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9 真面目に付き合うなら◆◆アイリス
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わたしの涙を久しぶりに見たキャメロンは可笑しいくらいに戸惑っていた。
頭を撫でていた彼の手は、毛先から肩へと移り、そして背中に掌を当てていて……
その行為は無意識だったのか、気付いてから慌ててわたしから離れた。
「ご、ごめん……あれだよな?
アイリスにとって大事な友達を、優良物件なんて言ったから怒ったんだろ?
失礼だった、反省してます。
悪かったよ」
「……」
わたしのことを友達思いな女の子だと誤解しているようなキャメロンに否定はしなかった。
この涙はシンシアを思っての涙じゃない。
子爵位を、ひいてはわたしのことを、貴方が下に見ているようで辛かったからだとは言えなかった。
「今までアイリスが友達を紹介したいと、言ってきたことはなかっただろ。
アイリスには知り合いは多いのに、高等部で同じクラスになったばかりのカーライル嬢とあっという間に親友になって、俺に薦めてきたのだから、彼女はすごくいい子なんだと思う。
それなのに、俺は勤めに出るより婿入りの方がいいから、なんて言って悪かった」
「……シンシアは男性にあまり慣れてなくて……
キャムだったら安心だと思って……」
「お前がそんな風に俺を信頼してくれていたなんて、嬉しいよ」
……キャメロンだったらシンシアのことを。
シンシアだったらキャメロンのことを。
任せられると思っていた。
◇◇◇
2、3日して改めてキャメロンからシンシアを紹介して欲しいと頼まれた。
学院で顔合わせをするのではなく、休日に会いたいと言われた。
場所は王都で流行りのカフェ。
2週間前にはキャメロンが予約しておくと言う。
「カーライル嬢の好みなのかはわからないけど、取りあえず女の子に人気のカフェなら間違いないな」
「え、びっくりした……そんなにマメなひとだった?」
「お前、本当に失礼な奴だな。
俺だってもう17だ。
デートだって何回もしたことがある。
せっかく会ったのに何処にも入れなくてあたふたするなんて、一番女の子に馬鹿にされるパターンだろ」
「デートだって何回もした」と言うキャメロンの言葉が引っ掛かった。
いつ?誰と?
そんなの知らない、聞いてない。
今までわたしには内緒にしてたの?
動揺したことを悟られたくなくて、殊更に淡々と話すことにした。
「じゃあ、テーブルは2つ予約して。
お出掛けの際には、シンシアには侍女が付いてくるから」
そんなにデートに慣れてるなら、いつもの女の子達とは違う深窓のお嬢様のシンシアとも上手くやれるよね。
わたしとのお出掛けにさえ付いてくるあの侍女。
「あー、今じゃ希少な、常にお付きが目を光らせていて、ひとりでは行動出来ない地方貴族のご令嬢か。
でも真面目に付き合うなら、そういう古くささもいいと思うな」
真面目に付き合うなら?
まだ実際に会ってもいないシンシアと、真面目に付き合うと決めてるの?
「……シンシア本人は自立してるつもりだけれど、何だかんだ言っても、大事に囲われてるお嬢様なのよ。
貴族学院の3年間はお父様だけが領地に居て、王都のハミルトン邸にお母様とふたりで住んでるの。
寮に入るなんて、とんでもないんでしょうね」
シンシアは気軽に付き合える子じゃない。
そこのところだけは、キャメロンに念押しした。
頭を撫でていた彼の手は、毛先から肩へと移り、そして背中に掌を当てていて……
その行為は無意識だったのか、気付いてから慌ててわたしから離れた。
「ご、ごめん……あれだよな?
アイリスにとって大事な友達を、優良物件なんて言ったから怒ったんだろ?
失礼だった、反省してます。
悪かったよ」
「……」
わたしのことを友達思いな女の子だと誤解しているようなキャメロンに否定はしなかった。
この涙はシンシアを思っての涙じゃない。
子爵位を、ひいてはわたしのことを、貴方が下に見ているようで辛かったからだとは言えなかった。
「今までアイリスが友達を紹介したいと、言ってきたことはなかっただろ。
アイリスには知り合いは多いのに、高等部で同じクラスになったばかりのカーライル嬢とあっという間に親友になって、俺に薦めてきたのだから、彼女はすごくいい子なんだと思う。
それなのに、俺は勤めに出るより婿入りの方がいいから、なんて言って悪かった」
「……シンシアは男性にあまり慣れてなくて……
キャムだったら安心だと思って……」
「お前がそんな風に俺を信頼してくれていたなんて、嬉しいよ」
……キャメロンだったらシンシアのことを。
シンシアだったらキャメロンのことを。
任せられると思っていた。
◇◇◇
2、3日して改めてキャメロンからシンシアを紹介して欲しいと頼まれた。
学院で顔合わせをするのではなく、休日に会いたいと言われた。
場所は王都で流行りのカフェ。
2週間前にはキャメロンが予約しておくと言う。
「カーライル嬢の好みなのかはわからないけど、取りあえず女の子に人気のカフェなら間違いないな」
「え、びっくりした……そんなにマメなひとだった?」
「お前、本当に失礼な奴だな。
俺だってもう17だ。
デートだって何回もしたことがある。
せっかく会ったのに何処にも入れなくてあたふたするなんて、一番女の子に馬鹿にされるパターンだろ」
「デートだって何回もした」と言うキャメロンの言葉が引っ掛かった。
いつ?誰と?
そんなの知らない、聞いてない。
今までわたしには内緒にしてたの?
動揺したことを悟られたくなくて、殊更に淡々と話すことにした。
「じゃあ、テーブルは2つ予約して。
お出掛けの際には、シンシアには侍女が付いてくるから」
そんなにデートに慣れてるなら、いつもの女の子達とは違う深窓のお嬢様のシンシアとも上手くやれるよね。
わたしとのお出掛けにさえ付いてくるあの侍女。
「あー、今じゃ希少な、常にお付きが目を光らせていて、ひとりでは行動出来ない地方貴族のご令嬢か。
でも真面目に付き合うなら、そういう古くささもいいと思うな」
真面目に付き合うなら?
まだ実際に会ってもいないシンシアと、真面目に付き合うと決めてるの?
「……シンシア本人は自立してるつもりだけれど、何だかんだ言っても、大事に囲われてるお嬢様なのよ。
貴族学院の3年間はお父様だけが領地に居て、王都のハミルトン邸にお母様とふたりで住んでるの。
寮に入るなんて、とんでもないんでしょうね」
シンシアは気軽に付き合える子じゃない。
そこのところだけは、キャメロンに念押しした。
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