【完結】貴女は悪役令嬢ですよね?─彼女が微笑んだら─

Mimi

文字の大きさ
上 下
7 / 18

7【伯爵令嬢】ミレーユ

しおりを挟む
いつもあのひとを見ていました。

普段は落ち着いた物腰で感情を露にされないのに、時折弾けるような笑顔を見せられる御方でした。

私の1学年上に在席されていましたが、本当は3つ年上らしいと、誰かが言っていて。
それでなのねと、納得致しました。
誰よりも大人びていて、お優しい御方。


その日も私は同級生の女生徒達から呼び出しを受けてしまいました。
何事も不器用でモタモタしている私は、同性から見たら『あざとい』らしくて、皆様の何かを刺激すると、何度もそう言われました。

お昼休みの音楽室です。
毎週火曜日はそこに呼び出されるのです。
手を上げられることはなく、ただただ罵られるだけ。
いつも心を無にして、言われた言葉を記憶に留めないように努めていました。

すると、その日はそこに王太子殿下がいらっしゃったのです。
殿下の両隣にはお馴染みの、ドミニク・フランソワ様とアンドレ・マルタン様が……


「火曜日の昼休みになると、ここで苛めが行われていると生徒会に投書があった」

「全員、名前とクラスを申告してから、ここから出てもいいよ」

王太子殿下に続いて、フランソワ様が楽しそうに仰せになりました。
難しいお顔の殿下とは対照的でした。


 ◇◇◇


「君の事は、以前から気付いていたんだ。
 火曜日以外の昼休みには、こちらを見ていただろう?
 だから、姿が見えない火曜日には何か用事があるのかと思っていたら、まさか君が苛めの被害者だったとはね」


助けていただいたあの日から、殿下にはお声を掛けていただくことが増えました。


音楽室の苛めの事を、生徒会に投書してくださったのは一体どなたなのでしょう?
中等部の生徒会室前には、相談箱が設置されておりました。
生徒会や学院への要望や校則や行事に対する感想等、何でも良いから『声』を届けて欲しいと、殿下が生徒会長になられた折りにその箱は置かれたのでした。

皆の声を聞くこと。
将来国王陛下として、この国を治められていくにあたって、中等部の生徒会から始めるのだと、殿下は仰せになられました。


「彼女と、いつもそんな話をしているから」

彼女とは、幼い頃からのご婚約者のモンテール侯爵令嬢クロエ・グランマルニエ様の事でしょう。
王太子殿下に憧れるご令嬢方は数多く、皆様は殿下と侯爵令嬢が政略で有り、お互いに愛情など無いものだと信じていたいようでしたが。

失礼ながら私には、少なくとも殿下はクロエ様に対して、好意以上のお気持ちをお持ちなのだと見て取れたのです。
それはクロエ様の事をお話になる殿下のご様子からも察することが出来ました。
とても柔らかな表情で、愛おしげに『彼女』と、お呼びになるのです。




「最初はドミニクなのかと思ったんだけれど……」

「……」

「アンドレ・マルタンを、 あいつを見ているね?」

ちゃんと隠せているつもりでしたのに、それ程私はわかりやすかったのでしょうか……
私の想いはマルタン様ご本人にも、気付かれてしまっているのでしょうか。



それはある日の事でした。
朝、中等部の玄関ホールでお会いした殿下にお声を掛けていただきました。
まだ殿下のお隣にはフランソワ様はいらっしゃらなくて、背後にマルタン様も立っておられず、その時殿下はおひとりでした。


「アンドレの事で大切な話があるんだ。
 午後の授業を抜けられないか?」

いつもお優しい顔をした殿下の表情はとても硬いものでしたので、私は頷くしかありませんでした。



午後の生徒会室に、殿下とふたりきりでした。
側近のフランソワ様も、護衛のマルタン様もいらっしゃらない……
ふたりきりでした。


「単刀直入に聞くけれど、君はアンドレを婿入りさせたい程に真剣に考えているの?」

「マルタン様を……婿入りで、ございますか?」

いきなりのお話に慌ててしまいました。
私に婿を取ることは決定していますし、高等部に進む頃には婚約を整えると、父がそれに向けて調整をしていることは知っていました。
ですが、現状ではお相手を絞るまでには至っていないと、聞いておりました。


「アンドレ・マルタンは伯爵家の四男だ。
 継ぐ家がないから、14で騎士団に入団した。
 私の護衛になったのは偶然かと思っていたが、そうではなかった」

「……」

「それが何故かは詳しい話は君には出来ない。
 王妃陛下がアンドレに然るべき縁組みを探している。
 下調べに時間を掛けて、じっくり相手を探すおつもりだ。
 君が本気なら、私は君を推薦する。
 どうするか、お父上と相談して返事をして欲しい」

「殿下、どうしてその様に……」


どなたを婿に取るのか、私の希望等通るはずがないと、諦めておりました。
そう続けようとして、私の言葉は止まりました。

生徒会室の扉がノックされて、殿下がお応えになる前に扉は開かれたのです。
何故なら、今は授業中で。
儀礼的にノックをされましたが、部屋の中には誰も居ないと思われて開かれたのでしょう。


入り口からは正面に殿下がお座りになっている生徒会長の机があり、私はその前に立っておりました。
目の前の殿下のお顔が大きく歪んだのが見えて、自然と私は振り返りました。

入口に立って、こちらを見ていらっしゃったのは。
クロエ様でした。


「お取り込み中でしたのね、申し訳ございません。
 忘れ物を取りに来ただけなのです」

クロエ様はそう仰せになり、丁寧にカーテシーを殿下に向かってなさいました。

    
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

婚約破棄は踊り続ける

お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。 「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた

よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。 国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。 自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。 はい、詰んだ。 将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。 よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。 国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!

処理中です...