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第2章 いつか、あなたに会う日まで
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サンルームに設えられたご令嬢方のランチ会。
モニカ以外に3人のご令嬢が居た。
メイドのエマを連れて現れた母とわたしに、皆様固まった。
モニカは自分達だけで、とエマを下がらせていた。
話を聞かれたくないからだ。
「こんにちはー。
本日は、ようこそいらっしゃいませ」
母は皆様の反応を見て、しまった、と思ったようだが、わたしは最近すっかりお馴染みになった『ようこそいらっしゃいませ』が口に出た。
……少しお店っぽいが、まぁいい。
歓迎している感じは伝わる、と思いたい。
モニカは無言だが、ただひとりのご令嬢だけがにこやかな笑顔を取り戻して、立ち上がった。
「お邪魔致しております、奥様、ジェラルディン様。
わたくし、ヴァイオレット・ハントと申します。
お見知りおきくださいませ」
ハント嬢がご挨拶をしてくださったので、他のふたりのご令嬢も慌てて立ち上がり、自己紹介をしてくださる。
「まぁま、ハント様?お父様には本当にお世話になって……」
母はさっき、ご挨拶は受けた、と言っていたのに。
ご令嬢は招かれた場合は初対面で顔を合わせても、年上の人に対していきなり自分から自己紹介はしない。
先ずは招いた人が目上の人に紹介して、相手から声を掛けて貰うのを待つ。
ハント嬢はわたしにではなく、母に視線を合わせて挨拶をされていた。
つまり、モニカは皆様の名前も含めてきちんと母に紹介をしていなかった、と言うことだ。
それだけで、モニカが母のことを侮っているのが分かる。
わたしが合図したので、エマが2脚の椅子を追加で並べて、ティーカップも用意してくれた。
それをチラッと見たモニカは、瞬間嫌そうな顔をしたが直ぐに普通に戻った。
「皆様、今はどのような話題で盛り上がっていらっしゃったの?」
本来ならホステスとして話題を振らなくてはならないモニカが黙っているのをいいことに、わたしが進めたい方向へ話を振った。
すかさず、ハント嬢が答えてくれる。
「お掃除はこうすればいい、とモニカ様が教えてくださっていました」
「お掃除の仕方、ですか?
モニカが?」
わたしがわざと驚いて確認するように、母とエマを見つめると、母達は困惑したような様子を見せた。
当たり前の反応だ、モニカは掃除なんてしたことが無い。
モニカの世話を主に担当しているのがエマだ。
「エマ、貴女のお掃除の仕方が素晴らしい、とモニカが皆様に褒めてくださっていたみたい。
良かったわね?」
ご令嬢のおひとりが何か言いかけて、口をつぐんだ。
ハント嬢が彼女の手に素早く触れて、余計なことは言うな、と制したように見えた。
それでわたしは続けた。
「モニカのお部屋は亡くなった彼女の母の前伯爵夫人のお部屋なので、高価だったり、凝っていたり、扱いの難しい物が多くて。
こちらのエマはその点、扱いが慎重なので、母もモニカも安心して清掃管理を任せていられるのです。
そのお話?」
「……」
モニカに尋ねたが、返事はない。
どんな匂わせ方をしていたのか知らないが、ハント嬢以外は、わたしの言葉に明らかに動揺している。
ひとり澄ました顔でお茶を飲んでいる、この方は……
一言も話さないモニカの様子に母は早く立ち去った方がいい、と判断したのか、エマにケーキを持ってくるように命じた。
「まぁ、クレイトン伯爵夫人自ら、ケーキを?」
「そうなんです! 母の実家の関係で、母も良くお菓子を作るのです。
モニカはその弟子第1号と言うのでしょうか。
ふたりでよくキッチンにこもって、あれこれ作っているんです」
「奥様のご実家は、確かあのシーズンズでは?」
「ご存じでしたの?」
「モニカ様が仰ったのではないのですが、父からそう聞きました」
もうこの場の会話のイニシアチブを取っているのは、ハント嬢だった。
わたしが話しやすい様に、会話を振ってくださる。
そうだ、思い出した、この方だった。
わたしに、父は中継ぎなのか、と質問してこられたのは。
ここでもシーズンズの名前は絶大で、他のご令嬢も興奮してきた。
「シーズンズ!」
「1度は行ってみたいと!」
そこへエマが、ケーキをもって現れたので、その場に歓声が上がった。
女性と子供にとって、見た目が可愛くて美味しいケーキは正義だ。
モニカの反応を気にしていた母も、皆様の喜びように頬を染めている。
見ろ、意地悪な叔母はこんなことで嬉しそうにするひと、なんだよ。
よく見て、認識を改めろ。
そして、噂を広めるんだ。
『本当にモニカ様は虐げられているの?』
「奥様、もしご迷惑でなければ、わたくしにもお菓子の作り方を教えていただけませんか?」
ハント嬢が母に願い出てくれたので、また良い方向へ話題が転がる。
もう、本当に、このひと好き過ぎる!
ヴァイオレットお姉様、と呼びたい!
