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第2章 いつか、あなたに会う日まで
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すっかり、モニカのお友達が母に懐いたのを見計らって、わたしは腰を上げた。
ここが潮時だと思った。
想像していたのとは違い、ご令嬢達が気にするのはモニカではなくて、ハント嬢なのだ。
そして彼女はモニカの虚言を最初から見抜いていた。
お父様が両親と親しい様なので、ノックスヒルの内情をご存じだったのだろう。
このままこの場に留まっていたら、調子に乗りやすいわたしは余計な意地悪を言い、モニカを泣かせて、この和やかな雰囲気を台無しにしてしまうかもしれない。
それに、今日はわたしにとって、モニカを苛めるよりも。
もっと重要なことがある。
オルくんの確認だ。
わたしと母は、皆様に『ごゆっくりなさってね』と言い、席を立った。
母はもう一度『モニカのことをこれからも、どうぞよろしくお願いいたします』と頭を下げていた。
ハント嬢には、これからも会いたいな。
名前呼びを許してくださらないかな。
ご令嬢方とのお菓子教室のことを考えて、うきうきしている母を見て思い付いたことがあり、それを母に伝えた。
母は暫く考えていたが『先方が賛成してくれるなら』と言ってくれた。
父の同意は、間違いなく得られるはずだ。
そしてわたしはモンドに孤児院へ送って貰った。
帰りはいつもモニカを迎えに来てくれる時間でいいから、と伝えた。
今日のわたしは手ぶらだ。
ケーキはもちろん、クッキーも持参していない。
何もないわたしを彼等は受け入れてくれるだろうか?
◇◇◇
結果は……前ほどの歓声はなかったけれど、受け入れて貰えた。
毎月慰問していたモニカが今日は来れなかったことで、子供達は寂しかったらしい。
周囲を見回して、パピーに似た10歳くらいの男の子を探したが、見当たらない。
前月、一番最初に声をかけてくれた女の子が、今日もまた最初に駆け寄ってきてくれた。
「お姉ちゃん、約束守ってくれてありがとー」
「あ、ケーキ美味しかった?」
今回何も持ってこなかったわたしなのに、お礼を言ってくれる。
幼いのに、きちんとした子だな、と思った。
「ケーキ美味しかったよ!
でも、それより約束した通りに遊びに来てくれたから!」
「えー、こっちこそありがとう!
貴女のお名前も教えてね?」
顔を出しただけで、こんなに喜んでくれるなんて!
案外、モニカも人気取りだけじゃなくて、皆に会いたくて毎月通っていたのかもしれない。
少女はクララ・デイビスだと教えてくれた。
すると、次々に周りの子供達も名前を教えてくれた。
やはりオルシアナスなんていう変わった名前の子供は居ない。
オルと呼ばれそうな名前の子供も居ない。
先月、引き取られてしまったのだろうか……
お世話役の女性か、あの日手当てを頼まれていたマーサと呼ばれていた少女に尋ねるのがいいのか。
でも、そうなると多分モニカに筒抜けになってしまう。
クララに聞こうか、と思っていたら。
視界の端に、前回わたしに『嘘つき』と言い、わたしの嫌味の被害者にさせてしまった少年が居たので、駄目元で彼に近付いた。
彼もわたしという外敵がずんずん突進してきたのを避けられず、またもや嫌そうな顔をした。
「この前は君に、嫌なことを言った!
ごめんね、謝らせて」
「……」
「本当にごめんなさい。
おとなげなかったね、年下の君にむきに……」
「おい! この前からなぁ、君、君、って偉そうなんだよ!
大して年も変わらないのに、上から言いやがって」
「わたし、年上だよ? 16だもの。
君はまだ、初等学校じゃないの?」
「……16だったら、3つ違うだけだろ!
偉そうに君なんて言うな!
俺はベンだよ、名前で呼べよ」
13の少年に名前を呼べ、と言われて。
別れる直前のオルを思い出した。
……これからも誰かから『名前を呼んで』と言われる度に、胸は疼くの?
「あー、ベン、わたしはジェリーだから。
ぜひ、ウチが買ったら車に乗ってね?」
「仕方ねーな! 乗ってやるよ」
「小さい子達が先だからね?
大人のベンは最後だよ?」
謝っても、生意気なことを言われたら、ちょっとした意地悪は忘れないわたしだ。
「えぇっ……ジェリー?」
という感じで、なんとなく。
ベンとわたしは休戦協定を結ぶことが出来た。
ベンのモニカへの信仰は止められないかもしれないけれど。
彼等とは自分から歩み寄って、会話を持てば。
あの3年後の未来は避けられるかもしれない。
そんな希望を持たせて貰えた、ベンとの協定だった。
嬉しくなったわたしは、良くないところを出してしまった。
ベンにオルくんという10歳の男の子がここに居ないか、聞いたのだ。
たちまち、ベンは警戒の表情を浮かべた。
「オル? あんた何なの? 何で? 」
さっきはジェリーと呼んでくれたのに、もうあんたにされてしまった。
やはり休戦は休戦で、終戦ではない。
「あの、あの、この前帰りがけにモニカが、怪我をしてるんじゃないか、とか心配してたでしょ?」
「あぁ、あんなの……」
「で、オルくん、今どこ!」
食いついてしまうのを止められない。
ずっと、わたしの手を握って静かにわたしとベンのやり取りを聞いていたクララも驚いて、わたしを見ているのがわかる。
「……オルなら、今は居ないよ」
思いきり、口元を歪めてベンが言った。
今は居ない?
