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19 最終的に選ばれるのは◆◆アイリス
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キャメロンに「貴方が好き」と伝えた日。
誰も来ない侯爵家の図書室の……ソファの上で、彼に抱かれた。
告白した日に関係を持つとは思っていなかったけれど。
わたしも盛り上がってしまって、その気になってしまったキャメロンを止めることは出来なくて。
もう、これで大丈夫。
シンシアがわたしを脅かすことはない。
幼馴染みから恋人になった彼の腕の中で、わたしは安堵の涙を流した。
そんなわたしを心配して、キャメロンが尋ねてくれる。
「……ごめん、こんなことになって後悔して泣いてる?」
「……違う、謝らないで。
嬉しくて泣いてるの」
「本当にアイリスは……可愛い。
俺も大好きだよ」
好きと言って、大好きと返して貰えて、嬉しかった。
こんなに幸せになるなら、もっと早くにキャメロンとこうなれば良かった。
冷たくなったお兄様と違って、キャメロンはこんなに優しいのに。
セーラ様が子供の頃から仰っていた通り、わたしとキャメロンはお似合いなの。
彼とこうなるのは運命だった。
少し回り道をしてしまったけれど、ずっと側にあった幸せに気付かせてくれたのはシンシア。
それだけは感謝するわ。
◇◇◇
だけど、その日以降。
侯爵家には、ひとりでは通して貰えなくなった。
侯爵家の使用人達は、奥様のセーラ様より次期当主のオースティンお兄様の言葉を守っているのか、今までのようにわたしがキャメロンを訪ねても、邸に入れてくれなくなった。
あの日キャメロンに取り次いでくれた執事の姿を探したけれど見つからない。
手紙も母に止められてしまったし、家には電話も無いので、キャメロンに連絡出来るのは学院内だけ。
シンシアが登校してくる前にキャメロンのクラスへ行き、彼を捕まえた。
「兄上が君ひとりでは俺に会わせるなと家令に命じたから、使用人達にも徹底されてしまったみたいなんだ」
「じゃあ、外で会える?」
「家令が目を光らせてて、通学以外に馬車を出せなくなったから、外で会うのも無理だ」
「……いいわ、じゃあセーラ様とシンシアに早くわたしとのことを言ってね。
婚約の話が無くなれば、前みたいに会えるわ」
「君のことは、ちゃんと母上には話したよ。
シンシアにはプロポーズもしてしまったから、法律に触れないように、顧問弁護士と相談してタイミングをみて話す、と言うのが母上の意見なんだ。
だから、少し待ってくれないか」
セーラ様にはわたしとのことを話してくれたようだし、時機を待て、と言うのがセーラ様の指示なら、それは守らなくてはならない。
いつまでシンシアに恋人面されるの?
かと言って、わたしが略奪したように言われるのも嫌だ。
理想は彼女と別れた幼馴染みをわたしが慰めて、そこから恋に落ちた、みたいにしたい。
以前のわたしだったら、キャメロンに遠慮なく「早くしろ」とせっつくことが出来た。
けれど、健気な女の子アピールをしてしまったせいで、強く出られなくなってしまった。
キャメロンに可愛いと愛される婚約者になる為には、まだ気を抜いてはいけない。
とにかく、シンシアとの婚約が正式に発表されるまでには、どうにかしてくれる。
そう信じるしかなかった。
でも事態は全然動かない。
もうすぐ夏休みがやって来る。
何も知らないシンシアが領地で行われる誕生日パーティーの話をする。
そこでキャメロンとの婚約披露をする、とか。
3人で涼しく夏を過ごしましょう、とか。
冗談じゃない!
時機を待てと言われたから、黙っているだけ。
わたしとキャメロンがハミルトンなんかに、行くわけないでしょう!
侯爵家の弁護士は、何してるの?
ふたりが婚約を正式に発表してしまえば、わたしはどうなるの?
婚約者からキャメロンを奪った女?