「わたしで良ければ、こちらこそよろしくお願いいたしますね」
母が快諾したので、他のご令嬢も負けじと手を上げた。
母のお菓子教室が盛況になるのは予想できる。
この3人以外に、何人母に教えを乞うご令嬢が集まるだろうか。
……シーズンズの話に盛り上がるわたし達。
わたしが働いていると告げると、また更に盛り上がる。
ただ、ひとりモニカだけはケーキに手を付けずに、下を向き。
時折、わたしとハント嬢を交互に睨んでいた。
モニカ以外に3人のご令嬢が居た。
メイドのエマを連れて現れた母とわたしに、皆様固まった。
モニカは自分達だけで、とエマを下がらせていた。
話を聞かれたくないからだ。
「こんにちはー。
本日は、ようこそいらっしゃいませ」
母は皆様の反応を見て、しまった、と思ったようだが、わたしは最近すっかりお馴染みになった『ようこそいらっしゃいませ』が口に出た。
……少しお店っぽいが、まぁいい。
歓迎している感じは伝わる、と思いたい。
モニカは無言だが、ただひとりのご令嬢だけがにこやかな笑顔を取り戻して、立ち上がった。
「お邪魔致しております、奥様、ジェラルディン様。
わたくし、ヴァイオレット・ハントと申します。
お見知りおきくださいませ」
ハント嬢がご挨拶をしてくださったので、他のふたりのご令嬢も慌てて立ち上がり、自己紹介をしてくださる。
「まぁま、ハント様?お父様には本当にお世話になって……」
母はさっき、ご挨拶は受けた、と言っていたのに。
ご令嬢は招かれた場合は初対面で顔を合わせても、年上の人に対していきなり自分から自己紹介はしない。
先ずは招いた人が目上の人に紹介して、相手から声を掛けて貰うのを待つ。
ハント嬢はわたしにではなく、母に視線を合わせて挨拶をされていた。
つまり、モニカは皆様の名前も含めてきちんと母に紹介をしていなかった、と言うことだ。
それだけで、モニカが母のことを侮っているのが分かる。
わたしが合図したので、エマが2脚の椅子を追加で並べて、ティーカップも用意してくれた。
それをチラッと見たモニカは、瞬間嫌そうな顔をしたが直ぐに普通に戻った。
「皆様、今はどのような話題で盛り上がっていらっしゃったの?」
本来ならホステスとして話題を振らなくてはならないモニカが黙っているのをいいことに、わたしが進めたい方向へ話を振った。
すかさず、ハント嬢が答えてくれる。
「お掃除はこうすればいい、とモニカ様が教えてくださっていました」
「お掃除の仕方、ですか?
モニカが?」
わたしがわざと驚いて確認するように、母とエマを見つめると、母達は困惑したような様子を見せた。
当たり前の反応だ、モニカは掃除なんてしたことが無い。
モニカの世話を主に担当しているのがエマだ。
「エマ、貴女のお掃除の仕方が素晴らしい、とモニカが皆様に褒めてくださっていたみたい。
良かったわね?」
ご令嬢のおひとりが何か言いかけて、口をつぐんだ。
ハント嬢が彼女の手に素早く触れて、余計なことは言うな、と制したように見えた。
それでわたしは続けた。
「モニカのお部屋は亡くなった彼女の母の前伯爵夫人のお部屋なので、高価だったり、凝っていたり、扱いの難しい物が多くて。
こちらのエマはその点、扱いが慎重なので、母もモニカも安心して清掃管理を任せていられるのです。
そのお話?」
「……」
モニカに尋ねたが、返事はない。
どんな匂わせ方をしていたのか知らないが、ハント嬢以外は、わたしの言葉に明らかに動揺している。
ひとり澄ました顔でお茶を飲んでいる、この方は……
一言も話さないモニカの様子に母は早く立ち去った方がいい、と判断したのか、エマにケーキを持ってくるように命じた。
「まぁ、クレイトン伯爵夫人自ら、ケーキを?」
「そうなんです! 母の実家の関係で、母も良くお菓子を作るのです。
モニカはその弟子第1号と言うのでしょうか。
ふたりでよくキッチンにこもって、あれこれ作っているんです」
「奥様のご実家は、確かあのシーズンズでは?」
「ご存じでしたの?」
「モニカ様が仰ったのではないのですが、父からそう聞きました」
もうこの場の会話のイニシアチブを取っているのは、ハント嬢だった。
わたしが話しやすい様に、会話を振ってくださる。
そうだ、思い出した、この方だった。
わたしに、父は中継ぎなのか、と質問してこられたのは。
ここでもシーズンズの名前は絶大で、他のご令嬢も興奮してきた。
「シーズンズ!」
「1度は行ってみたいと!」
そこへエマが、ケーキをもって現れたので、その場に歓声が上がった。
女性と子供にとって、見た目が可愛くて美味しいケーキは正義だ。
モニカの反応を気にしていた母も、皆様の喜びように頬を染めている。
見ろ、意地悪な叔母はこんなことで嬉しそうにするひと、なんだよ。
よく見て、認識を改めろ。
そして、噂を広めるんだ。
『本当にモニカ様は虐げられているの?』
「奥様、もしご迷惑でなければ、わたくしにもお菓子の作り方を教えていただけませんか?」
ハント嬢が母に願い出てくれたので、また良い方向へ話題が転がる。
もう、本当に、このひと好き過ぎる!
ヴァイオレットお姉様、と呼びたい!
「わたしで良ければ、こちらこそよろしくお願いいたしますね」
母が快諾したので、他のご令嬢も負けじと手を上げた。
母のお菓子教室が盛況になるのは予想できる。
この3人以外に、何人母に教えを乞うご令嬢が集まるだろうか。
……シーズンズの話に盛り上がるわたし達。
わたしが働いていると告げると、また更に盛り上がる。
ただ、ひとりモニカだけはケーキに手を付けずに、下を向き。
時折、わたしとハント嬢を交互に睨んでいた。
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