【完結】やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかったわたしは今度こそ間違えない

Mimi

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第2章 いつか、あなたに会う日まで

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 クララは生き延びて?
 わたしの戸惑いを置いてきぼりにして、サイモンは話し続けた。


「セントハーバーでの環境は最悪だった。
 死んだ母は身体を患っていた。
 お陰さまで俺は頑丈なんだけれど、クララは母親似なんだ。
 クレイトンは森と湖があって、空気と水が澄んでいる。
 あそこに住みたかったのは、それが理由で……」

「……」

「あの子が16歳になったら、帝国で手術を受ける順番待ちに登録しようと思ってる。
 子供の間は受けられない手術で、登録しても2、3年は待たないといけない。
 20歳のクララは、無事に手術が成功して……
 まだ生きていたんだろうか?」



 クララ・デイビスは隠されていたから、オルも知らなかったのだろう。
 彼女の存在自体、言及はなかった。


 オル曰く。
 体調を崩して自分は余命わずかだと誤解したシドニーは。
 離婚を切り出して、何もかも投げ出して出奔した。
 妻のモニカが逮捕され、自分が持ち込んだ毒でわたしが倒れても、逮捕を恐れて帰国しなかった。


 そのことを、わたしから聞いたサイモンは申し訳なく思っていて、男らしくない自分を責めていた様に思う。


「はっきりとはクララちゃんのことは知らないんです。
 ただの推理ですが、それでも聞いてくれますか?」

 サイモンが頷いたのが、薄闇のなかでも確認出来た。
 違和感だらけの話に、答えが見えてきた気がする。
 シドニーが大学でも続けて帝国語を選択していたのは、このためなんだ。


「13年後のことは、わたしが寝たきりであるということしか分かっていません。
 その時にクララちゃんが無事でいるのか、知らないんです。
 でも、わたしが毒を飲んだ前後の11年後のことなら、想像はつくんです。
 真実ではないかもしれませんが」


 今の、契約終了するまではきちんと働きたい、と祖父に甘えないサイモンの人間性が、11年後も変わっていないとするなら。


「貴方が余命わずかだと誤解したのは、自分のことではなく、クララちゃんのことだったのではないでしょうか。
 わたしの知ってる先輩は体調管理に気を付けていましたし、病弱な妹が居ながら、自分の余命をはっきりと告げられてもいないのに、誤解するようなタイプではないように思えます」


 前回もサイモンがクララの手術代を稼ぐために、大学に通っていながら力仕事を続けていたのなら、厳しい学業と両立するために健康には気を付けていただろう。
 実際にわたしが知る限り、シドニーは風邪ひとつ引いたことがなかった。


「前回の貴方は、クララちゃんが余命わずかだと誤解して、そして(わたしが告白されたことは絶対に言わない) 
それならと彼女を連れて帝国へ行きました。
 そして申し込んでいた手術の順番が回ってきて側を離れられなくて帰国しなかったのではないか、と。
 もしくは順番が来たから、とうとうモニカを捨てて、この国から出たのか、どちらかだと思いました。
 それに加えて……」



 新たに寄生先を探せ、モニカを片付けろ。
 何度言っても、サイモンは言うことを聞かない。
 それなら、とあの侯爵ならどうしただろうか。


「侯爵は18歳になったクララちゃんを次の駒にしようとして、ハイパー家の養女にした。
 彼女の戸籍が出来て旅券が手に入れられたから、貴方はそれでクララちゃんを連れて、ふたりで帝国へ逃げ出したのかも知れません。
 貴方が婿入りしたキャンベルの戸籍にはクララちゃんを入れられなくて。
 それまであの子は無戸籍で、国外へは出られなかった」


 兄に似ているクララが成長すれば、美しい女性になるのは想像に難くない。
 お金が欲しい侯爵は、彼女を金持ちの男に嫁がせようとしたのでは。
 それもあって、貴方はクララとわたしと。
 (離婚出来ていなかったから、愛人になるけれど)
 慌てて、3人で逃げようとしたのかな。

 サイモンが何も言わないので、わたしも黙っていた。


 荷馬車がムーアの邸内に入った。
 降りる時に、ようやくサイモンが口を開いた。


「あいつの毒を飲ませてしまって、本当にすまなかった。 
 俺がもっと素直に周りに助けを求めていたら、あんな奴に利用されなかった。
 これからはクララを守るためにも、ひとりで突っ走らない。
 ……今回もし、君に何かあれば、必ず助けると決めたよ」


 ◇◇◇


 それからの1週間は何事もなく過ぎていき。
 もう秋と言うより冬が近付いて。
 祖父に話した行列についての案が動き始めた頃。


「ジェリー!」


 メリッサとふたりで、学院の正門を出たところで、わたしは声をかけられた。
 驚いた、モニカとハント嬢が立っていた。
 我が目を疑った。
 日曜にモニカに電話をかけた時は、何も言っていなかったのに?


 あの昼食会以来のハント嬢だった。
 わたしはモニカの友人関係をめちゃくちゃにしたと思っていたが、ふたりのお付き合いは続いていたんだ。


「ふふっ、びっくりした?
 来ちゃったー!」


 来ちゃったじゃないよ!
 いきなり現れた美少女ふたりに、メリッサはもちろん驚いているし、下校途上の男子生徒達の注目が集まっている。

 わたしはメリッサの手を引いて、クレイトンコンビを連れて、女子寮の方へ歩き出した。
 移動しながら、3人にお互いを紹介をしていく。


「ハント様、こちらはわたしと寮の同室の、メリッサ・ジョーンズ嬢です」

「メリッサ、こちらのふたりは、わたしの従姉のモニカと、モニカのご友人のヴァイオレット・ハント嬢」

「モニカ、えー、もういいよね?」
 
「……調べたら、女性限定の免許合宿ってあるんですって。
 ヴァイに話したら、彼女も興味があるらしくて。
 ふたりで王都観光がてら、下見に来たの」


 急に思い立って来れる訳じゃないのに、わざと内緒にして、わたしを驚かそうとしたのね。
 先に言ってくれたら、それなりに接待を考えて……
 無理だ、わたしはまだ高等学院生だった。
 大学生ではないし、最先端のお店に案内など出来ない。


 取り敢えず、寮の面会室でわたしとメリッサが着替えるの待って貰って、ベイカーさんに電話を入れて、何とかならないか聞いてみようか?
 そう思って、寮までふたりを案内してきたのに。


 またもや、女子寮の前には。

 そこに居てはいけないふたりが立っていた。

 
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