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12 幼馴染みという特別な関係◆◆アイリス
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そして週末。
もしかしてわたしの為にキャメロンがチケットを買い足して、誘ってくれないかと期待していたけれど、連絡はなかった。
オースティンお兄様が譲られたチケットだ。
それは一般の横並びの座席ではなく、バルコニーのボックス席だろう。
だったら、1人追加くらい出来るはずなのに。
惨めで悲しくてイライラして。
最低な気分で居たら、母から買い物に誘われた。
正直そんな気分になれなかったけれど、このまま家に居ても最悪なままなので、外出着に着替えた。
「ランチはセーラと待ち合わせをしているの。
美味しいものをたくさん食べて、元気を出してね」
落ち込んでいるのを、母にはばれていたのね。
セーラ様も、わたしがお兄様から言われたことを知っているのかしら。
前々から「本当の娘になって」と言われていた。
シンシアをキャメロンに紹介したせいでこんな風になってしまって、彼のお母様であるセーラ様はどう思っていらっしゃるんだろう?
セーラ様にすがったら、事態は好転するのかな。
シンシアが居ても、変わらず本当の娘だと思っていただけるの……
母と可愛い小物を見て回り、似合いそうなものを買って貰って少し気分が楽になった。
やはり外出すると気分転換になる。
そして、待ち合わせたレストランに入ると、先に入店されていたセーラ様に抱き締められた。
セーラ様の現在のお立場はサザーランド侯爵夫人。
ウチのような子爵家からすると、遥か上のお立場の御方なのに、母やわたしに対しては対等に接してくださる。
本来ならば、わたし達が侯爵夫人をお待ちしなくてはならないのに。
「オースティンから聞いたわ。
あの子、貴女に随分ときついことを言ったのでしょう」
「……ご存じでしたか」
「夕食の時に聞かされたの。
あの子は当たり前のことを言っただけだと開き直っていたけれど、キャムだって余計なことを言われて、嫌そうにしていたわ。
旦那様もいらっしゃったから、わたくしからはあまり強くは注意出来なかったのだけど、何を勝手な真似をと思ったのよ」
「セーラ、そう言われても仕方がないの。
オースティン様が仰られたことは、間違ってない……」
わたしは母にはお兄様から言われた話はしていなかったのに、多分セーラ様からご連絡があって、母は知っていたのね。
だけど、せっかくこう言ってくださっているのに。
母がお兄様の肩を持たなくても……
セーラ様もそう思われたのか、親友とは言え自分に異論を言いかけた母を手を振って遮られた。
「いいのよ、ジェーン。
最近オースティンは旦那様にも反対するような意見をしたりして、少し生意気なの。
アイリス、普段はこちらに居ないオースティンなんかに遠慮しなくてもいいのよ。
変わらずにキャムに会いに来てあげて。
あの子は貴女が来てくれたら、とても楽しそうだもの」
「お兄様から注意された通りにしなくても、いいのでしょうか……」
「待ってセーラ、簡単に言わないで。
侯爵閣下は何と仰られているの?」
セーラ様とわたしの会話に、また母が口を挟む。
「旦那様は……特には何も仰らないわ。
家政はわたくしに任せてくださっているもの。
反対などなさらないわ」
ここまで仰ってくださっていても、母はなんだか浮かない表情をしていた。
でもわたしはセーラ様からいただいた言葉を信じたい。
お兄様はあんな風に仰ったけれど、閣下はわたしがキャメロンとふたりで会うことに反対はされていないのだと。
これからも、わたしとキャメロンの関係は。
爵位や男女を越えた幼馴染みという特別な関係は、変わらない。
ゆっくり時間を取ったランチの後、セーラ様からお誘いされて侯爵家でお茶をいただくことになった。
オースティンお兄様はまだ領地に帰っていないらしいので、顔を合わせたら気まずいだろうけれど、今日は母も一緒なのだから、文句は言われないはず。
何よりセーラ様が側に居てくれる。
あの日のようにわたしはひとりじゃない。
もしかしてわたしの為にキャメロンがチケットを買い足して、誘ってくれないかと期待していたけれど、連絡はなかった。
オースティンお兄様が譲られたチケットだ。
それは一般の横並びの座席ではなく、バルコニーのボックス席だろう。
だったら、1人追加くらい出来るはずなのに。
惨めで悲しくてイライラして。
最低な気分で居たら、母から買い物に誘われた。
正直そんな気分になれなかったけれど、このまま家に居ても最悪なままなので、外出着に着替えた。
「ランチはセーラと待ち合わせをしているの。
美味しいものをたくさん食べて、元気を出してね」
落ち込んでいるのを、母にはばれていたのね。
セーラ様も、わたしがお兄様から言われたことを知っているのかしら。
前々から「本当の娘になって」と言われていた。
シンシアをキャメロンに紹介したせいでこんな風になってしまって、彼のお母様であるセーラ様はどう思っていらっしゃるんだろう?
