。
 薄茶の柔らかな髪と同じく、柔和な水色の瞳の若者。
 正直なところ、彼はロザリンドの好みからすると優男過ぎるが、ロザリンドの婚約者。


 ウェズリーはルーランド王国コルテス侯爵オブライエン家長女のロザリンドに相応しい家格のラザフォード侯爵ノース家の嫡男だった。


 両侯爵家は共に王家主導のとある事業に関わっていたので、ふたりの婚約は政略と言われれば、そうであるとも言えたが。
 かと言って、この婚約がなければ事業が立ち行かなくなる程でもなかったので、政略婚とも言いきれないものであった。


 両家は何代にも渡り付き合いがあり、ロザリンドとウェズリーは幼馴染みであり、年齢差も実家の爵位も財力もうまい具合に釣り合いが取れているとして。
 なんとなく、そうなんとなーく緩い感じで結ばれた婚約だったのだ。


 ウェズリーはロザリンドより2歳年上で、当然彼女より2年早く王立貴族学苑に入学していた。
 そこで彼は真に愛するひとと出会ったのだ、と正式な婚約者であるロザリンドに淡々と話してみせた。


 ウェズリーはそんな肝心なことを、2年間彼女に黙っていたのだが、ロザリンドの入学が間近に迫ってきたので、とうとう告白することにしたようだった。


 婚約が決まった経緯も緩かったが、本人達の意識も緩い。
 ごく普通の自分の日常を報告するような調子でウェズリーはその話をした。
 そして、聞かされたロザリンドもまた、彼の不貞に関しては嫉妬を感じることもなかった。

 ただただ、ウェズリーに対して
『やっと言うことにしたのか』と苦々しく思っただけだ。


 約束なしで訪れたウェズリーは、メイドがお茶を入れると追い払うように下がらせて。

 ……後から思い返すと、その辺りからロザリンドは名ばかりの婚約者にモヤっていたのかも知れない。

 ウチのメイドに偉そうにしやがって、と。


 ◇◇◇


 実を言えば、既にロザリンドは知っていた。
 婚約者の浮気や不貞は、お茶会での皆の格好の話題だ。 

 ロザリンドは入学前だが、高位貴族の令嬢が集まるお茶会には招かれる年齢となっていたのだ。

 そして。
 そのお茶会の席で。
 ロザリンドは婚約者の不貞を、お姉様方から聞かされた。


「ノース様、元平民の男爵令嬢に夢中なのよ」

「入学して直ぐの事よ」

「これこそ真実の愛なのだ、とご友人方に仰っているらしいわ」

「ご自分のお立場を、わかっていらっしゃるのかしら?」


 ウェズリーの立場、とは。
 ランドール第2王子殿下の側近である、と言うことだ。
 何をするにしても、とにかく目立つ存在だ、と言うことだ。


 貴族学苑ではウェズリーの真実の愛の話は有名なのに、通学しているロザリンドの義兄オスカーはそれに関しては口をつぐんでいた。

 ロザリンドにとって、それが何よりショックだった。
 ウェズリーの浮気より、彼と同学年のオスカーが知っているであろうに、教えてくれなかったことの方が裏切りに思えた。


 祖母同士が従姉妹にあたるオスカーとは、元々は何という間柄に当たるのか、詳しくは知らない。
 ロザリンドしか生まれなかったオブライエン家に遠縁のウェイン家から、彼が5年前に侯爵家後継としてやって来てからは、実の兄妹の様に仲良くしてきたつもりだった。


「ウェズリー様が浮気をしている、ということですね?」


 ウェズリーの不貞を心配だと装いながら、本音は楽しみながら、ロザリンドにそれを教える令嬢達は顔色の変わった彼女の様子に満足した。


 容姿端麗で人柄も良く、第2王子殿下の側近である婚約ウェズリー。
 頭脳明晰で見映えも良く、尚且つ武術にも秀でている義兄オスカー。

 美しいふたりに大切に扱われているロザリンドは令嬢達にとって、嫉妬の対象でもあったからだ。
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