【完結】貴女は悪役令嬢ですよね?─彼女が微笑んだら─

Mimi

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17【悪役令嬢】クロエ

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私が『実は魔王』のノワール・ブラン先生と音楽室に入ると、ヒロインと攻略対象者達が集まっていた。
でもその様子は私が見たところ、今までヒロインが思い描いていたであろう甘いものではない……みたいね。


「これはどういう集まりなんだ?」

先ずはノワールがらしくもなく、教師っぽく言うから、ちょっと笑えた。
自称ヒロインを皆でいたぶる為に集まってるのだと、わかってるくせにね。

私ひとりでも彼等を止められるだろうとは思っていたけれど、念の為ノワールに頼んで、付いてきて貰ったのだ。
今までのこの部屋の皆の言動を、ノワールは画像(音声付き)で見せてくれていて、アンドレがヒロインに手をかけたのを確認したから突入した。

密室の中では誰かのタガが外れると、それに同調する者が出てくる。
そしてそれは全員に広がってしまう。
特に義弟のジュールは長年暴力に晒されてきたから、割りとそれを普通に思っているところがあって、彼がヒロインに手を出すのを恐れたからだ。
このゲームはR18だから、どんな暴力性をジュールが見せるか、想像つかない。

アンドレは気が弱いから、それほど心配していないけれど、ジュールとシャルルはどちらも闇抱えてそうなところで波長が合うようで、このふたりが揃っていると不穏この上ない。
そういう訳で私がここへ来たのは彼等が暴走するのを止める為だから、ヒロインを助けるのは二の次にしてたけど、ごめんね?


そして私がわざとゆっくり攻略対象者達を見渡せば。
イケメン達も私の顔を見て、直ぐに目を逸らす。
男6人でひとりの女の子を囲んで脅している現場を押さえられて、少しは恥ずかしく思ってるのね。

私がヒロインの腕を掴んでいたアンドレに近付くと、下を向いたままで彼女を放した。


「怪我はない?」

いつもの丁寧な言葉遣いを止めて、普通な感じで話しかけると。
ヒロインは私に抱きついて、大きな瞳から綺麗な涙をぽろぽろ流しだした。


「だ、だずげ……で……」

全部濁音になってるよ、可愛いな。
そりゃあね、男6人に囲まれて全方向から責められたら、恐ろしいよね、ビビるよね。
いいよ、助けてあげる。
ルックスがいいから、泣いててもそそられるね。
綺麗な女の子は好きよ、百合ルートもいいかも、ね?


震えているヒロインの肩を抱きながら、この場で一番地位の高いリシャールにきつめに言う。


「ビグローさんの事は、お世話役の私に任せていただきたいのです。
 殿下達のお手を煩わせないと、約束致しますから」


リシャールは何か言いたげだったけれど、私の目を見て。
ノワールに頭を下げて、黙ってそのまま音楽室を出ていった。
その後にシャルル、ドミニク、アンドレ、ジュール、エイドリアンが続く。

最後尾のエイドリアンが私に振り向いたから、頷いて少しだけ微笑んで見せた。
彼はお飾り王太子妃ルートに進んだ場合、あのひとが駄目だったら行こうかな、の攻略キャラだから、ちょっと愛想良くしとかないといけない。


「ブラン先生も……
 ご協力、どうもありがとうございました」

私がさりげなく、貴方ももう行って欲しい発言をすると、先生はギロリと睨んでくる。


「俺様を適当にあしらいやがって。
 この次は……」

金色の瞳が妖しく光って、先生が私に手を伸ばしてくる。
魔王の色気が半端なくて、傍らのブリジットが「ひいっ!」と短く声をあげた。
これだから全年齢向けゲームしかしたことがないヤツは。

私の唇に伸ばそうとしていた手を、ノワールは止めた。
私は彼の瞳を見つめながら笑顔になる。


「無詠唱でバリアを張ったか?」

「何の事だか」

ノワールは私を、特別に想っている。
自分の名前を呼ぶのが、私だけだから。


『◯◯◯◯◯◯』

それは、第6天魔王と名乗った戦国武将の名前。
貴方の名前は、私が日本語で名付けたから、この世界では私以外知らないし、発音も出来ないのよ。


「……まあ、いいだろう。
 俺様は気長に口説く質だから、な?」


さすがに1000年魔王なだけあるわ。
そう、気長によろしくね。


 ◇◇◇


自分が悪役令嬢ヒロインのゲームに転生したと気付いたのは、3年前。
婚約者のリシャールから『本当の恋をしたい』なんて、たわけた願いを聞かされた時だった。

あれ、何、これ?
目の前で婚約者に向かって口に出してはいけないことを説得しようとする無神経なリシャールの顔を呆れて見ながら、何故かこの場面既視感あるなぁって思って。
そしたら急に頭の中を様々な情景がいくつもいくつも通りすぎて行った。


婚約者である王太子リシャールをはじめとした……
シャルル、アンドレ、ドミニク。
それから魔王ノワール、ジュール、エイドリアン。
……そして、あのひとが。

彼等がそれぞれ甘い声で、私の名前を呼び手を差し出してくるオープニングだった。


ゲームのメイン舞台は学院を卒業した後。
学生の間に攻略対象者達との簡単なエピソードをこなしつつ、リシャールを攻略対象に選択したら、2つのルートに分岐する。
お飾り王太子妃と愛され王太子妃の2つ。

卒業までにリシャールからの好感度が高いと、愛され王太子妃だけど。
愛されルートは、リシャールの他にシャルルと、ドミニク、アンドレとの恋が始まって、人妻なのに逆ハーですみません、て感じ。

反対にライバルに負けて好感度が低いと、お飾りルート。
ライバルとリシャールのイチャイチャを横目で見つつ、公務だけをさせられてしまう。
それに耐えられなくなった私が仮死状態になる薬を飲んで、死亡偽装した後に王城脱出、薬の入手と国外逃亡を手助けしてくれたエイドリアンとの『王弟』ルートと。
隠していた聖なる力を発揮して、蔑ろにしてくれちゃった関係者全員に盛大なざまぁしてからお迎えに来て貰うノワールの『魔王』ルート。

お飾りではどっちのルートを選択しても、リシャールは偽りの『光の乙女』に夢中になって、消えた正妃の私を冷遇していたことを自己陶酔型ポエムにして、後悔するんだけどね……バカめ。
一生、グダグダ自分を憐れんでろ。

リシャールなんて要らないから、私は敢えて、お飾りを選ぶ。
だから、現状エイドリアンとノワールの好感度は保険としてキープしておくの。



「あ、ありがとう……ございました!
 あたし、貴女にひどいことしたのに、助けて貰えるなんて!」

「……いいの、気にしないでね?
 あのひと達もちょっと行き過ぎただけだから」


スパイだの、処刑だの、ちょっと暴走気味で怖かったね?
この自称ヒロインのブリジットさん、この世界が『底辺令嬢~』と思い込んで行動していたのよね。
だけどここは違う、って知らないのは、多分。
……このゲームが発売される前に前世の彼女は亡くなってるんだね。



このゲーム、世間に広く宣伝されてた仮タイトルが
『底辺令嬢~part2』だったんだけど、発売された本タイトルは
『身も心も全部をあなたに~悪役令嬢ですが、全方向から愛されています! 』でした!

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