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31 隠し通してくれるのなら◆◆シンシア

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 ふたりの間に生まれた子供を、姑の実家に養子に出す……

 それをアイリスが了承したの?
 サザーランドの血を引いた閣下の孫になるのに?
 それはキャメロンのロジャースの血とアイリスのマーフィーの血を、グローバー家には残さないと決定されたということ?

 当然、ロジャースからは反発があっただろう。
 あちらは侯爵家の血縁となりたいのに、反対に戻されるのだから。

 
 この数日内では、説得は無理だと判断して。
 最初からオースティン様は次代侯爵と言う権力を持って圧力を掛けて……
 恐らく誓約書に無理矢理サインをさせた? 


 嫌々引き取らされたロジャース伯爵家で、その子はどんな扱いを受けるのか。
 与えられるのは愛情よりも冷遇だと、容易く想像はつく。


 その決定にわたしが口を出す権利はないけれど、今回の縁組が無くなっただけで、そこまでする必要があったの?



 わたしには、キャメロンとの兄弟仲は良いように見えた。
 継母のセーラ様に対しても、きちんと敬うように接していらした。
 それなのに……


 オースティン・グローバーは、敵対する者には容赦がない。


 あの噂は本当だった。



     ◇◇◇



 この話題については、もうこれ以上話すことはないとわたしに知らせるように、オースティン様は黙って温室内で咲き誇る我が家自慢の黄バラをご覧になっていた。


 義理とは言え、家族を切り捨てるような処分をされたオースティン様も決して平気だったわけではないだろう。
 それがグローバー家とサザーランド領を守る為ならばとご決心されたのだ。


 もし、わたしがその同じ場面に立たされた時。
 わたしはちゃんと決断出来る?
 そんなことを考えていたら。


「立ち入ることを聞く失礼な奴だと自分でも承知しているのですが、是非教えていただけたらと思うことがあるのです」

「……それがお答え出来る範囲であるなら、答えさせていただきます」


 何を聞かれるのか分からず、取り敢えずは無難に答えた。
 不味いと思えば、お答え出来ませんと断るだけ。


「何故、キャメロンだったのでしょうか?
 ハミルトンなら、貴女なら、弟を調べなかった筈はない」


 やはり、その事かと思った。
 オースティン様からは折に触れ、「至らぬ弟をどうぞよろしくお願い致します」と言われていた。
 それは、至らぬキャメロンでもよろしいのですか?と何度も確認されている気がしていたから。

 相手の質問に乗じるように。
 それを話すわたしは、自分でも狡い女だと思う。
 本来なら、もっと早くに話さなくてはならないことだった。
 キャメロンなら話をすれば、お互いに割り切って。 
 彼はアイリスとのことを隠さずに話してくれて、ここまで拗れずに済んだかもしれないのに。


「マーフィー嬢からご紹介の話を打診された時は、サザーランド侯爵家と言えば辺境伯家ともご縁があって、わたしでは烏滸がましいとその時は断りました」

「……」

 厳密に言えば、辺境伯家の血筋の方はオースティン様だ。
 亡くなられたお母様が所縁の方で、キャメロンにはその血は流れていない。
 けれどオースティン様は、そういった訂正をいちいちなさらない御方なのも知っている。
 現に、今も何も仰らない。


「ですが後日マーフィー嬢が、キャメロン様の方から紹介して欲しいと仰っているからと言ってきて。
 嬉しく思ったわたしは、父に頼む前に自分で調べようと思ったのです」


 自分で調べる、ではなくスザナに頼んだのだけれど。
 彼女は直ぐに調べてきてくれて。
 キャメロンには、その様な関係の女性が何人か居ることを知った。
 特に深いお付き合いをしていたのは学院の2学年上の先輩で既に卒業されていて、わたしが知らない女性だった。


 キャメロン・グローバーが付き合う女性達には共通した髪と瞳の色がある。
 それもスザナが教えてくれた。
 全員が年上で、赤系統の髪と緑色の瞳の色白美人。
 その色の持ち主がキャメロンのタイプであり、金髪に藍の瞳で、目立つところのない同い年のわたしは彼の好みではないことは、一目瞭然だった。


 スザナは遊び人のキャメロンは駄目だと言い、わたしもそう思ったけれど、アイリスが言うには彼は既にお店を予約してくれているとのこと。
 そのお店はとても人気があるらしくて、キャンセルしたら次の予約は中々取れないから絶対に都合をつけなさいねと厳命されて、張り切って立ち会ってくれるアイリスが凄く楽しみにしていることなどから、お断りをなかなか言い出せなかった。
 それで一度だけなら会うのもいいかな、と思ってしまった。


 母には状況も見て、わたしから話すから。
 会うのは今日だけのことかも知れないし、貴女はそれまで黙っていて、とスザナには頼んだ。


「では、やはりそれも知っておられたのに、キャメロンを?」

「はい。お会いしたら、彼はとても感じが良くて。
 実際に会えば彼の方からお断りをされる可能性も考えておりましたが、何故かそれからもお誘いをいただいて。
 わたしはいつしか、わたしの知らない女性とのことなら、受け入れても良いのではないか。
 少なくとも、わたしの前でそれを隠し通してくれるのならばと」

「それで、弟の不貞の内容証明には把握していた彼女達の名前はなく、アイリス・マーフィーだけを?」

「わたしと知り合う以前の関係に、口を出すつもりはございませんでした」


 わたしの応えにオースティン様は驚かれたようだった。



「ですが、紹介されて2ヶ月後くらいの、3月半ばのことでしょうか。
 侍女からキャメロン様が例の女性と会わなくなったようだと報告されたのです」

「3月半ばの……」


 その辺りのご事情をオースティン様はご存知なのかもしれないと思ったのは、それを聞いた途端にわたしから目を逸らされたからだ。

 人は何か記憶を辿ろうとする時、一瞬視線を遠くへやる。

 もしかしたら、キャメロンが女性達と別れるように、オースティン様が動いてくださったのだろうか。

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