【完結】貴女は悪役令嬢ですよね?─彼女が微笑んだら─

Mimi

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7【伯爵令嬢】ミレーユ

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いつもあのひとを見ていました。

普段は落ち着いた物腰で感情を露にされないのに、時折弾けるような笑顔を見せられる御方でした。

私の1学年上に在席されていましたが、本当は3つ年上らしいと、誰かが言っていて。
それでなのねと、納得致しました。
誰よりも大人びていて、お優しい御方。


その日も私は同級生の女生徒達から呼び出しを受けてしまいました。
何事も不器用でモタモタしている私は、同性から見たら『あざとい』らしくて、皆様の何かを刺激すると、何度もそう言われました。

お昼休みの音楽室です。
毎週火曜日はそこに呼び出されるのです。
手を上げられることはなく、ただただ罵られるだけ。
いつも心を無にして、言われた言葉を記憶に留めないように努めていました。

すると、その日はそこに王太子殿下がいらっしゃったのです。
殿下の両隣にはお馴染みの、ドミニク・フランソワ様とアンドレ・マルタン様が……


「火曜日の昼休みになると、ここで苛めが行われていると生徒会に投書があった」

「全員、名前とクラスを申告してから、ここから出てもいいよ」

王太子殿下に続いて、フランソワ様が楽しそうに仰せになりました。
難しいお顔の殿下とは対照的でした。


 ◇◇◇


「君の事は、以前から気付いていたんだ。
 火曜日以外の昼休みには、こちらを見ていただろう?
 だから、姿が見えない火曜日には何か用事があるのかと思っていたら、まさか君が苛めの被害者だったとはね」


助けていただいたあの日から、殿下にはお声を掛けていただくことが増えました。


音楽室の苛めの事を、生徒会に投書してくださったのは一体どなたなのでしょう?
中等部の生徒会室前には、相談箱が設置されておりました。
生徒会や学院への要望や校則や行事に対する感想等、何でも良いから『声』を届けて欲しいと、殿下が生徒会長になられた折りにその箱は置かれたのでした。

皆の声を聞くこと。
将来国王陛下として、この国を治められていくにあたって、中等部の生徒会から始めるのだと、殿下は仰せになられました。


「彼女と、いつもそんな話をしているから」

彼女とは、幼い頃からのご婚約者のモンテール侯爵令嬢クロエ・グランマルニエ様の事でしょう。
王太子殿下に憧れるご令嬢方は数多く、皆様は殿下と侯爵令嬢が政略で有り、お互いに愛情など無いものだと信じていたいようでしたが。

失礼ながら私には、少なくとも殿下はクロエ様に対して、好意以上のお気持ちをお持ちなのだと見て取れたのです。
それはクロエ様の事をお話になる殿下のご様子からも察することが出来ました。
とても柔らかな表情で、愛おしげに『彼女』と、お呼びになるのです。




「最初はドミニクなのかと思ったんだけれど……」

「……」

「アンドレ・マルタンを、 あいつを見ているね?」

ちゃんと隠せているつもりでしたのに、それ程私はわかりやすかったのでしょうか……
私の想いはマルタン様ご本人にも、気付かれてしまっているのでしょうか。



それはある日の事でした。
朝、中等部の玄関ホールでお会いした殿下にお声を掛けていただきました。
まだ殿下のお隣にはフランソワ様はいらっしゃらなくて、背後にマルタン様も立っておられず、その時殿下はおひとりでした。


「アンドレの事で大切な話があるんだ。
 午後の授業を抜けられないか?」

いつもお優しい顔をした殿下の表情はとても硬いものでしたので、私は頷くしかありませんでした。



午後の生徒会室に、殿下とふたりきりでした。
側近のフランソワ様も、護衛のマルタン様もいらっしゃらない……
ふたりきりでした。


「単刀直入に聞くけれど、君はアンドレを婿入りさせたい程に真剣に考えているの?」

「マルタン様を……婿入りで、ございますか?」

いきなりのお話に慌ててしまいました。
私に婿を取ることは決定していますし、高等部に進む頃には婚約を整えると、父がそれに向けて調整をしていることは知っていました。
ですが、現状ではお相手を絞るまでには至っていないと、聞いておりました。


「アンドレ・マルタンは伯爵家の四男だ。
 継ぐ家がないから、14で騎士団に入団した。
 私の護衛になったのは偶然かと思っていたが、そうではなかった」

「……」

「それが何故かは詳しい話は君には出来ない。
 王妃陛下がアンドレに然るべき縁組みを探している。
 下調べに時間を掛けて、じっくり相手を探すおつもりだ。
 君が本気なら、私は君を推薦する。
 どうするか、お父上と相談して返事をして欲しい」

「殿下、どうしてその様に……」


どなたを婿に取るのか、私の希望等通るはずがないと、諦めておりました。
そう続けようとして、私の言葉は止まりました。

生徒会室の扉がノックされて、殿下がお応えになる前に扉は開かれたのです。
何故なら、今は授業中で。
儀礼的にノックをされましたが、部屋の中には誰も居ないと思われて開かれたのでしょう。


入り口からは正面に殿下がお座りになっている生徒会長の机があり、私はその前に立っておりました。
目の前の殿下のお顔が大きく歪んだのが見えて、自然と私は振り返りました。

入口に立って、こちらを見ていらっしゃったのは。
クロエ様でした。


「お取り込み中でしたのね、申し訳ございません。
 忘れ物を取りに来ただけなのです」

クロエ様はそう仰せになり、丁寧にカーテシーを殿下に向かってなさいました。

    
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