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最終話 イシュトヴァーン・ミハン④
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果たして、あれで良かったのかと、アーグネシュはまた言った。
怪しい催眠術もどきをアグネスにかけ、話を聞き出した事を彼女はまだ憂いていた。
アシュフォード王弟殿下の帰りを、ストロノーヴァの邸でふたりで待っていた。
殿下はアグネスを送ってから、またこちらに戻ってくると仰っていた。
殿下が戻ってくる前に、アーグネシュに聞いておきたい事もあった。
「アグネス嬢、君からはどう見えた?」
「そうですわね……例えば、一度失敗すると、もう二度と手は出さないと後悔するタイプと、次こそは上手くやろうと違う方法を考えるタイプの2種類に分けるとすれば、アグネス嬢は後者だと思います」
「意外だね?」
「……ストロノーヴァ様もわかっていらっしゃるでしょうに」
さすがに現場で多くのあの年頃の子供達を見てきただけの事はあるなと、ミハンは思った。
ミハンから見たアグネス・スローンは、素直で頑固。
繊細そうに見えて大胆。
口には出さないのに、自分の希望を通してきた。
アグネスは常に『二律背反の感情』で揺れ動いている。
まるでもうひとりのアグネスが彼女の中に存在しているかの様に。
それを先程の催眠術にかけられた状態のアグネスから感じた。
話したいのに、隠したい。
まだ、全部話せないから、そこに触れられそうになると、声の高低や強弱が変わっていた。
自分に同調させようと、術者のアーグネシュに無意識に働きかけていた。
離れたところから催眠術の様子を見ていたミハンには、アグネスがアーグネシュの力量を測っているようにも見えて、これは考えていたよりも難しいなと、感じた。
それとなく、殿下には注意をしておいた方がいいかもしれない。
「今夜はこちらで晩餐をと、お誘いした。
ルカも呼んで、君も同席してくれるかな?」
「……いえ、今日は些か疲れてしまいましたの。
殿下のお戻りを待って、少ししたらお暇致しますので」
「そうか、ではまた、別の機会に。
ルカと3人で食事をしよう」
当代、次代と、王弟殿下、皆が顔を合わせての晩餐会は、疲れている心身には堪えるだろうと、彼女に無理強いはしたくなかった。
当然、アーグネシュの夫である幼馴染みのルカスには了承を得て、今日はここに来て貰った。
妖しげな催眠術の舞台装置や、アグネスに了承させる為の小芝居も、当のアーグネシュよりもルカスの方が色々と質問をして、計画に乗っていた。
先週、アシュフォードから話を聞いたミハンはイェニィ伯爵家に、ルカスが在宅中か確認して、相談に行ったのだ。
◇◇◇
「催眠術と仰ったの?」
ミハンの頼みにイェニィ・アーグネシュの声は硬かった。
「どうして、そんな仰々しい……
普通にお話を聞かせて貰うだけではいけないの?」
ミハンはバロウズの王弟殿下の為に、同じくバロウズの侯爵令嬢の本心を聞き出すと決めて、親友の妻にお願いしようと尋ねてきていた。
「ミハンにしては珍しいね?
そういうのに首を突っ込むのは、嫌がるタイプだと思っていたよ」
妻の隣でイェニィ・ルカス伯爵がミハンに尋ねたが、最初から返事を期待していないように見えたし、実際にミハンは返事をしなかった。
ミハンとルカスは同い年で、生まれた時からの付き合いなので、返事がなくてもルカスは平気だ。
「……どう言えばいいかな、先入観を持って欲しくないからあまり話せないが、ご令嬢は少し難しくてね。
そんな難しい思春期の、15の女の子が素面で、君に悩み相談をする?」
「確かに、本心を聞き出そうとしたら、とても時間はかかります。
初対面の当日に聞き出すのは、まず無理です。
とても長く時間をかけて信頼関係を築いてからでないと、そういう子供は心を開いてくれませんから」
「でも、きっと本人は打ち明けたい筈なんだ。
だから、打ち明けやすいように、催眠術をかけてあげるということ」
ミハンがそう話しても、アーグネシュがもろ手を挙げて賛成することはなかった。
「無理矢理聞き出したり、嫌がったりしたら、直ぐに止めてもいいんですね?」
「聞き出すのは僕じゃない、君だから。
何をどう進めるのか、全て任せるよ」
自分は場を提供するだけで手出しはしないと、右手を胸に当て誓うミハンを穿ったように見る妻の肩を、イェニィ伯爵は優しく抱き寄せた。
「貴族のご令嬢も、平民のお嬢さん達も一緒だ。
誰かに話すことだけで助かると言われたんだろう?
