【完結】やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかったわたしは今度こそ間違えない

Mimi

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第2章 いつか、あなたに会う日まで

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 ヴィオン師匠がわたしにオルを預けてくれて。
 わたし達はふたりきりで、倉庫のすぐ脇で地面に座り込んで話をした。
 真横を何人もの魔法士達が通り過ぎて、倉庫内部の修復作業に勤しんでいた。
 

「スピネルは俺を怒らせたかったのか、わざと俺の前で君をディナ、と2回呼んだだろ?
 あれで手足の2本を砕くと決めた」


 2回呼んだから、2本!
 ……初対面の時からヨエルがわたしに、ディナと連発していたことは、オルには黙っていよう、と思った。


 
 身体の中に新しく加わったヨエルの魔力を吸収出来たのか、オルの言葉も滑らかになってきていた。 
 切られた傷の再生速度が早くて、驚く。



 モニカが心身ともに限界で、祖父が先に連れて帰るからとサイモンが伝えに来てくれて、そのまま背を向けて帰っていくのを、オルがぼんやりと見ていた。


「あまりゆっくり話せないから、こんな話はしたくないけど、あのふたりとの縁は切らなかったんだね?」


 サイモンとモニカとの悪縁のことだ……


「ふたりともね、事情があって、ああいう感じになったけれど、取りあえず解決出来て、これからはうまくやっていけるので。
 13年先では、お手柔らかにお願いいたします……」

「13年後のさ、11月入ってから君はモニカと連絡を取るようになって。
 ハイパーのこともサイモンと呼ぶようになって。
 あぁ、これは16歳の君が彼等と和解をしたんだな、って分かったよ」


 ……16のわたしの行いが、そんなに直ぐに13年後に反映するとは、思わなかった。
 オルとしては、やはりモニカ達と付き合うのは我慢がならないんだろうか……



 今回、時間があまり無いのは師匠から言われていた。
 だから、この場でオルと言い争うのは、正直嫌だ。
 13年後のわたし、あのふたりとお付き合いを続けるのなら、しっかりオルを説得してね、と丸投げすることにした。
 それにオルだって、今月の頭から気が付いていたのに、29のわたしには何も言えなかったんだから……大人同士で話し合ってね!


 ここには10歳のオルが存在しているから、そんなに長い間留まっていられないのだ、と。
 あの時は3日間滞在出来たけれど、今回はヨエルが13年後まで生存していた侯爵夫妻を殺してしまったので、時空に狂いが出て、とにかく戻れる内に戻らなくては、とオルは釘を刺されていた。
 だから、わたしは時間の無いオルを笑って見送りたいから、問題解決は13年後に先延ばしします!


「今回は、侯爵達亡くなったでしょう。
 やっぱり13年後も亡くなったままで……」

「そうだね、この状態で年月は進むだろうな。
 今日の午後イチでスピネルが神の領域に手を出したせいで、俺達は13年前の11月29日に来たはずなのに、気付いたら22日になっていた」

「22日? 今日は20日よ?」

「20日……更に2日ズレたか。
 君に会うまでに、スピネルはまた誰かを手にかけてた……」


 本来なら今日死ななくてもいい人をヨエルが殺したから、不規則にズレていっているのだとしたら……


「スピネルは、わたしの目の前で。
 馬車ごと御者さんを消したの」

「……行方不明の届けが出るまで、誰なのか分からない……」


 ヨエルに躊躇なく消されてしまった、本来なら今日亡くなるはずじゃなかった身元の分からない御者さんがお気の毒で。
 わたし達は暫く無言になった。


 ◇◇◇


 わたしはずっと、今日が20日火曜日だと思っていた。
 だから、クララに皆でサイモンのお祝いをしよう、祖父にも教えてあげて、と……
 違っていたの?

 本当は29日の木曜日で、既に約束した24日の土曜に皆でサイモンを祝っていて。
 知らない間に今日は22日になっていたけれど、曜日が変わらないので授業の時間割りも一緒で混乱しなかった。
 そしてまたさっき20日になって?
 わたしはそれに気付かず、普通に今日が20日だと受け入れていた?


「元々13年後で生きている俺達はここでは異物だから、変化したのが分かる。
 だけど君達はここで『今』を生きていたから、ズレていることに気付かず、そのまま受け入れていた。
 やはり……時戻しは何度も繰り返してはいけない、神の領域に触れてはならない、と言う誓約には、それなりの根拠があった」

「今回の時戻しは?
 誓いを破ってきたの?」

「超魔法誓約的措置、という……決まりを都合よく変えられる方法でね。
 前回は俺の個人的なことだけれど、今回は魔法学院在学中に重犯罪を繰り返していた魔法学院教官が絡んだ事案だから、誓約は一時解除されたわけ。
 じぃじが提出したスピネルの犯罪記録が見つかって、魔法庁は混乱に陥った。
 おまけにスピネルに逃亡されて。
 じぃじに身辺警護の強化を伝えよう、と君が提示した2回に分けて戻る方法を使った」


 超魔法誓約的……
 この先も命をかけた『魔法士の誓い』は、誰かの都合次第で変更されていくのね。


 つい、皮肉な考えに囚われそうになったけれど、気持ちを切り替える。
 23歳のオルとの時間は残り僅か。
 オルに伝えたいことを言おうとした。



「あの、トマトごめんね」

「トマト?」

「トマト煮込み大嫌いだって、食べられない、って」

「あっ、ああ、あいつが?
 そんなこと言ってた?何かの間違いじゃない?
 俺はチキンのトマト煮込みが世界で一番好きなのに」


 昔の自分のことなのに、他人事の様に言うオルが可笑しい。


「言ってたよ、ブラウンさんのところで昼食に出されたけれど、全然食べられなかった、ってビスケット食べてた」

「……君が出してくれたビスケット、食べたか……」

 わたしが出したビスケット?
 違う、もうオルは食堂で食べてた……


「ねぇ、オル。
 やはりわたし達の初対面は、10歳の貴方が魔法判定を受ける前の10月なの?
 貴方のことだけじゃなくて、リアンの11歳の誕生日の贈り物はどうしたか、とか。
 あの10月が全然記憶に無いの。
 貴方、何かした?」


 何だか、おかしな感じにオルが慌て出したので。
 何か理由があって、オルが前回のわたしの記憶を消したのだと確信した。
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