【完結】やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかったわたしは今度こそ間違えない

Mimi

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第2章 いつか、あなたに会う日まで

17

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 クレイトン駅に到着したのは、先月よりも1本早い13時着の列車だった。
 つまり、王都のセントラル駅7時発に乗ってきた。
 当然ながら6時過ぎというあまりにも早い寮の出立時間に、最初は寮母さんはいい顔をしなかったけれど。
 それでも、かつてはご自分もそうだった地方出身者の『出来るだけ、実家に長く居たいのです』を理解してくださって、了解をしていただけた。


 座席で5時間は眠ろうと思っていたのに、眠れなかった。
 寮の食堂はまだ開いていなくて朝食抜きだったので、駅から到着時間を電話連絡した後にパンを買ったのに、食欲がなかった。


 眠ろうと目をつぶると、勝手に脳内でオルが少年の姿になって現れる。
 その姿は、パピーを一回り大きくして、身長は23歳の彼の半分ちょっと?
 綺麗なはずの顔がぼやけているのが残念だ。
 服装もバスローブなのが、おかしい。

 10歳の子供にいそいそと会いに行く16歳の乙女の姿に、我ながら情けなくて笑ってしまう。
 これから顔を見に行く彼が、オルであって欲しいのか、別人であって欲しいのか、判断はつかない。



 今月も迎えに来てくれたモンドにノックスヒルに帰る前に孤児院へ寄って欲しいと頼んだら、『今日はモニカお嬢様は慰問に行かれていません』と教えてくれる。


「来週に変更されまして。
 今日はお友達をお招きになって、昼食会をされています」


 お友達を招いて昼食会!
 これまで1度も、お茶会さえ開いていなかったのに?
 第1土曜日が恒例なのに今週の慰問を来週に変更したのは、わたしを孤児院に行かせたくないからか。

 自分の王国に侵入させたくないんだ。
 母のケーキで牙城が崩れたまではいかないにしても、少しは楔が打てたかな。
 自分の力で出来ないのが悔しいけれど、わたしは勝ち目の無いものに手を出さない狡い女なんだ。


 いいわ、そう来るなら、これから侵犯してやる。
 聖女の取り巻きが集まったランチ会にね。
 オルから褒められた? 良く回る口でね。


 ◇◇◇


「昼食会と言っても、皆さんで持ち寄って、おしゃべりしているだけよ。
 若いお嬢さん達が集まるのは、華やかでいいわね!」


 母が言うには、モニカが主催した昼食会と言うわけではなく、クレイトンの中等学校を卒業したお友達同士で、順番に場所を提供して持ち寄り会をしていて、たまたま今回がモニカの順番だったらしい。

 母もメイド達も皆嬉しそうだ。
 わたしも友人を招いたことがないので、この家に若い女の子が集まることなんて無かった。

 モニカから料理は出さなくてもいい、と言われたけれど。
 ピンクの小さな薔薇を散らした真っ白な新品のリネン類で揃え、あちこちにお花を飾ったり、良い香りのお茶を出したり、用意するのが楽しかったらしい。
 そんなにご令嬢方をお迎えするのが楽しみだったのなら、わたしも数少ない友人にお声がけして集めても良かったな。

 ……だけど、わたしにはそんな時間はなかった。
 土曜日は帝国語、日曜日は経済や法律や……
 離れていても、ムーアの教育からは逃れられなかった。



「お昼はまだでしょう?」

 尋ねられて、朝食用に買って手付かずだったパンを見せた。
 じゃあこれだけでも、と母がスープを出してくれる。
 わたしが簡単な昼食を食べているキッチンのカウンターには、母が我が家のティータイム用に焼いたケーキが鎮座していた。


「お母様、これをわたしにくださる?
 モニカのランチ会は持ち寄りでしょ?
 ご挨拶に伺いたいのだけれど、手ぶらじゃ……」


 またもや、自分で作ったわけでもないのに、それで敵国に突撃しようとするわたしである。



「貴女も参加するの?」

「ご挨拶だけしてきます。
 我が家に初めて来てくださったんですもの。
 そうだ、お母様もお顔出しして、ご挨拶に行きましょうよ」

「わたしもね、簡単に挨拶は受けたのよ?
 顔出しして、モニカは嫌がらないかしら?」

「嫌がったりしないと思う。
 居座る訳じゃないもの。
 どこのお家でも、娘のお客様にはお母様や妹さんは顔出しされるんじゃないかな?」


 わたしは誰の家にも招待されたことがないから、適当に言ってるだけだけれど、母はその言葉で行く気になったようだ。
 モニカの母親になりたい気持ちを利用して……ごめんなさい。


 母もムーアの子供だった。
 わたしと同じ様に育てられていたのなら、他のお家に遊びに行ったことなど無いから、信じたのだ。


 モニカは絶対に嫌がる。
 だけど、母とわたしを追い払えない。
 何をされても我慢しているヒロインだもの。
 これからどうするかは、具体的に決めていないけれど。
 モニカの友人達からしたら、わたし達は彼女を苛めて楽しんでいる母娘だもの。
 ちくちくするのも、いいわね?


 モニカはその偽りを、その匂わせを。

 母と友人達の前で貫くことが出来るだろうか?
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