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6 泣き顔を見せてしまった◆◆アイリス
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「貴女の幼馴染みの?」
「そうよ、彼は次男だし、婚約者も恋人も居ないから、ハミルトン伯爵家の婿に丁度いいと思うの。
お相手が侯爵家なら、貴女のご両親も気に入ってくださるんじゃない?」
「……あの御方は無理でしょう。
サザーランド侯爵家と言えば、辺境伯家ともご縁続きよ。
うちのような田舎者には恐れ多いわ」
プライドの高いシンシアが卑下して、キャメロンを恐れ多いと言う。
それが何だか可笑しくて、わたしは気分が良くなってきた。
遠慮するのなら、どうにかしてふたりを会わせてやろうと思った。
身内のわたしが頼めばキャメロンが言うことを聞いてくれることも、シンシアに見せられるし。
「キャムは派手に見えるけれど、性根は真面目だし、貴女にお似合いだと思う」
彼は侯爵令息なのに、親切で優しい。
だから田舎育ちで、異性慣れしていないシンシアにも適当に合わせてくれると思う。
これまでも遊ぶ女の子には不自由していないから、シンシアを身体目的で弄ぶようなこともしないだろう。
男性を見る目を養うには条件を見るだけじゃなくて、実際にお付き合いして、交流に慣れないとね。
その第一歩に、箱入り娘の親友に気心の知れた幼馴染みを紹介してあげるのは、とてもいいことだとその時のわたしは思っていた。
◇◇◇
その日の夕方キャメロンの邸に行き、シンシアの話をした。
意外なことに彼はシンシアを知っていた。
それに、紹介なんて少し嫌がるかもと思っていたのに、簡単に了承した……
「カーライル嬢って、アイリスがいつも一緒に居る子だろ。
婚約者が居ないとは思わなかったなぁ。
彼女は俺みたいな次男三男からしたら、是非紹介していただきたい人気のご令嬢だし、見た目も悪くない」
「……そうなんだ。
シンシアがキャムのタイプだなんて思いもしなかったわ。
だったら、紹介してあげるわたしに感謝してよ!」
自分にもよくわからないけれど、イライラして語尾がきつくなってしまって、キャメロンが驚いたみたいにわたしを見た。
「別にタイプじゃないけど……ハミルトン領は問題無しの優良物件だし、領地なしの子爵位貰って勤めに出るよりは、伯爵家の婿入りの方がいいよな、くらいの感じだよ?」
卒業までに婿入りが決まらなければ、キャメロンは来年の文官試験に合格しなければならない。
その上で侯爵家が持っている子爵位を継ぐことになっていると、セーラ様から聞いていた。
彼の言う『領地なしの子爵位』はその事で、わたしの家のことではないのだけれど、それを思うと腹が立って悲しくなって。
わたしは珍しく彼の前で泣いてしまい、キャメロンを慌てさせてしまった。
キャメロンはわたしの父のような人生は歩みたくないのだ。
わたしが泣いてしまった理由にキャメロンは気付かない。
でもそれを口にすることは、みじめで出来なかった。
「……どうした、アイリス?
泣くなよ……いつも笑ってるお前が泣いたら、どうしたらいいか、わからないだろ?」
途方にくれたようなキャメロンの胸に頬を寄せたら、頭を撫でてくれた。
彼とはいつも楽しく遊んだり、おしゃべりするだけだった。
こんな風に甘えたことなんてなかったのに。
初めてキャメロンの前で泣き顔を見せてしまったけれど、わたしの髪を撫でる彼の優しい手が……
何だか心地よかった。
「そうよ、彼は次男だし、婚約者も恋人も居ないから、ハミルトン伯爵家の婿に丁度いいと思うの。
お相手が侯爵家なら、貴女のご両親も気に入ってくださるんじゃない?」
「……あの御方は無理でしょう。
サザーランド侯爵家と言えば、辺境伯家ともご縁続きよ。
うちのような田舎者には恐れ多いわ」
プライドの高いシンシアが卑下して、キャメロンを恐れ多いと言う。
それが何だか可笑しくて、わたしは気分が良くなってきた。
遠慮するのなら、どうにかしてふたりを会わせてやろうと思った。
身内のわたしが頼めばキャメロンが言うことを聞いてくれることも、シンシアに見せられるし。
「キャムは派手に見えるけれど、性根は真面目だし、貴女にお似合いだと思う」
彼は侯爵令息なのに、親切で優しい。
だから田舎育ちで、異性慣れしていないシンシアにも適当に合わせてくれると思う。
これまでも遊ぶ女の子には不自由していないから、シンシアを身体目的で弄ぶようなこともしないだろう。
男性を見る目を養うには条件を見るだけじゃなくて、実際にお付き合いして、交流に慣れないとね。
その第一歩に、箱入り娘の親友に気心の知れた幼馴染みを紹介してあげるのは、とてもいいことだとその時のわたしは思っていた。
◇◇◇
その日の夕方キャメロンの邸に行き、シンシアの話をした。
意外なことに彼はシンシアを知っていた。
それに、紹介なんて少し嫌がるかもと思っていたのに、簡単に了承した……
「カーライル嬢って、アイリスがいつも一緒に居る子だろ。
婚約者が居ないとは思わなかったなぁ。
彼女は俺みたいな次男三男からしたら、是非紹介していただきたい人気のご令嬢だし、見た目も悪くない」
「……そうなんだ。
シンシアがキャムのタイプだなんて思いもしなかったわ。
だったら、紹介してあげるわたしに感謝してよ!」
自分にもよくわからないけれど、イライラして語尾がきつくなってしまって、キャメロンが驚いたみたいにわたしを見た。
「別にタイプじゃないけど……ハミルトン領は問題無しの優良物件だし、領地なしの子爵位貰って勤めに出るよりは、伯爵家の婿入りの方がいいよな、くらいの感じだよ?」
卒業までに婿入りが決まらなければ、キャメロンは来年の文官試験に合格しなければならない。
その上で侯爵家が持っている子爵位を継ぐことになっていると、セーラ様から聞いていた。
彼の言う『領地なしの子爵位』はその事で、わたしの家のことではないのだけれど、それを思うと腹が立って悲しくなって。
わたしは珍しく彼の前で泣いてしまい、キャメロンを慌てさせてしまった。
キャメロンはわたしの父のような人生は歩みたくないのだ。
わたしが泣いてしまった理由にキャメロンは気付かない。
でもそれを口にすることは、みじめで出来なかった。
「……どうした、アイリス?
泣くなよ……いつも笑ってるお前が泣いたら、どうしたらいいか、わからないだろ?」
途方にくれたようなキャメロンの胸に頬を寄せたら、頭を撫でてくれた。
彼とはいつも楽しく遊んだり、おしゃべりするだけだった。
こんな風に甘えたことなんてなかったのに。
初めてキャメロンの前で泣き顔を見せてしまったけれど、わたしの髪を撫でる彼の優しい手が……
何だか心地よかった。
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