セーラ様にすがったら、事態は好転するのかな。
シンシアが居ても、変わらず本当の娘だと思っていただけるの……
母と可愛い小物を見て回り、似合いそうなものを買って貰って少し気分が楽になった。
やはり外出すると気分転換になる。
そして、待ち合わせたレストランに入ると、先に入店されていたセーラ様に抱き締められた。
セーラ様の現在のお立場はサザーランド侯爵夫人。
ウチのような子爵家からすると、遥か上のお立場の御方なのに、母やわたしに対しては対等に接してくださる。
本来ならば、わたし達が侯爵夫人をお待ちしなくてはならないのに。
「オースティンから聞いたわ。
あの子、貴女に随分ときついことを言ったのでしょう」
「……ご存じでしたか」
「夕食の時に聞かされたの。
あの子は当たり前のことを言っただけだと開き直っていたけれど、キャムだって余計なことを言われて、嫌そうにしていたわ。
旦那様もいらっしゃったから、わたくしからはあまり強くは注意出来なかったのだけど、何を勝手な真似をと思ったのよ」
「セーラ、そう言われても仕方がないの。
オースティン様が仰られたことは、間違ってない……」
わたしは母にはお兄様から言われた話はしていなかったのに、多分セーラ様からご連絡があって、母は知っていたのね。
だけど、せっかくこう言ってくださっているのに。
母がお兄様の肩を持たなくても……
セーラ様もそう思われたのか、親友とは言え自分に異論を言いかけた母を手を振って遮られた。
「いいのよ、ジェーン。
最近オースティンは旦那様にも反対するような意見をしたりして、少し生意気なの。
アイリス、普段はこちらに居ないオースティンなんかに遠慮しなくてもいいのよ。
変わらずにキャムに会いに来てあげて。
あの子は貴女が来てくれたら、とても楽しそうだもの」
「お兄様から注意された通りにしなくても、いいのでしょうか……」
「待ってセーラ、簡単に言わないで。
侯爵閣下は何と仰られているの?」
セーラ様とわたしの会話に、また母が口を挟む。
「旦那様は……特には何も仰らないわ。
家政はわたくしに任せてくださっているもの。
反対などなさらないわ」
ここまで仰ってくださっていても、母はなんだか浮かない表情をしていた。
でもわたしはセーラ様からいただいた言葉を信じたい。
お兄様はあんな風に仰ったけれど、閣下はわたしがキャメロンとふたりで会うことに反対はされていないのだと。
これからも、わたしとキャメロンの関係は。
爵位や男女を越えた幼馴染みという特別な関係は、変わらない。
ゆっくり時間を取ったランチの後、セーラ様からお誘いされて侯爵家でお茶をいただくことになった。
オースティンお兄様はまだ領地に帰っていないらしいので、顔を合わせたら気まずいだろうけれど、今日は母も一緒なのだから、文句は言われないはず。
何よりセーラ様が側に居てくれる。
あの日のようにわたしはひとりじゃない。
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