何も言わずにそっぽを向いたベンに代わり、クララがわたしの手を引っ張った。
「お姉ちゃん、オルくん、週末お試しで、朝から明日の夕方まで居ないの」
「……オルくんの名前は……オルシアナス?」
クララが頷いた。
ここが潮時だと思った。
想像していたのとは違い、ご令嬢達が気にするのはモニカではなくて、ハント嬢なのだ。
そして彼女はモニカの虚言を最初から見抜いていた。
お父様が両親と親しい様なので、ノックスヒルの内情をご存じだったのだろう。
このままこの場に留まっていたら、調子に乗りやすいわたしは余計な意地悪を言い、モニカを泣かせて、この和やかな雰囲気を台無しにしてしまうかもしれない。
それに、今日はわたしにとって、モニカを苛めるよりも。
もっと重要なことがある。
オルくんの確認だ。
わたしと母は、皆様に『ごゆっくりなさってね』と言い、席を立った。
母はもう一度『モニカのことをこれからも、どうぞよろしくお願いいたします』と頭を下げていた。
ハント嬢には、これからも会いたいな。
名前呼びを許してくださらないかな。
ご令嬢方とのお菓子教室のことを考えて、うきうきしている母を見て思い付いたことがあり、それを母に伝えた。
母は暫く考えていたが『先方が賛成してくれるなら』と言ってくれた。
父の同意は、間違いなく得られるはずだ。
そしてわたしはモンドに孤児院へ送って貰った。
帰りはいつもモニカを迎えに来てくれる時間でいいから、と伝えた。
今日のわたしは手ぶらだ。
ケーキはもちろん、クッキーも持参していない。
何もないわたしを彼等は受け入れてくれるだろうか?
◇◇◇
結果は……前ほどの歓声はなかったけれど、受け入れて貰えた。
毎月慰問していたモニカが今日は来れなかったことで、子供達は寂しかったらしい。
周囲を見回して、パピーに似た10歳くらいの男の子を探したが、見当たらない。
前月、一番最初に声をかけてくれた女の子が、今日もまた最初に駆け寄ってきてくれた。
「お姉ちゃん、約束守ってくれてありがとー」
「あ、ケーキ美味しかった?」
今回何も持ってこなかったわたしなのに、お礼を言ってくれる。
幼いのに、きちんとした子だな、と思った。
「ケーキ美味しかったよ!
でも、それより約束した通りに遊びに来てくれたから!」
「えー、こっちこそありがとう!
貴女のお名前も教えてね?」
顔を出しただけで、こんなに喜んでくれるなんて!
案外、モニカも人気取りだけじゃなくて、皆に会いたくて毎月通っていたのかもしれない。
少女はクララ・デイビスだと教えてくれた。
すると、次々に周りの子供達も名前を教えてくれた。
やはりオルシアナスなんていう変わった名前の子供は居ない。
オルと呼ばれそうな名前の子供も居ない。
先月、引き取られてしまったのだろうか……
お世話役の女性か、あの日手当てを頼まれていたマーサと呼ばれていた少女に尋ねるのがいいのか。
でも、そうなると多分モニカに筒抜けになってしまう。
クララに聞こうか、と思っていたら。
視界の端に、前回わたしに『嘘つき』と言い、わたしの嫌味の被害者にさせてしまった少年が居たので、駄目元で彼に近付いた。
彼もわたしという外敵がずんずん突進してきたのを避けられず、またもや嫌そうな顔をした。
「この前は君に、嫌なことを言った!
ごめんね、謝らせて」
「……」
「本当にごめんなさい。
おとなげなかったね、年下の君にむきに……」
「おい! この前からなぁ、君、君、って偉そうなんだよ!
大して年も変わらないのに、上から言いやがって」
「わたし、年上だよ? 16だもの。
君はまだ、初等学校じゃないの?」
「……16だったら、3つ違うだけだろ!
偉そうに君なんて言うな!
俺はベンだよ、名前で呼べよ」
13の少年に名前を呼べ、と言われて。
別れる直前のオルを思い出した。
……これからも誰かから『名前を呼んで』と言われる度に、胸は疼くの?
「あー、ベン、わたしはジェリーだから。
ぜひ、ウチが買ったら車に乗ってね?」
「仕方ねーな! 乗ってやるよ」
「小さい子達が先だからね?
大人のベンは最後だよ?」
謝っても、生意気なことを言われたら、ちょっとした意地悪は忘れないわたしだ。
「えぇっ……ジェリー?」
という感じで、なんとなく。
ベンとわたしは休戦協定を結ぶことが出来た。
ベンのモニカへの信仰は止められないかもしれないけれど。
彼等とは自分から歩み寄って、会話を持てば。
あの3年後の未来は避けられるかもしれない。
そんな希望を持たせて貰えた、ベンとの協定だった。
嬉しくなったわたしは、良くないところを出してしまった。
ベンにオルくんという10歳の男の子がここに居ないか、聞いたのだ。
たちまち、ベンは警戒の表情を浮かべた。
「オル? あんた何なの? 何で? 」
さっきはジェリーと呼んでくれたのに、もうあんたにされてしまった。
やはり休戦は休戦で、終戦ではない。
「あの、あの、この前帰りがけにモニカが、怪我をしてるんじゃないか、とか心配してたでしょ?」
「あぁ、あんなの……」
「で、オルくん、今どこ!」
食いついてしまうのを止められない。
ずっと、わたしの手を握って静かにわたしとベンのやり取りを聞いていたクララも驚いて、わたしを見ているのがわかる。
「……オルなら、今は居ないよ」
思いきり、口元を歪めてベンが言った。
今は居ない?
何も言わずにそっぽを向いたベンに代わり、クララがわたしの手を引っ張った。
「お姉ちゃん、オルくん、週末お試しで、朝から明日の夕方まで居ないの」
「……オルくんの名前は……オルシアナス?」
クララが頷いた。
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