【完結】やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかったわたしは今度こそ間違えない

Mimi

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第2章 いつか、あなたに会う日まで

38(後半モニカ視点)

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 モニカは驚くよりも、呆れたように言った。


「お父様の遺言書?
 何言ってるのよ、そんなものは無いのよ。
 あんたの……叔母様がクビにしたスティーブンスさんから聞いたの?
 それもこのわたしの部屋に?」

 スティーブンスさんは、母が契約解除をした元顧問弁護士だ。


「あの人は何も知らない。
 両親だって、今は知らない。
 発見されたのは貴女の部屋からだと聞いたの。
 つまり元は貴女のお母様の部屋だわ。
 伯父様がどこに隠したのかは分からない。
 そもそも隠したつもりはなくて、ただ、どこかに紛れ込んでいる可能性の方が高いと思う」

「……どうして誰も知らない遺言書がここにある、って分かるのよ?」

「今から3年後の19歳だったわたしを、今の16歳に戻した魔法士から聞いたの。
 当時の成人前の貴女がそれを証拠として、お父様に譲位を迫るからよ。
 認めないなら、出るとこ出て戦う、なんてね。
 貴女の味方についていたのは婚約者とその両親。
 彼等はクレイトン伯爵家に寄生するために貴女を利用しようとした。
 元々伯爵位なんて要らなかった両親はこれ幸いと、遺言書を本物だと認めて、貴女に喜んで譲るつもりで手続きを始めたの」

「……あんた、わたしを馬鹿にしてる?
 3年後? あんたは根性が悪いだけじゃなくて、嘘つきになったのね!」

「根性が悪くて、嘘つきか。
 あんたの従妹だもの、血は争えないね」

「あのね、いい加減にしてよ!
 訳の分からない3年後なんて……」

「3年後のことなんて信じて貰う証は、今は貴女には示せない。
 中身が何て書かれていたか分からない伯父様の遺言書が出てきたら、貴女は信じるだろうけれど。
 わたしを信じたくないなら、この部屋を片付けながら隅から隅まで探したけれど遺言書なんて見つからなかったわよ、ってわたしを馬鹿にして罵ってもいい。
 何でも貴女の言う通りにしてあげるから。
 だから、今は黙って……わたしの話を聞いて」


 モニカだって馬鹿じゃない。
 そこまで言えば、わたしを罵倒しながら聞く態勢に入ってくれた。  


 わたし達は魔力を持たない分、それが魔力を使ったもの、魔法だと言われると。
 却って素直に受け取るから、きっとモニカもわたしの時戻しを信じると思った。




 わたしは13年後までを話をした。
 サイモン・デイビスの名前は伏せてシドニー・ハイパーとして話し、オルとクララの名前も、説明から抜いた。

 孤児院でお馴染みの子供達の名前を出せば、あまりにも偶然が重なっている、とそこで話の腰を折られそうな気がしたからだ。
 それに今はまだモニカには、わたしに時戻しをさせた恋人が13年後のあのオルくんだとは知らせたくなかった。


 3年後に起こるリアンの事件。
 11年後にわたしが毒を飲んでしまう件。
 その後、自分が精神病院に入れられて実験体とされてしまう未来。



 わたしが話し終えると、モニカは打ちのめされたように見えたが、それでも、気丈さは失っておらず。
 わたしに挑むように尋ねてくる。


「……それで? わたしに謝らせたくて、魔法に掛けて貰ったの?」

「謝らせたい? どちらかと言うと謝りたかった、かな。
 こちらの謝罪を聞いて貰って、わたし達はやり直して、その未来を変える、そうしたかったの」

「……わたしに? 謝りたいの?」

「お母様もね、貴女には申し訳ないことをした、って。
 本当は自分が話したいと言ったのを、わたしが止めた。
 わたしが魔法で3年前に戻ったことは、ノックスヒルでは貴女にしか話すつもりがなかったから」


 オルに『誰かに時戻しの話をしてもいいのか』と尋ねた時には、既にわたしの中では、ふたりが浮かんでいた。
 ムーアの祖父とモニカだ。
 サイモンに話してしまったのは、流れみたいなもの。


 祖父の協力は必要だと思ったし、モニカは当事者だからだ。
 彼女との関係が変わらない限り、クレイトンを巡って悪縁は続く。



「謝罪を受け入れろ、とは言わない。
 そんなに簡単な話じゃないものね。
 貴女にも言いたいことはあるでしょう。
 それを全部吐き出して、その上で……わたしと、わたしの家族とやり直す気になれたら、お願いしたい」


 モニカもここまで来たら、吐き出す気になったようなので、わたしは一旦、お茶を取りに部屋を出た。
 この間にモニカの中で、何を話して、何を話さないか、考える猶予もあった方がいいと思っていた。


 
「叔父様が新しい伯爵となって、自分はどうなるのだろうかと不安でいっぱいだったのに、初対面の叔母様は最初から満面の笑顔で接してきた」


 モニカがぽつぽつと話し始めたのは、そこからだった。


 ◇◇◇


 叔母様は驚きの提案をしてきた。
 お母様の部屋をわたしに譲りたい、と。
 当然のように、当主のお父様の部屋と続き部屋のお母様の部屋は、ノックスヒルの最上のお部屋なのに?
 叔母様はそこに自分が入るのは申し訳ない、と言ったの。

 部屋には、お母様の肖像画が掛けられ、お気に入りの家具やカーテン、内装から全てが、お母様のお好みで設えられていた。
 お隣のお父様の部屋も整えられたのはお母様で。

 でも、わたしは叔父様達がそこに入るのは当然だと思っていたのよ。
 肖像画も外して、私の部屋に運んで貰おうと思っていたのに。


『あのお部屋は、わたしよりも貴女の方が相応しいし、亡くなった義姉様もそう望んでおられると思うの』

 叔母様がそう言えば、叔父様も同意された。
 叔父様ご夫婦は叔母様が何事も決めていくんだ、とその時知ったの。


 それで、それでわたしは……

 今まで通りの部屋がいい、とは言えなくなった。
 わたしのそれまでの部屋はそのままで、誰かが使うことはなかったから、あっちがいいの、と言えば良かったのかもしれないけれど、言えなかったの。

 そんな可愛げがないことを言えば、もうここに置いては貰えなくなるのでは、って……そう思ったから。
 
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