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第39話
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あぁ、やはり……と。
3人の中でカールトンだけが、逸早く理解した。
またこのふたりは、大人達によって昔から決められている物事を、ひっくり返してやろうと企んでいる。
そして、それは必ず成功する、今度も。
ふたりの反抗が学院を揺るがした頃とは違い、ジャーヴィスもギャレットも、そして自分も既に大人になっているのに、カールトンはそう理解した。
「マリー? あの女はローラだろ!」
「義妹の本名はマリー・ギルモアで、ローラの幼馴染みです。
本人に、何故ローラの名を騙ったのか尋ねたら。
自分はただ彼女の名前を出しただけで、どういう訳か、ローラだと思い込まれてしまった。
そうなった以上は、ローラのままでいた方がウィラードの娘であるメラニーを守るのに都合がいいだろうから、と。
仕方なく母親を演じていたらしくて、許してやって貰えませんか。
彼女は王都から遥々レイウッドまで、当主の姪であるメラニー嬢を送り届けた、善意の第三者なんですから。
その心根の素晴らしさに、思わず私の義妹になって欲しいと、お願い致しまして」
特に感情をこめることもなく、しれっと説明するジャーヴィスに、もう少し演技すればいいのにと、イアンは心の中で笑った。
「何、 何を言ってる?
ミリー、君の兄貴は何を言ってる?
養女にしたって……あの女と結婚?
あのチビが誰の娘だって?
スチュワートの姪?
ちゃんと説明してくれ!」
レナードは情報量の多さに混乱して、馬鹿だと罵ったミルドレッドに助けを求めた。
「レナード様、貴方も何もご存知ないのですね。
次期当主なのに、お気の毒に。
わたくしも何も教えられていなかった……
だから、説明は出来ません。
叔父様かカールトン様なら、メラニーちゃんの父親のウィラード様が誰なのか、お答え下さると思います」
ミルドレッドから名前を出されたふたりは、対照的だった。
リチャードは、怒りに顔を赤く染め、彼女を睨み。
反対にカールトンは青ざめて、レナードの視線から顔を背けた。
今、この場で声をあげているのは、レナードだけ。
「叔父上、ウィラードって誰ですか?
カールは知ってて、俺は知らないって、何のことですか!
どうして黙っているんですか……
……都合が悪いと黙るのか!
カールでもいい! 何とか言えよ!」
「……ウィラードは、スチュワートの双子の兄だと聞いた」
父のリチャードが、未だに何も言わないので、カールトンが言い出した。
「本家の長男のウィラードが今何処に居るかは、俺は知らない。
ただ何か、母親が問題を起こして離縁されて。
ウィラードを連れて、ここを出た、って。
父上からはそれだけしか聞いていない。
去年クラインが産まれた時に、ウィラードと言う名前は既に居るので付けたら駄目だと言われて……
それだけしか聞いていない」
それだけしか聞いていないと、繰り返すカールトンの説明は、レナードにとっては言い訳にしか聞こえなかった。
「それでも、スチュワートと同じで、俺の異母兄の話だろ!
どうして叔父上も、カールも!
父上も、兄上も……そうか母上もか……
俺にだけ、教えてくれなかった……」
「……」
その理由くらいは、はっきり答えてあげればいいのにと、相変わらず黙って自分を睨んでいるリチャードを、ミルドレッドは見返した。
いいわ、貴方が答えないなら、わたしが言う。
もう貴方を、恐れたりしない。
「わたくしが教えて貰えなかったのは、余所者だから。
レナード様が教えて貰えなかったのは、伯爵家を離れて平民になる予定だったから、でしょう」
「女が、余計な口を挟みおって!
