【完結】この悲しみも。……きっといつかは消える

Mimi

文字の大きさ
上 下
41 / 58

第40話

しおりを挟む
 イアンが事情を話すと言ったので、リチャードは慌てて家令のハモンドに席を外すように命じた。


 ミルドレッドから聞いた話では、アダムスの使用人達は、スチュワートの両親の離婚後全て入れ替えられたと言う。
 ハモンドとて、一族の男だ。
 本家に双子が誕生した場合の処理の仕方は知っているはずだ。
 それなのに、ここまで秘密主義を貫くのは、何故なんだ。

 イアンは、リチャードの面の皮を剥がしてやりたくなった。
 


「秘密を共有するのは家族のみと、アダムス子爵が仰せなら。
 私の義妹マリーと、この家の孫であるメラニー嬢も、呼んできて貰えるかな」

「メラニーちゃんは、何処に居るの?
 嫌がるようなら、無理に連れてこなくてもいいから。
 わたくしが後から会いに行きます」


 ジャーヴィスがいけしゃあしゃあと、部屋を出ていくハモンドに惚けて頼むのを、リチャードは忌々しそうに見ている。

 この場では一番立場が上のミルドレッドが、そう命じるのなら、それは守らなくてはならない。
 ハモンドは、恐らく……と断ってから、メラニーの居場所を口にした。


「メラニー様の面倒は、ユリアナが主に見ております」


 ハモンドがメラニーに様を付けたのは、スチュワートの姪だと知ったからだ。
 今まではなんとなく『あの子』で、一同通してきた。


 母親のローラだと偽っていたくせに、マリーはメラニーの世話をしなかった。
 持参した数少ない子供服も、全て中古品のようで、メラニーはいつも身体より大きめの古ぼけたワンピースを着せられていた。
 マリーは娘の食事の好みを聞いても、よく分かっていなかった。
 それで料理上手なユリアナに幼女の喜びそうな物を作らせると、メラニーは彼女に懐き、ずっと側を離れない。



「確か、ミルドレッドの専属侍女だったな。
 では、そのユリアナ・バークレー嬢も一緒に。
 懐いているなら、その方がメラニー嬢も安心だろう」


 
 正直、ジャーヴィスは何の理由で、ユリアナをこの場に連れ出すか悩んでいた。
 だが、幸運なことに彼女がメラニーの世話をしていて、懐いているのなら……運命の偶然に感謝した。

 

     ◇◇◇



 ユリアナは、リチャードの母グロリアと同じバークレーの娘だ。
 本当はここには呼びたくなかったが、いつも曖昧な対応しか出来ない愚鈍な侍女だったので、邪魔にはならんだろと、リチャードは仕方ないと諦めた。
 それでも、ジャーヴィスと何処の馬の骨とも知れない男に、この場を仕切られるのには我慢がならなかった。

 ここまで来ても、リチャードが気にするのは男性ふたりで。
 小娘のミルドレッドのこと等、こいつらが帰ったら好きに出来ると考えていた。


 王命が出たという『あの女』との結婚も、明日にでもシールズに面会を捩じ込んで、こんなあり得ない養子縁組は認めないと、大声で文句を言えば、どうにかなるはずだ。
 この由緒正しいアダムスの新当主に、あんな元平民を嫁がせるわけにはいかない。



 その新当主レナードも最初の驚愕から時間が経過すると、心配は『ウィラードとは誰なのか』から『王命でマリーと結婚しなくてはならないこと』に移っていた。
 

「王家も俺も、ウィンガムなら誰でもいい」と、ミルドレッドに投げつけたのは確かに自分だったが。
 まさかあのローラを、ジャーヴィスがマーチ家の養女にするとは想像もしていなかった。


 昨夜だってローラを抱いていたのに、あの女は何も言わなかった。
 一体、いつジャーヴィスと連絡を取っていたのか。
 レナードは苛々と親指の爪を噛んだ。
 母ジュリアから注意されていた子供の頃からの悪癖だが、今も感情が落ち着かなくなると出てしまう。



 カールトンはとにかく下を向いていて、その表情は読み取れないが、アダムスの男達の三者三様の様子にイアンは呆れていた。


『アダムスは一枚岩』とミルドレッドは言うが、それは何かを隠す為だ。
 本当の意味で団結している訳じゃない。


 何らかの理由で女性を憎悪しているリチャード。
 自分のことしか考えていないレナード。
 そして、反対に何を考えているのか分からないカールトン。


 絶対に彼女を、こいつらから引き離すと、イアンは改めて決意した。



 しばらくすると、ハモンドがユリアナとメラニー、そしてマリーを連れてきた。


「お前は!
 何勝手な真似を……」


 マリーの姿を見るとレナードは、そう言いながら立ち上がって腕を振り上げようとしたので、イアンがそれを取り押さえた。


 レナードと関係があることを、マリーから聞いていた。
 彼女は、ジャーヴィスからの言い付けを守って、ちゃんと今日までレナードには、何も話していなかったのだ。


 そんなマリーが、目の前で暴力を振るわれるのを見たくなかったし、ミルドレッドやメラニーにも見せたくなかった。



 イアンに後ろ手に捻られて、床に押し付けられたレナードが離せと、喚いていた。
 イアンは暴れる彼を制圧しながら、反対に同情した。


 ミルドレッドと言う本命の女性の前で、みっともない姿をさらけ出すこの男が、本当に哀れだった。

しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

(完結)婚約破棄から始まる真実の愛

青空一夏
恋愛
 私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。  女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?  美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

処理中です...