【完結】やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかったわたしは今度こそ間違えない

Mimi

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第2章 いつか、あなたに会う日まで

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 あからさまに人前で、モニカを罵った。
 侯爵が選んだ使用人をモニカに近付けず。
 食事も一緒に取らなかった。
 王都へも連れていかなかった。

 その癖、自分は寂れていく一方のクレイトンの営業に駆け回っていた。


 きっと侯爵はとっととモニカを片付けて、次の寄生先を見つけろとうるさかっただろう。
 だが、クレイトン女伯爵は女王陛下が推進する女性でも後継可能とした法案の。
 王家が若くて美しい彼女をその象徴としているのなら、簡単には離婚も処理も出来ない。
 サイモンはそれを建前に、愛の無い結婚生活を8年も続けた。


「モニカを冷遇しているように扱っていましたが、本当は守っていたんじゃないか、と。
 先輩は正義感だけはありましたから」



 それはサイモンの性格からだけで導きだした仮定ではない。
 クレイトン伯爵家に忠誠を誓うクリフォードとカルディナ夫妻。 
 ふたりの愛娘で、自らモニカのお世話役を申し出たエマ。
 そんな彼女にベタ惚れのモンド。


 全員使用人を入れ替えた、と聞かされたけれど。
 彼等がノックスヒルを素直に離れたとは信じられない。
 彼等が忠誠を誓うのはクレイトン伯爵だ。
 父がモニカに譲位したなら、その忠誠はモニカに向く。


 そして、働き者の祖父の世代にやたらと好かれるサイモンだ。
 クララを引き取りたいサイモンとモニカを守りたいクリフォードが協力したら?

 クリフォードとカルディナは、他の使用人を近付けさせない。
 食事は必ず別室でエマが立ち会う。
 他の使用人に圧をかけるのはモンドの役目だ。
 王都に連れていかないのは、モニカを守る人数が確保出来ないから。

 彼等以外は所詮クレイトン用に雇われた使用人だ。
 尊大な侯爵に忠実ではないだろう。
 自分達に害さえなければ、要らない報告はあげない。
 モニカの世話をする4人を、ただ見ていただけだ。


 サイモンはモニカを本当には愛していなかったかも知れないが、少なくとも殺すなんて出来なかったのだ、多分。


 3年後の真実なんて分からない。
 あくまでも仮定の話だけれど、事実に近い気がするのは、やはりかつてあんなに憧れたサイモンだからだろうか。
 どうか、そうであって欲しい、と願うのは……




「お、俺は……もうあの家に、あいつに会うのは嫌だ。
 これから、クララを連れて……ここを出る」

「まだ成人もしていない貴方が、幼いクララちゃんを連れて、どこに行けるんですか?
 貴方の地元のセントハーバーでは貴方達は死人ですよ?
 侯爵からも直ぐに追手はかかります。
 他の国に行こうにも、旅券が無ければどうしようもない。
 特にクララちゃんに戸籍が無いのは、致命的です。
 わざとこの子を養女にしなかったのは、それが狙いだったのでしょう。
 貴方が国外へ逃げようとしても、妹の旅券を手に出来ない様に、縛り付けようとしたんです。
 国内でも無戸籍のこの子を受け入れたのはクレイトンの孤児院位だったでしょう?」

「……随分と偉そうに言う」

「事実ですよ、貴方がお好きな言葉です。
 わたしが貴方よりひとつ年上なのは事実ですからね。
 全て自分だけで解決しようとして答えを出すのは、おやめなさい」


 やめなさい、と言われてサイモンの顔が歪んだ。
 どう見ても、年下のわたしに年上面されるのも業腹だし、しかし無戸籍の妹を連れて、どこへ逃げればいいのかも分からなくて、何も言えなくなっているのだろう。


「誰も助けてくれないからだろ!
 誰に言えばいいんだ!
 クララを守れるのは俺だけだ!」

「声が大きいです、ほら」


 ほら、とうとうクララが起きた。
 寝惚けて辺りを見回して、兄に笑って、わたしに気付いて驚いて、わたしにも笑顔を見せてくれる。


「お姉ちゃん、今日も来てくれたの?
 このひとね、わたしのお兄ちゃんなの。
 仲良くしてあげてね」


 ◇◇◇


 仲良く……わたしはいいわよ?
 でもね、貴女のお兄ちゃんはプライドが高くて、意地っ張りだから。
 1度言い出したら、それを曲げないひとだったよ?
 どうなるかなぁ?


「分かってます、この子を守れるのは貴方だけです。
 だけど、貴方を守ってくれるのは?
 貴方だってずっと、守られなくてはならない子供だったのに」

「はぁ? 誰が子供、って」

「貴方は今月18になるけれど、まだ17でしょ?
 まだまだ誰かに守られるべき年齢です。
 ひとりで抱え込まずに、大人を頼りましょう」

「……」

「あのヒューゴさんは、あぁ見えて結構……
 貴方達兄妹を守る気持ちも、経済力も有ります。
 これから、祖父に電話を入れますから。
 クララちゃんとセントラル駅に到着したら、祖父の迎えの者が参ります。
 先輩はしばらく休学になるかも知れませんが、ことが落ち着いたら、復学できますし、サイモンに戻れます。
 もちろんクララちゃんの戸籍もね」

「……でも、関係の無い人に迷惑をかけるのは」

「誰にも迷惑をかけたくなくて、13年後にはあんな顛末になるんですよ?
 どうせなら今、迷惑をかけてください」

「……」

「祖父が言ったんです、先を知ってるわたし達は有利にことが運べる、先手が打てる、と。
 侯爵から悪事を命じられる前に逃げましょう。
 聞かされた時点で、貴方は共犯にされてしまいます。
 幸い、学院ではわたし達は親しくしていません。
 今ならゲインからキャンベルの名前は侯爵には伝わらない。
 祖父を信頼しろ、とは言いません。
 クララちゃんと自立出来るまで、利用してやる位の感覚でいいです。
 貴方の人生を、あんな侯爵に搾取されちゃ駄目です」

「……お姉ちゃん、何言ってるの?」


 誰かが話している間は口を挟まない、賢いクララがわたしに尋ねた。
 強くて大好きなお兄ちゃんが泣き出したので心配しているのね。

 ひとりで何もかも背負おうとしていたお兄ちゃんだったね?
 口喧嘩してわたしが勝って、泣かせたんじゃないからね?


 最近、目の前で男性に泣かれることが多いなぁ……

 実は女性より男性の方が、泣き虫が多いんじゃない?
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