違うわ、わたしのモノを奪おうとしたのはシンシア。
だから取り戻しただけなの。
そして……とうとうシンシアに見つかった。
現場を見たシンシアは、キャメロンとの会話を拒否して美術室から出ていった。
「仕方なかったのよ、シンシアには可哀想なことをしちゃったけど。
だって……わたし達はここでしか会えなくなっていたんだもの」
わたしは、シンシアを見送って肩を落とすキャメロンを抱き締めて、優しく諭すように言った。
わたしは可愛くて優しい、貴方の運命の恋人だから。
……でも。
さっきは「アイリスは悪くない」とわたしを庇ってくれたけれど。
あれは女性を悪者にする男だとシンシアに思われたくないからね。
あの子の前では、いつも王子様の顔をしていた。
『君と婚約したかったのは本気だった』
彼がシンシアに向かって言った、その言葉で目が覚めた。
本当はキャメロンはシンシアと別れたくないんだって。
わたしとの運命よりも、彼女との現実を取る気だったって。
『最終的に選ばれるのは姉上じゃない』
ダレルに投げつけられた言葉を思い出す。
だけど大丈夫、わたしにはセーラ様が付いている。
わたしは子供の頃から変わらない、彼の少し癖のある金色の髪を撫でる。
キャム、残念だったね。
これで、シンシアとの婚約は無くなったよ。
わたしと貴方は、これからもずっと一緒ね。
誰も来ない侯爵家の図書室の……ソファの上で、彼に抱かれた。
告白した日に関係を持つとは思っていなかったけれど。
わたしも盛り上がってしまって、その気になってしまったキャメロンを止めることは出来なくて。
もう、これで大丈夫。
シンシアがわたしを脅かすことはない。
幼馴染みから恋人になった彼の腕の中で、わたしは安堵の涙を流した。
そんなわたしを心配して、キャメロンが尋ねてくれる。
「……ごめん、こんなことになって後悔して泣いてる?」
「……違う、謝らないで。
嬉しくて泣いてるの」
「本当にアイリスは……可愛い。
俺も大好きだよ」
好きと言って、大好きと返して貰えて、嬉しかった。
こんなに幸せになるなら、もっと早くにキャメロンとこうなれば良かった。
冷たくなったお兄様と違って、キャメロンはこんなに優しいのに。
セーラ様が子供の頃から仰っていた通り、わたしとキャメロンはお似合いなの。
彼とこうなるのは運命だった。
少し回り道をしてしまったけれど、ずっと側にあった幸せに気付かせてくれたのはシンシア。
それだけは感謝するわ。
◇◇◇
だけど、その日以降。
侯爵家には、ひとりでは通して貰えなくなった。
侯爵家の使用人達は、奥様のセーラ様より次期当主のオースティンお兄様の言葉を守っているのか、今までのようにわたしがキャメロンを訪ねても、邸に入れてくれなくなった。
あの日キャメロンに取り次いでくれた執事の姿を探したけれど見つからない。
手紙も母に止められてしまったし、家には電話も無いので、キャメロンに連絡出来るのは学院内だけ。
シンシアが登校してくる前にキャメロンのクラスへ行き、彼を捕まえた。
「兄上が君ひとりでは俺に会わせるなと家令に命じたから、使用人達にも徹底されてしまったみたいなんだ」
「じゃあ、外で会える?」
「家令が目を光らせてて、通学以外に馬車を出せなくなったから、外で会うのも無理だ」
「……いいわ、じゃあセーラ様とシンシアに早くわたしとのことを言ってね。
婚約の話が無くなれば、前みたいに会えるわ」
「君のことは、ちゃんと母上には話したよ。
シンシアにはプロポーズもしてしまったから、法律に触れないように、顧問弁護士と相談してタイミングをみて話す、と言うのが母上の意見なんだ。
だから、少し待ってくれないか」
セーラ様にはわたしとのことを話してくれたようだし、時機を待て、と言うのがセーラ様の指示なら、それは守らなくてはならない。
いつまでシンシアに恋人面されるの?
かと言って、わたしが略奪したように言われるのも嫌だ。
理想は彼女と別れた幼馴染みをわたしが慰めて、そこから恋に落ちた、みたいにしたい。
以前のわたしだったら、キャメロンに遠慮なく「早くしろ」とせっつくことが出来た。
けれど、健気な女の子アピールをしてしまったせいで、強く出られなくなってしまった。
キャメロンに可愛いと愛される婚約者になる為には、まだ気を抜いてはいけない。
とにかく、シンシアとの婚約が正式に発表されるまでには、どうにかしてくれる。
そう信じるしかなかった。
でも事態は全然動かない。
もうすぐ夏休みがやって来る。
何も知らないシンシアが領地で行われる誕生日パーティーの話をする。
そこでキャメロンとの婚約披露をする、とか。
3人で涼しく夏を過ごしましょう、とか。
冗談じゃない!
時機を待てと言われたから、黙っているだけ。
わたしとキャメロンがハミルトンなんかに、行くわけないでしょう!
侯爵家の弁護士は、何してるの?
ふたりが婚約を正式に発表してしまえば、わたしはどうなるの?
婚約者からキャメロンを奪った女?
違うわ、わたしのモノを奪おうとしたのはシンシア。
だから取り戻しただけなの。
そして……とうとうシンシアに見つかった。
現場を見たシンシアは、キャメロンとの会話を拒否して美術室から出ていった。
「仕方なかったのよ、シンシアには可哀想なことをしちゃったけど。
だって……わたし達はここでしか会えなくなっていたんだもの」
わたしは、シンシアを見送って肩を落とすキャメロンを抱き締めて、優しく諭すように言った。
わたしは可愛くて優しい、貴方の運命の恋人だから。
……でも。
さっきは「アイリスは悪くない」とわたしを庇ってくれたけれど。
あれは女性を悪者にする男だとシンシアに思われたくないからね。
あの子の前では、いつも王子様の顔をしていた。
『君と婚約したかったのは本気だった』
彼がシンシアに向かって言った、その言葉で目が覚めた。
本当はキャメロンはシンシアと別れたくないんだって。
わたしとの運命よりも、彼女との現実を取る気だったって。
『最終的に選ばれるのは姉上じゃない』
ダレルに投げつけられた言葉を思い出す。
だけど大丈夫、わたしにはセーラ様が付いている。
わたしは子供の頃から変わらない、彼の少し癖のある金色の髪を撫でる。
キャム、残念だったね。
これで、シンシアとの婚約は無くなったよ。
わたしと貴方は、これからもずっと一緒ね。
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