侯爵令嬢を助けてあげないとね?」
夫の言葉に不承不承頷くアーグネシュを、ミハンは見ていた。
自分は依頼するだけ、優しく説得するのは夫の役目……
わかっているから、ルカスの在宅日に訪ねたのだ。
以前なら自虐的にそう思っていたが、現在のミハンは仲のよい親友夫妻の側に居ても、心は凪いでいた。
◇◇◇
『謝って許して貰わないと、前へ進めない』と、語ったアシュフォードに、
『許されようと、思うな。それを抱えて生きていけ』と、話したミハンだった。
アシュフォードの前では偉そうに人生を悟ったように語ったが、今でもまだ迷うことは沢山有って。
アドリアナへの傷に、またひとつクラリスへいい加減に返事をした事の責任を上乗せして。
アグネスの告白で聞かされた、呪いの元になったという温室でアシュフォードがトルラキアの言葉で愛を語ったというのも、自分が絡んでいた。
『先生の代わりにクラリスに言わされた』
これでまた、心の中で小さな罪がひとつ増えた。
誰かを傷付けるのが怖くて、誰かに傷付けられるのも怖くて。
研究を言い訳にして、邸に引きこもっていた。
人と話をする機会を減らしたせいで会話の能力は落ち、肝心な話をきちんと伝えられなくなった。
それ故アグネスに死人還りを、諦めさせることも出来なかった。
ならばせめて。
その場に居て、見守らせて貰おうと思っていたが、あの祖父に続いて、次代の公爵になる筈だった父までも見罷られてしまった。
遠い先の話だと思っていたストロノーヴァの当主になってしまったのだ。
もう簡単に出国出来るような立場ではなくなった。
だから、代わりにノイエをバロウズの殿下の元へ送り込んだ。
アシュフォード殿下は、不思議なひとだった。
学生の頃は普通の、明るくて考えなしの、甘やかされた王子に見えた。
だが言葉を交わすと、意外に真面目に人の話を聞く。
王子という肩書きに対しての自意識の高さに、自分で苦しんでいた。
それで自分の経験を踏まえて、話をさせて貰えば、楽になったと御礼を言ってこられる。
このひとの力になりたいと思わせるひとだった。
だから、ルカスに指摘された様に。
らしくもなくアグネス嬢との事にも、口出しをしてしまったのだ。
殿下は一途に愛を口にするひとなのに、何故か同類の彼等がよく口にする『運命』だの、『真実の愛』だの……
そんな言葉でアグネス嬢の事を語らないひとだったから。
敢えて、結ばれない運命があると、告げた。
貴方達ふたりは捻れてしまって、元に戻るのは難しい、と。
しかし、殿下は『足掻く』と、仰ったので。
アドリアナがミハンに遺したそれは、愛ではなく呪いだった。
呪われてミハンは誰も愛せなくなってしまった。
誰も愛せない自分に見せてほしいと、殿下に願ったのだ。
思わず、言ってしまった、信じてもいなかった言葉を。
「殿下の運命の、真実の愛を私に見せてください」と。
バロウズからノイエが帰国するのは今日だ。
彼は実家に戻る前に、公爵家に報告に伺います、と手紙に書いていた。
アシュフォード王弟殿下の真実の愛の行方がどうなったのか、大変気にはなっていたが、公爵位を継ぐあれこれも大変で。
