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10 嫌な予感がした◆◆アイリス
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キャメロンとシンシアを初めて会わせた以降のことは……
王都育ちのキャメロンと地方育ちのシンシアなのに、わたしが考えていたより相性は良かったみたいで、交際は順調に進んだ。
シンシアは男性と話すのは慣れていないし、わたしが間に入って、ふたりに話題を振って……
彼女のお母様もわたしが一緒に迎えに行くことで、徐々にキャメロンに対しても警戒心を失くしているようで、「いつもありがとう」と労ってくれた。
それなのに。
いつものように侯爵邸へ行き、今週末は何処へ出掛けようか?と尋ねたわたしにキャメロンが言いにくそうに答えた。
「……今週末のシェルフィールド劇場のチケットを、兄上から貰って」
「週末のシェルフィールドって、レディパトリシアの新作初日じゃないの!」
「初日なのかな?
兄上も誰かから貰ったらしい」
「プレミアチケットよ!すごい!嬉しい!」
レディパトリシアの新作チケットはなかなか手に入らない。
それも初日だなんて!
お兄様に譲られたと言う方は、どんな伝手を使って手に入れたの?
パトリシア・ライスはシェルフィールド劇場の専属で平民出身だけれど、その美貌と確かな演技力で、王弟殿下がパトロンに付いたことで『レディ』と称される、わたしが大好きな女優だ。
その彼女の新作チケットを譲られるなんて、さすがオースティンお兄様だ。
お兄様は、王都で社交を担われる当代のお父様の代わりに領地にいらっしゃるけれど、それでも次期侯爵と早めに繋がりを持ちたい貴族はこうして御機嫌を取ろうと必死なんだ。
「お兄様、戻っていらっしゃるのよね?
わたしからも御礼を言わせて!」
「いや、あのさ……
チケットは2枚で、兄上はシンシアと行くように、って……」
2枚って、わたしの分のチケットは無いということ?
そんな!シンシアと付き合う前だったら、わたしを誘ってくれたでしょう?
「……シンシアと夜に出掛けるのは無理じゃないの。
あの子のお母様が許さないでしょう?」
「マチネだし、大丈夫だと思う」
マチネ……新作初日の!一番最初の舞台!
そんな記念すべき舞台を観劇出来たのに!
シンシアに譲らないといけないなんて!
「兄上がハミルトンとの縁組を進めたがっていてさ。
シンシアを紹介してくれたアイリスにも御礼をしたいと言っていたから、次にチケットが手に入ったら2枚渡すように頼んでおくよ」
今回はシンシアとふたりで行くと決定なのね。
いつになるかもわからない次に、お前が誰と行こうが構わないってことね。
もうキャメロンやお兄様が優先するのはわたしじゃない。
わたしが紹介してあげて、まだ3ヶ月足らずの。
そんなシンシアをわたしより……
仕方がないことなのに、気持ちを収められない。
イライラしてきたから、早めにお暇を告げて立ち上がった。
わたしを女性扱いしないキャメロンが見送らないのはいつものことなのに、それさえもひどいと思ってしまう。
ひとり玄関に向かうと、帰宅されたオースティンお兄様と会った。
今までは、会えたら嬉しくてドキドキしていた。
だけど、さっきまでのキャメロンとの会話から、お兄様がシンシアとの交際を後押ししていると聞いて、わたしは……
「久し振りだね、マーフィー嬢」
いつからか、お兄様はアイリスと名前で呼んでくれなくなった。
それを寂しく思うけれど、わたしもお兄様と呼び掛けない方がいいのだろうと黙って会釈するだけにした。
「君には良いご縁をキャメロンに紹介して貰ったと感謝している。
それで、キャメロンから話は聞いたかな?」
「観劇の件ですか」
「……やはり、あいつは君には言えないのか。
キャメロンに注意したんだよ、ちゃんと君の事を考えてやれ、己の立場を自覚しろ、と」
わたしの事を考えてやれ?
気遣うような言葉だけれど、わたしに向けるお兄様の表情も口調も冷たいのは何故?
