【完結】やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかったわたしは今度こそ間違えない

Mimi

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第2章 いつか、あなたに会う日まで

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 翌日曜のクレイトン11:15発で、王都へ帰る。
 先月、お金を無駄遣いしたくないと、時間を無駄遣いしたわたしだった。
 今月は素直にキャリッジに乗ったので、18時までに寮に戻れた。
 オムニバスは2階なんて最高に気持ちいいけれど、時間にも気持ちにも余裕がある時に乗るべき乗り物だ。


 同室のメリッサも、今日はホテルの初出勤で朝から留守だったけれど、もうすぐ帰ってくる。 
 自分のベッドに腰を掛けて、クレイトンのことを思い出した。
 一番にオルのことが思い浮かぶけれど。
 それはまぁ、ゆっくり思い返したいので、後回しにする。



 今朝モニカはわたしが帰るまで、部屋に籠ったままで出てこなかった。
 昨夜は意地を張って、夜食を頼んでこなかったらしい。
 わたしが帰れば、部屋から出てくるのかもしれないし、もう少しがんばるかもしれないけれど。
 昼食まで顔を出さないのなら、お茶だけは持っていってもいいわよね、と母が言うので、頷いた。

 邸を出る前に、今月誕生日を迎えるリアンに36色の色鉛筆のプレゼントも渡せた。
 とても喜んでくれたので、お金を貯めた甲斐がある。
 前回は帰って渡せたのかな、郵送にしたのかな。
 そんなことさえ思い出せない、酷い姉で申し訳ない。 

 絵の具は高価で手が出せなかったが、これを美し過ぎる天才画家の第一歩にして欲しい。
 これからもリアンへのプレゼントは画材に決めている。


 来月、彼女と直接話をしようと決めた。
 本当ならもっと時間をかけて、物事を見極めて。
 慎重にことを進めた方がいいのだと思うけれど、ねちねちとモニカを苛めるのも飽きてきた。
 それほど苛めの手数が多い方でもない。
 意地悪は得意だけれど、好んでしている訳じゃないし、言った後は少し虚しくなるし、もうやめ時だと思ったからだ。


 黙って睨むだけで、言い返してくれないし。
 何も言えない本物のヒロインなら仕方ないけれど、本当はぶちまけたいことが溜まっているモニカなのに。


 その時ドアがノックされて、外から先輩に声を掛けられた。
 受付にお祖父様からお電話が入ってますよ、と教えていただいて、1階に駆け降りたら、先輩が階段から下を見下ろしていて、『走らなーい!』と注意されてしまった。



 祖父が寮に掛けてくる電話は、いつも短めだ。


「シドニー・ハイパー、面白いことが分かったぞ」


 そうだ、先月シドニーと侯爵家を調べる、と仰っていた。
 バタバタしていて、すっかり忘れていた。


「……面白い、とは?」

「あいつは本物のシドニー・ハイパーじゃない。
 今週中にもう少し報告があるらしいから、まとめて話そう。
 土曜の夜、夕食はいけるか?」

「……17時退勤ですので、その後に伺えば良いですか?」

「お前の好きな兎を用意しておく」


 電話を終えた後、立っていられなくてその場にしゃがみこんでしまった。
 シドニーが本物じゃない?
 あのシドニー・ハイパーが偽者なら、どこかに本物が居るの? 


 深呼吸を何度もして、気持ちを落ち着かせた。
 詳しくは聞けていないが、それでなのか、と腑に落ちた。

 何故か彼は王都に実家のタウンハウスがあるのに、高等学院の学生寮に入り、大学生になってからは友人と借りたシェアハウスに住んでいた。
 実家が困窮していたのなら、自宅から通学させた方が経済的だろうに、と疑問に思っていたから。
 となると、偽りの家族と一緒に住みたくなかった偽者の彼は、寮費や家賃を稼ぐために、配達の仕事をしているのだろうか。


 張りぼて高位貴族のジャガイモ王子、と今回は内心馬鹿にしていたわたしだったが、それを聞いて複雑な気持ちになった。
 決して気を許した訳じゃない。
 ……許した訳じゃないけど……ただ、わたしも働く男性を悪く思えないだけだ。
 詳しい話は、今週土曜日に分かる。


 ◇◇◇


 夕食後、初出勤の様子をメリッサが教えてくれた。
 今回の研修はヒューゴさんが担当していて、ずっと立ち会うらしい。
 ……会長が現場に毎回居るなんて、講師の方に同情してしまう。


 わたしの苦笑いになど気付かないメリッサが教えてくれる。
 彼女以外のドアガールの5人は、元々ホテルで働いていた女性達で、新しい仕事に立候補してきた方だと言う。


「貴女以外は皆さん顔見知りなの?」 

「別の職場だったらしくて、皆さん初めて顔を合わされたらしいの」


 良かった、メリッサ以外は全員が知り合い、はちょっときついなと思った。


「わたしは重点的に訛りを直すことになる、って講師の方に言われたの。
 ジェリーは、あまり東部の訛りが無いね?」


 王都を中心にして、クレイトンは東に位置していて東部と呼ばれていて、メリッサの領は西部になり、彼女の発音は微かだが訛っていた。


「わたしは11歳まで王都に居たからなの」

「そうなんだ……意識しててもなかなか直せないから、ジェリーが羨ましいわ。
 でも、完全には失くさずに、西部訛りで話されるお客様には2割使用してください、だって」

「2割?」

「お客様が喜んでいらした時と、困っていらっしゃる時は、西部訛りを発揮して、お気持ちに寄り添ってください、って」



 そうか、訛音って、すごく重要だったんだ。
 わたしの家族で東部訛りで話すのは父だけで、母もわたしもリアンも話さない。
 その父も相手によって使い分けていた。
 クレイトンで生まれ育ったモニカは東部訛りで話す。
 もうそれだけでも、領民からは彼女の方が身近だったんだ。
 わたし達は彼等の気持ちに寄り添えてなかった、ということ……


 時戻しをした今回は。
 改めて『わたし達に足りなかったもの』に気付かされることが、本当に多い。

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