昔から『ストロノーヴァの両翼』と呼ばれていたオルツォ侯爵家の義兄のアンドレィ、イェニィ伯爵家の親友ルカスが仕事を終えてから邸に寄って、膨大な引き継ぎ書類の仕分け等手伝ってくれていたので、睡眠時間は最低限確保が出来た。
正式に養子となったノイエの部屋も、公爵家には用意されたが、ノイエはまだトルラキアに戻ってくる気はないようだったし、ミハンも無理に帰国させるつもりもなかった。
お互いに連絡さえ途絶えさせる事がなければ、相応しい時に正しい姿でノイエは戻ってくる。
ミハンにはそう思えたので、ノイエが納得するまで待とうと決めていた。
それにもし、結局戻ってこなくても。
赤い瞳じゃなくても。
男子じゃなくても。
後継者の条件を変えていこうと決めていた。
俺はもうミハンとは呼ばれない、これから先はイシュトヴァーンだ。
ここからが新生ストロノーヴァなのだから。
そう決意したイシュトヴァーンは、今はまだ知らない。
次にノイエが助けを求めて、この部屋に駆け込んでくるのは、18年後の事だ。
22歳年下の、バロウズのフラナガン公女のデビュタントのパートナーを引き受けたばかりに、公女から怒涛の如く口説かれる様になり、周囲に助けを求めても、誰も助けてくれない、と。
『フラナガンの懐刀』と呼ばれるマーシャル伯爵は、ノイエの情報を流して裏で公女を手助けしていたし、
怒れるフラナガン公爵閣下を、唯一諫める事が可能な公爵夫人は
『だって、血筋なのだから』と、却って煽るような事を仰って、笑っているだけ。
公爵閣下においては、いつか御恩をお返しすると決めていたのに、このままでは私は影を送られてしまう、と。
結局、公爵閣下の『周囲から助けて貰う才能』を受け継ぎ、公爵夫人に似て『自分の思い通りにする』公女に、ノイエが捕まり、公爵閣下が折れて。
純血主義をミハンの代で捨てたストロノーヴァ公爵家に、バロウズの血筋が入ることになり。
やがてトルラキア王国初の赤い瞳の女公爵が誕生するのは、それより、もっともっと先の話。
新しいストロノーヴァの扉を開く事になるのが自分だと。
イシュトヴァーン・ミハンは、今はまだ知らない。
おわり
怪しい催眠術もどきをアグネスにかけ、話を聞き出した事を彼女はまだ憂いていた。
アシュフォード王弟殿下の帰りを、ストロノーヴァの邸でふたりで待っていた。
殿下はアグネスを送ってから、またこちらに戻ってくると仰っていた。
殿下が戻ってくる前に、アーグネシュに聞いておきたい事もあった。
「アグネス嬢、君からはどう見えた?」
「そうですわね……例えば、一度失敗すると、もう二度と手は出さないと後悔するタイプと、次こそは上手くやろうと違う方法を考えるタイプの2種類に分けるとすれば、アグネス嬢は後者だと思います」
「意外だね?」
「……ストロノーヴァ様もわかっていらっしゃるでしょうに」
さすがに現場で多くのあの年頃の子供達を見てきただけの事はあるなと、ミハンは思った。
ミハンから見たアグネス・スローンは、素直で頑固。
繊細そうに見えて大胆。
口には出さないのに、自分の希望を通してきた。
アグネスは常に『二律背反の感情』で揺れ動いている。
まるでもうひとりのアグネスが彼女の中に存在しているかの様に。
