【完結】やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかったわたしは今度こそ間違えない

Mimi

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第2章 いつか、あなたに会う日まで

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 振り向くと、そこには初めて会う、とても……綺麗な。
 長い銀髪の怜悧な美貌の男性が立っていた。


「はじめまして、ディナ。
 私はスピネル・ヴィオン。
 オルシアナスの養父にして、師匠です。
 オルから頼まれて、彼の代わりに13年後から貴方を守りに来ました」


 オルシアナス・ヴィオンの養父と名乗った、その美しいひとは。
 ルビーの様な赤い瞳を輝かせていた。



『13年後から』と聞いて、モニカとサイモンの表情が変わる。
 それまで均等にわたし達を満遍なく見ていたヴィオン師匠だったが、モニカに目を止めたようだ。


「貴女は時戻しの、ご存知ですか?
 お名前を伺ってもいいかな?」

 とても美しくて、優しげに話すけれど、この方は男性で。
 初対面の男性に警戒心を持っていたはずのモニカは、彼から手を取られて尋ねられて。
 その美しい顔にまるで魅入られた様に、素直に自分の名前を口にした。 
 さすが従姉、面食いの血は争えない、なんて軽口はたたけない。


「モニカ・キャンベル……ディナの従姉ですね?
 今日はクレイトンから出てきたんですか?」

 呆けた様にモニカが頷くのを、ヴァイオレットお姉様が心配そうに見ている。
 こんなモニカの様子は初めて見るんだろう。


「じゃあ、君のことも守らないとね?
 ホテルまで送るから、どうぞ私の馬車に乗って?」


 モニカにはもう、師匠しか見えないようだ。
 彼に手を引かれて、素直に少し離れた所に停められている馬車の方へ連れて行かれた。


 師匠がモニカを連れて行ったので、わたしはモニカを言葉もなく見送っていたサイモンにお願いした。


「わたしはあのひとと行きます。
 先輩はこちらのハント嬢とメリッサを連れて、ムーアの邸に戻ってください。
 残念ですがケーキは後日で。
 そして、祖父に『ジェリは3年先を先取りする』と伝えてください」


 サイモンに具体的な場所を言わないのは、彼は女性陣を届けたら、直ぐにそこに駆けつけるからだ。
 祖父ならきっと、わたしの言葉の意味を分かってくれるはず。


「『3年先を先取りする』ですね?
 他にお伝えすることはありますか?」

 横からヴァイオレットお姉様が聞いてくれた。
 このひとなら、このまま馬車の後を追いかけそうなサイモンを叱咤しながら、ムーアの邸へ向かってくれる。


「『わたしとモニカは、赤い瞳のオルの師匠といます』と」


 これで祖父は相手が魔法士で、普通ではないと分かる。


 馬車の方を振り返ると、モニカを乗せ終わった師匠がこちらを見ていた。
 もうこれ以上、彼の馬車に乗せる人数は増やさない。



「キャンベル、俺も行ったら駄目か?」

「モニカのこと、お願いします。
 貴女も絶対に帰ってきてください」

「ジェリー、貴女も一緒に行かないといけないの?」

「ジェンお姉ちゃん、直ぐに帰れる?」


 皆がそれぞれ心配して声をかけてくれる。
 全員にきちんと返事をしたいけれど、そんな時間はない。
 師匠がわたしを待っている。
 わたしは最後に言葉をかけてくれた、最後まで口を挟まない賢いクララに笑いかけた。


「帰ったらモニカも一緒に、皆でケーキを食べようよ。
 お兄ちゃんの誕生日をお祖父様にも、教えてあげて?
 わたし達だけでお祝いしたら、ひとりにしないで、って泣くよ」


 大丈夫、絶対に帰る。
 だってわたしは。


「皆さんはムーアの邸へ帰るんですか?」

 ひとりで馬車の方へ歩いてきたわたしに、ヴィオン師匠がにっこり笑った。


「従姉を見捨てて、逃げるかと思ったのに、君は肝が据わっていますね」

「オルもそうなんですよ。
 本当に肝が据わっていると、褒められていました」

 いや、あれは褒めたんじゃありませんよ、とどこかでフィリップスさんの声がする。


「アレはね、どちらかと言うと、ふてぶてしい」


 師匠もフィリップスさんと同意見のようだ。
 そう言って、馬車に向けて、顎をしゃくった。
 早く乗れ、と言いたいらしい。
 わたしは残ったサイモン達を振り返らずに、乗り込んだ。



 わたしと、ぐったりした様子で座席に転がされたモニカを乗せて。
 馬車は走り出した。


「モニカは名前を答えたから、貴方の術に掛かってしまったんですね?」

「まぁね、この子は君達のなかで、一番精神的に弱いのが分かったから、掛けやすかったですね」


 眠らされたモニカを膝枕するわたしを、冷めた目でスピネル・ヴィオンは眺めていた。


「……どこまで行くんですか?」

 師匠は少しは考えている振りをしている。


「何処がいいですか。
 あまり遠くまでは行きたくないんですよ。
 これから予定が詰まっているし」

 とても楽しそうに、でも目は笑わずに。
 スピネル・ヴィオンは続けた。


「さっきの、サイモンと、その妹のクララは分かりますよ。
 後の女性ふたりは誰だろう。
 君は紹介してくれないし、彼女達も自己紹介しないし。
 まあ、誰でもいいですけれど、巻き込まれて可哀想に。
 君を片付けた後に、ムーアの邸ごと全員を燃やしますから。
 1ヶ所に集めてくれるのは、手間が省けて助かりました」

「……」

「……あまり驚いてくれないから、楽しくないですね。
 私の正体は、お見通しというのかな。
 全くアレの言う通りだ、ディナは頭も口もよく回る、と聞いていましたよ。
 お口の方は、今は静かですね。
 もうちょっと騒ぐくらい怖がって欲しかったのに。
 本当に君は可愛げがないから、いささかがっかりです。
 ……ほら、何とか言ってください」

「……ここではなくて、わたしがお勧めする場所でなら、おしゃべりします」

「つまり、君が私を罠にかけるために、そこに連れて行くんですよね?」


 こらえきれないように、オルの師匠を名乗った男が笑い出した。
 わたしをからかうような、馬鹿にしたような笑いだ。


 オルが狼なら。
 こいつは、綺麗な蛇そのもの。

 いくら面食いのわたしでも、好きになれない。

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