黙らんか!」
ようやくリチャードが言葉を発したのは、ミルドレッドに対してだった。
その暴言に対して、立ち上がり掛けたジャーヴィスの腕をミルドレッドが抑えた。
この男は追い詰められていても、ミルドレッドにだけは強く出るのかと、イアンは拳を握った。
彼の家は今では平民だが、誰ひとりとして女性に対して、その発言を抑えつけるようなことはしない。
このリチャード・アダムスを完膚なきまでに叩き潰したいと、イアンは切実に思った。
スチュワートとウィラードの母メラニーが何の問題を起こしたのかは、まだ分からない。
しかし、父親が離縁した妻と長男を気に掛けていたのなら、少なくとも彼自身が離縁を希望したのではないと、想像はつく。
バーナードが、母を喪ったウィラードをアダムスに連れ戻せなかったのは、この男が強硬に反対したのではないか。
そう思えてならないイアンはゆっくりと手を上げて、皆の注目を集めた。
「では、全てのご事情をご存知のはずのアダムス子爵が何も語ろうとなさらないので。
僭越ながら、ここからは私が。
調査した結果わかった範囲まで、レナード卿にご説明致します」
3人の中でカールトンだけが、逸早く理解した。
またこのふたりは、大人達によって昔から決められている物事を、ひっくり返してやろうと企んでいる。
そして、それは必ず成功する、今度も。
ふたりの反抗が学院を揺るがした頃とは違い、ジャーヴィスもギャレットも、そして自分も既に大人になっているのに、カールトンはそう理解した。
「マリー? あの女はローラだろ!」
「義妹の本名はマリー・ギルモアで、ローラの幼馴染みです。
本人に、何故ローラの名を騙ったのか尋ねたら。
自分はただ彼女の名前を出しただけで、どういう訳か、ローラだと思い込まれてしまった。
そうなった以上は、ローラのままでいた方がウィラードの娘であるメラニーを守るのに都合がいいだろうから、と。
仕方なく母親を演じていたらしくて、許してやって貰えませんか。
彼女は王都から遥々レイウッドまで、当主の姪であるメラニー嬢を送り届けた、善意の第三者なんですから。
その心根の素晴らしさに、思わず私の義妹になって欲しいと、お願い致しまして」
特に感情をこめることもなく、しれっと説明するジャーヴィスに、もう少し演技すればいいのにと、イアンは心の中で笑った。
「何、 何を言ってる?
ミリー、君の兄貴は何を言ってる?
養女にしたって……あの女と結婚?
あのチビが誰の娘だって?
スチュワートの姪?
ちゃんと説明してくれ!」
レナードは情報量の多さに混乱して、馬鹿だと罵ったミルドレッドに助けを求めた。
「レナード様、貴方も何もご存知ないのですね。
次期当主なのに、お気の毒に。
わたくしも何も教えられていなかった……
だから、説明は出来ません。
叔父様かカールトン様なら、メラニーちゃんの父親のウィラード様が誰なのか、お答え下さると思います」
ミルドレッドから名前を出されたふたりは、対照的だった。
リチャードは、怒りに顔を赤く染め、彼女を睨み。
反対にカールトンは青ざめて、レナードの視線から顔を背けた。
今、この場で声をあげているのは、レナードだけ。
「叔父上、ウィラードって誰ですか?
カールは知ってて、俺は知らないって、何のことですか!
どうして黙っているんですか……
……都合が悪いと黙るのか!
カールでもいい! 何とか言えよ!」
「……ウィラードは、スチュワートの双子の兄だと聞いた」
父のリチャードが、未だに何も言わないので、カールトンが言い出した。
「本家の長男のウィラードが今何処に居るかは、俺は知らない。
ただ何か、母親が問題を起こして離縁されて。
ウィラードを連れて、ここを出た、って。
父上からはそれだけしか聞いていない。
去年クラインが産まれた時に、ウィラードと言う名前は既に居るので付けたら駄目だと言われて……
それだけしか聞いていない」
それだけしか聞いていないと、繰り返すカールトンの説明は、レナードにとっては言い訳にしか聞こえなかった。
「それでも、スチュワートと同じで、俺の異母兄の話だろ!
どうして叔父上も、カールも!
父上も、兄上も……そうか母上もか……
俺にだけ、教えてくれなかった……」
「……」
その理由くらいは、はっきり答えてあげればいいのにと、相変わらず黙って自分を睨んでいるリチャードを、ミルドレッドは見返した。
いいわ、貴方が答えないなら、わたしが言う。
もう貴方を、恐れたりしない。
「わたくしが教えて貰えなかったのは、余所者だから。
レナード様が教えて貰えなかったのは、伯爵家を離れて平民になる予定だったから、でしょう」
「女が、余計な口を挟みおって!
黙らんか!」
ようやくリチャードが言葉を発したのは、ミルドレッドに対してだった。
その暴言に対して、立ち上がり掛けたジャーヴィスの腕をミルドレッドが抑えた。
この男は追い詰められていても、ミルドレッドにだけは強く出るのかと、イアンは拳を握った。
彼の家は今では平民だが、誰ひとりとして女性に対して、その発言を抑えつけるようなことはしない。
このリチャード・アダムスを完膚なきまでに叩き潰したいと、イアンは切実に思った。
スチュワートとウィラードの母メラニーが何の問題を起こしたのかは、まだ分からない。
しかし、父親が離縁した妻と長男を気に掛けていたのなら、少なくとも彼自身が離縁を希望したのではないと、想像はつく。
バーナードが、母を喪ったウィラードをアダムスに連れ戻せなかったのは、この男が強硬に反対したのではないか。
そう思えてならないイアンはゆっくりと手を上げて、皆の注目を集めた。
「では、全てのご事情をご存知のはずのアダムス子爵が何も語ろうとなさらないので。
僭越ながら、ここからは私が。
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