それを先程の催眠術にかけられた状態のアグネスから感じた。
話したいのに、隠したい。
まだ、全部話せないから、そこに触れられそうになると、声の高低や強弱が変わっていた。
自分に同調させようと、術者のアーグネシュに無意識に働きかけていた。
離れたところから催眠術の様子を見ていたミハンには、アグネスがアーグネシュの力量を測っているようにも見えて、これは考えていたよりも難しいなと、感じた。
それとなく、殿下には注意をしておいた方がいいかもしれない。
「今夜はこちらで晩餐をと、お誘いした。
ルカも呼んで、君も同席してくれるかな?」
「……いえ、今日は些か疲れてしまいましたの。
殿下のお戻りを待って、少ししたらお暇致しますので」
「そうか、ではまた、別の機会に。
ルカと3人で食事をしよう」
当代、次代と、王弟殿下、皆が顔を合わせての晩餐会は、疲れている心身には堪えるだろうと、彼女に無理強いはしたくなかった。
当然、アーグネシュの夫である幼馴染みのルカスには了承を得て、今日はここに来て貰った。
妖しげな催眠術の舞台装置や、アグネスに了承させる為の小芝居も、当のアーグネシュよりもルカスの方が色々と質問をして、計画に乗っていた。
先週、アシュフォードから話を聞いたミハンはイェニィ伯爵家に、ルカスが在宅中か確認して、相談に行ったのだ。
◇◇◇
「催眠術と仰ったの?」
ミハンの頼みにイェニィ・アーグネシュの声は硬かった。
「どうして、そんな仰々しい……
普通にお話を聞かせて貰うだけではいけないの?」
ミハンはバロウズの王弟殿下の為に、同じくバロウズの侯爵令嬢の本心を聞き出すと決めて、親友の妻にお願いしようと尋ねてきていた。
「ミハンにしては珍しいね?
そういうのに首を突っ込むのは、嫌がるタイプだと思っていたよ」
妻の隣でイェニィ・ルカス伯爵がミハンに尋ねたが、最初から返事を期待していないように見えたし、実際にミハンは返事をしなかった。
ミハンとルカスは同い年で、生まれた時からの付き合いなので、返事がなくてもルカスは平気だ。
「……どう言えばいいかな、先入観を持って欲しくないからあまり話せないが、ご令嬢は少し難しくてね。
そんな難しい思春期の、15の女の子が素面で、君に悩み相談をする?」
「確かに、本心を聞き出そうとしたら、とても時間はかかります。
初対面の当日に聞き出すのは、まず無理です。
とても長く時間をかけて信頼関係を築いてからでないと、そういう子供は心を開いてくれませんから」
「でも、きっと本人は打ち明けたい筈なんだ。
だから、打ち明けやすいように、催眠術をかけてあげるということ」
ミハンがそう話しても、アーグネシュがもろ手を挙げて賛成することはなかった。
「無理矢理聞き出したり、嫌がったりしたら、直ぐに止めてもいいんですね?」
「聞き出すのは僕じゃない、君だから。
何をどう進めるのか、全て任せるよ」
自分は場を提供するだけで手出しはしないと、右手を胸に当て誓うミハンを穿ったように見る妻の肩を、イェニィ伯爵は優しく抱き寄せた。
「貴族のご令嬢も、平民のお嬢さん達も一緒だ。
誰かに話すことだけで助かると言われたんだろう?