嫌な予感がした。
王都育ちのキャメロンと地方育ちのシンシアなのに、わたしが考えていたより相性は良かったみたいで、交際は順調に進んだ。
シンシアは男性と話すのは慣れていないし、わたしが間に入って、ふたりに話題を振って……
彼女のお母様もわたしが一緒に迎えに行くことで、徐々にキャメロンに対しても警戒心を失くしているようで、「いつもありがとう」と労ってくれた。
それなのに。
いつものように侯爵邸へ行き、今週末は何処へ出掛けようか?と尋ねたわたしにキャメロンが言いにくそうに答えた。
「……今週末のシェルフィールド劇場のチケットを、兄上から貰って」
「週末のシェルフィールドって、レディパトリシアの新作初日じゃないの!」
「初日なのかな?
兄上も誰かから貰ったらしい」
「プレミアチケットよ!すごい!嬉しい!」
レディパトリシアの新作チケットはなかなか手に入らない。
それも初日だなんて!
お兄様に譲られたと言う方は、どんな伝手を使って手に入れたの?
パトリシア・ライスはシェルフィールド劇場の専属で平民出身だけれど、その美貌と確かな演技力で、王弟殿下がパトロンに付いたことで『レディ』と称される、わたしが大好きな女優だ。
その彼女の新作チケットを譲られるなんて、さすがオースティンお兄様だ。
お兄様は、王都で社交を担われる当代のお父様の代わりに領地にいらっしゃるけれど、それでも次期侯爵と早めに繋がりを持ちたい貴族はこうして御機嫌を取ろうと必死なんだ。
「お兄様、戻っていらっしゃるのよね?
わたしからも御礼を言わせて!」
「いや、あのさ……
チケットは2枚で、兄上はシンシアと行くように、って……」
2枚って、わたしの分のチケットは無いということ?
そんな!シンシアと付き合う前だったら、わたしを誘ってくれたでしょう?
「……シンシアと夜に出掛けるのは無理じゃないの。
あの子のお母様が許さないでしょう?」
「マチネだし、大丈夫だと思う」
マチネ……新作初日の!一番最初の舞台!
そんな記念すべき舞台を観劇出来たのに!
シンシアに譲らないといけないなんて!
「兄上がハミルトンとの縁組を進めたがっていてさ。
シンシアを紹介してくれたアイリスにも御礼をしたいと言っていたから、次にチケットが手に入ったら2枚渡すように頼んでおくよ」
今回はシンシアとふたりで行くと決定なのね。
いつになるかもわからない次に、お前が誰と行こうが構わないってことね。
もうキャメロンやお兄様が優先するのはわたしじゃない。
わたしが紹介してあげて、まだ3ヶ月足らずの。
そんなシンシアをわたしより……
仕方がないことなのに、気持ちを収められない。
イライラしてきたから、早めにお暇を告げて立ち上がった。
わたしを女性扱いしないキャメロンが見送らないのはいつものことなのに、それさえもひどいと思ってしまう。
ひとり玄関に向かうと、帰宅されたオースティンお兄様と会った。
今までは、会えたら嬉しくてドキドキしていた。
だけど、さっきまでのキャメロンとの会話から、お兄様がシンシアとの交際を後押ししていると聞いて、わたしは……
「久し振りだね、マーフィー嬢」
いつからか、お兄様はアイリスと名前で呼んでくれなくなった。
それを寂しく思うけれど、わたしもお兄様と呼び掛けない方がいいのだろうと黙って会釈するだけにした。
「君には良いご縁をキャメロンに紹介して貰ったと感謝している。
それで、キャメロンから話は聞いたかな?」
「観劇の件ですか」
「……やはり、あいつは君には言えないのか。
キャメロンに注意したんだよ、ちゃんと君の事を考えてやれ、己の立場を自覚しろ、と」
わたしの事を考えてやれ?
気遣うような言葉だけれど、わたしに向けるお兄様の表情も口調も冷たいのは何故?
嫌な予感がした。
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