【完結】この悲しみも。……きっといつかは消える

Mimi

文字の大きさ
上 下
40 / 58

第39話

しおりを挟む
 あぁ、やはり……と。
 3人の中でカールトンだけが、逸早く理解した。

 またこのふたりは、大人達によって昔から決められている物事を、ひっくり返してやろうと企んでいる。
 そして、それは必ず成功する、今度も。



 ふたりの反抗が学院を揺るがした頃とは違い、ジャーヴィスもギャレットも、そして自分も既に大人になっているのに、カールトンはそう理解した。

 

「マリー? あの女はローラだろ!」

「義妹の本名はマリー・ギルモアで、ローラの幼馴染みです。
 本人に、何故ローラの名を騙ったのか尋ねたら。
 自分はただ彼女の名前を出しただけで、どういう訳か、ローラだと思い込まれてしまった。
 そうなった以上は、ローラのままでいた方がウィラードの娘であるメラニーを守るのに都合がいいだろうから、と。
 仕方なく母親を演じていたらしくて、許してやって貰えませんか。
 彼女は王都から遥々レイウッドまで、当主の姪であるメラニー嬢を送り届けた、善意の第三者なんですから。
 その心根の素晴らしさに、思わず私の義妹になって欲しいと、お願い致しまして」


 特に感情をこめることもなく、しれっと説明するジャーヴィスに、もう少し演技すればいいのにと、イアンは心の中で笑った。


「何、 何を言ってる?
 ミリー、君の兄貴は何を言ってる?
 養女にしたって……あの女と結婚? 
 あのチビが誰の娘だって?
 スチュワートの姪?
 ちゃんと説明してくれ!」


 レナードは情報量の多さに混乱して、馬鹿だと罵ったミルドレッドに助けを求めた。


「レナード様、貴方も何もご存知ないのですね。
 次期当主なのに、お気の毒に。
 わたくしも何も教えられていなかった……
 だから、説明は出来ません。
 叔父様かカールトン様なら、メラニーちゃんの父親のウィラード様が誰なのか、お答え下さると思います」



 ミルドレッドから名前を出されたふたりは、対照的だった。


 リチャードは、怒りに顔を赤く染め、彼女を睨み。
 反対にカールトンは青ざめて、レナードの視線から顔を背けた。
 今、この場で声をあげているのは、レナードだけ。


「叔父上、ウィラードって誰ですか?
 カールは知ってて、俺は知らないって、何のことですか!
 どうして黙っているんですか……
 ……都合が悪いと黙るのか!
 カールでもいい! 何とか言えよ!」

「……ウィラードは、スチュワートの双子の兄だと聞いた」


 父のリチャードが、未だに何も言わないので、カールトンが言い出した。


「本家の長男のウィラードが今何処に居るかは、俺は知らない。
 ただ何か、母親が問題を起こして離縁されて。
 ウィラードを連れて、ここを出た、って。
 父上からはそれだけしか聞いていない。
 去年クラインが産まれた時に、ウィラードと言う名前は既に居るので付けたら駄目だと言われて……
 それだけしか聞いていない」

 
 それだけしか聞いていないと、繰り返すカールトンの説明は、レナードにとっては言い訳にしか聞こえなかった。




「それでも、スチュワートと同じで、俺の異母兄の話だろ!
 どうして叔父上も、カールも!
 父上も、兄上も……そうか母上もか……
 俺にだけ、教えてくれなかった……」

「……」


 その理由くらいは、はっきり答えてあげればいいのにと、相変わらず黙って自分を睨んでいるリチャードを、ミルドレッドは見返した。
 

 いいわ、貴方が答えないなら、わたしが言う。
 もう貴方を、恐れたりしない。
 


「わたくしが教えて貰えなかったのは、余所者だから。
 レナード様が教えて貰えなかったのは、伯爵家を離れて平民になる予定だったから、でしょう」

「女が、余計な口を挟みおって!
 黙らんか!」


 ようやくリチャードが言葉を発したのは、ミルドレッドに対してだった。
 その暴言に対して、立ち上がり掛けたジャーヴィスの腕をミルドレッドが抑えた。



 この男は追い詰められていても、ミルドレッドにだけは強く出るのかと、イアンは拳を握った。
 彼の家は今では平民だが、誰ひとりとして女性に対して、その発言を抑えつけるようなことはしない。
 このリチャード・アダムスを完膚なきまでに叩き潰したいと、イアンは切実に思った。


 スチュワートとウィラードの母メラニーが何の問題を起こしたのかは、まだ分からない。
 しかし、父親が離縁した妻と長男を気に掛けていたのなら、少なくとも彼自身が離縁を希望したのではないと、想像はつく。

 バーナードが、母を喪ったウィラードをアダムスに連れ戻せなかったのは、この男が強硬に反対したのではないか。
 そう思えてならないイアンはゆっくりと手を上げて、皆の注目を集めた。



「では、全てのご事情をご存知のはずのアダムス子爵が何も語ろうとなさらないので。
 僭越ながら、ここからは私が。
 調査した結果わかった範囲まで、レナード卿にご説明致します」


しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

(完結)婚約破棄から始まる真実の愛

青空一夏
恋愛
 私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。  女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?  美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

処理中です...