侯爵令嬢を助けてあげないとね?」
夫の言葉に不承不承頷くアーグネシュを、ミハンは見ていた。
自分は依頼するだけ、優しく説得するのは夫の役目……
わかっているから、ルカスの在宅日に訪ねたのだ。
以前なら自虐的にそう思っていたが、現在のミハンは仲のよい親友夫妻の側に居ても、心は凪いでいた。
◇◇◇
『謝って許して貰わないと、前へ進めない』と、語ったアシュフォードに、
『許されようと、思うな。それを抱えて生きていけ』と、話したミハンだった。
アシュフォードの前では偉そうに人生を悟ったように語ったが、今でもまだ迷うことは沢山有って。
アドリアナへの傷に、またひとつクラリスへいい加減に返事をした事の責任を上乗せして。
アグネスの告白で聞かされた、呪いの元になったという温室でアシュフォードがトルラキアの言葉で愛を語ったというのも、自分が絡んでいた。
『先生の代わりにクラリスに言わされた』
これでまた、心の中で小さな罪がひとつ増えた。
誰かを傷付けるのが怖くて、誰かに傷付けられるのも怖くて。
研究を言い訳にして、邸に引きこもっていた。
人と話をする機会を減らしたせいで会話の能力は落ち、肝心な話をきちんと伝えられなくなった。
それ故アグネスに死人還りを、諦めさせることも出来なかった。
ならばせめて。
その場に居て、見守らせて貰おうと思っていたが、あの祖父に続いて、次代の公爵になる筈だった父までも見罷られてしまった。
遠い先の話だと思っていたストロノーヴァの当主になってしまったのだ。
もう簡単に出国出来るような立場ではなくなった。
だから、代わりにノイエをバロウズの殿下の元へ送り込んだ。
アシュフォード殿下は、不思議なひとだった。
学生の頃は普通の、明るくて考えなしの、甘やかされた王子に見えた。
だが言葉を交わすと、意外に真面目に人の話を聞く。
王子という肩書きに対しての自意識の高さに、自分で苦しんでいた。
それで自分の経験を踏まえて、話をさせて貰えば、楽になったと御礼を言ってこられる。
このひとの力になりたいと思わせるひとだった。
だから、ルカスに指摘された様に。
らしくもなくアグネス嬢との事にも、口出しをしてしまったのだ。
殿下は一途に愛を口にするひとなのに、何故か同類の彼等がよく口にする『運命』だの、『真実の愛』だの……
そんな言葉でアグネス嬢の事を語らないひとだったから。
敢えて、結ばれない運命があると、告げた。
貴方達ふたりは捻れてしまって、元に戻るのは難しい、と。
しかし、殿下は『足掻く』と、仰ったので。
アドリアナがミハンに遺したそれは、愛ではなく呪いだった。
呪われてミハンは誰も愛せなくなってしまった。
誰も愛せない自分に見せてほしいと、殿下に願ったのだ。
思わず、言ってしまった、信じてもいなかった言葉を。
「殿下の運命の、真実の愛を私に見せてください」と。
バロウズからノイエが帰国するのは今日だ。
彼は実家に戻る前に、公爵家に報告に伺います、と手紙に書いていた。
アシュフォード王弟殿下の真実の愛の行方がどうなったのか、大変気にはなっていたが、公爵位を継ぐあれこれも大変で。
昔から『ストロノーヴァの両翼』と呼ばれていたオルツォ侯爵家の義兄のアンドレィ、イェニィ伯爵家の親友ルカスが仕事を終えてから邸に寄って、膨大な引き継ぎ書類の仕分け等手伝ってくれていたので、睡眠時間は最低限確保が出来た。
正式に養子となったノイエの部屋も、公爵家には用意されたが、ノイエはまだトルラキアに戻ってくる気はないようだったし、ミハンも無理に帰国させるつもりもなかった。
お互いに連絡さえ途絶えさせる事がなければ、相応しい時に正しい姿でノイエは戻ってくる。
ミハンにはそう思えたので、ノイエが納得するまで待とうと決めていた。
それにもし、結局戻ってこなくても。
赤い瞳じゃなくても。
男子じゃなくても。
後継者の条件を変えていこうと決めていた。
俺はもうミハンとは呼ばれない、これから先はイシュトヴァーンだ。
ここからが新生ストロノーヴァなのだから。
そう決意したイシュトヴァーンは、今はまだ知らない。
次にノイエが助けを求めて、この部屋に駆け込んでくるのは、18年後の事だ。
22歳年下の、バロウズのフラナガン公女のデビュタントのパートナーを引き受けたばかりに、公女から怒涛の如く口説かれる様になり、周囲に助けを求めても、誰も助けてくれない、と。
『フラナガンの懐刀』と呼ばれるマーシャル伯爵は、ノイエの情報を流して裏で公女を手助けしていたし、
怒れるフラナガン公爵閣下を、唯一諫める事が可能な公爵夫人は
『だって、血筋なのだから』と、却って煽るような事を仰って、笑っているだけ。
公爵閣下においては、いつか御恩をお返しすると決めていたのに、このままでは私は影を送られてしまう、と。
結局、公爵閣下の『周囲から助けて貰う才能』を受け継ぎ、公爵夫人に似て『自分の思い通りにする』公女に、ノイエが捕まり、公爵閣下が折れて。
純血主義をミハンの代で捨てたストロノーヴァ公爵家に、バロウズの血筋が入ることになり。
やがてトルラキア王国初の赤い瞳の女公爵が誕生するのは、それより、もっともっと先の話。
新しいストロノーヴァの扉を開く事になるのが自分だと。
イシュトヴァーン・ミハンは、今はまだ知らない。
おわり
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芹香様
ご感想ありがとうございます!
本編と番外編。
どちらも読んでいただけて感無量です😭
本編にいただいた主な感想は、アシュフォードの馬鹿野郎、クラリスムカつく、に始まり、最後は無事にハピエンになるとは!でした。
オカルトに傾斜するヒロインでしたから笑
一気にお読みくださったこと。重ねて感謝申し上げます。
睡眠不足、ご自愛くださいませね。
また、他の話にもご感想いただけましたら、幸いです🌟
(またおねだりしてしまう)
ゆうきまぐろ様
ご感想ありがとうございます💕
こちらにも、コメント感謝致します✨✨
短めにしようと思っていたので、ミハン最終話詰め込んでしまいました。
先生の返事が、あの鈍感アシュフォードが『それは逃げられたね』と気付くくらいなので、クラリスにもわかっていたはずなんですけど、ねー。
本当に実家から出たかったんでしょう。
留学じゃ駄目だったのかな(いや、私が書いたんだ💦)
アドリアナの家族が遠慮なしなのは、帝国とトルラキアの因縁があるとか。省きました。
かつて毎年春から秋にかけてトルラキアに攻めてきて併合をしようとしていた帝国。
アドリアナのバウアー家の先祖はストロノーヴァ勇猛公に残忍な方法で見せしめ処刑された、みたいな😅
ゆうきまぐろ様のご指摘で『向き合うこと』を改めて考えました。
そうだ、今度からそういう事にさせてください。いただきます、ありがとうございます💕
さて、ボチボチと次のお話を書いております。
しばらく病む話は書きたくなくて、アホやねの話にチャレンジしてます。
ヒーロー不在の病まないヒロイン達の物語。
短編ですが、最後まで書いてから投稿します。
こちらとは感じが違いますが。
また、お立ち寄りいただけますように🍀
チョコプリン様
ご感想ありがとうございます😊
こちらにもお立ち寄りくださいまして、嬉しいです🎵
大層な感じになりますが……
前回のテーマは『身代わり』、
今回は『扉を開く』なんですね。
それで、若いノイエとレイには実際に扉を開かせて。
先生と国王陛下には、新しい世代の扉を開かせる事にしました。
それでいうと、乳母はそこからは外れてしまいますね、しがみついてる人なので😅
アシュフォードの甘さから、他の王子達の元乳母達がなれなかった『専用女官長』になれた。
この専用という他には何の権力もない肩書きだけの役職なのに、アシュフォードにとっては絶対なんだと思い上がって。
リリアンは未だにレイが好きなんです。
相性はあちらの話ではなくて、レイが年下なので傷付けたくて言いました。
『貴方とは相性が悪かったから別れたんだから💧』です。
ツンです、デレなしのツンツンです。
レイは『置いていかれること』を恐れているひとで、これは母親の一番がアシュフォードだったことで、幼い頃は何度も置いていかれたから。
それを長い間の片想いから察していた元妻は、一度だけの懇願を迷いもせず断られたことで、『自分では無理だ』と諦めました。
そして、離婚です……
先生のお相手は、もう難しすぎて(笑)
私には書けなくて💦
また、お会い出来ますように🍀