【完結】やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかったわたしは今度こそ間違えない

Mimi

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第2章 いつか、あなたに会う日まで

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 日曜日、滑り込みで19時までの寮の夕食に間に合った。

 クレイトン11:15発セントラル17:15着で、キャリッジに乗れば寮の前に30分前後で到着して18時には余裕で部屋に戻れたのに。
 キャリッジが贅沢に思えたわたしは、大好きなオムニバスで高等学院前まで帰ることにして、1時間以上かかって、ぎりぎりの18:30に寮に帰ってきたのだった。

 駅からいくつバス停に停まったのか、途中で数えるのも嫌になったわたしは、来月からは絶対にキャリッジで帰ってくることを決意した。
 
  
 9月の夕方はまだまだ明るくて、昼間の熱気が下がらない。
 バス停から走ってきて汗だくのわたしを、メリッサが優しく迎えてくれる。
 これ、これ、これがわたしが祖父に力説したメリッサの安心感なのだ。

 彼女の笑顔は。
 例えば、初めて王都に来た人をようこそと温かく迎え入れて、不安を消して。
 何度もいらっしゃった常連のお客様には、お帰りなさいとまるでウチに帰ってきたかのように思わせる。
 そんな力がある。


 夕食後、シャワー室に行く前に。
 今朝、ノックスヒルに祖父から電話があったので、それをメリッサに伝えた。
 クリスタルホテルのドアガールに採用したい、と言うことだった。
 それを聞いて、メリッサが嬉し泣きをしてくれたので、わたしも少し泣いてしまった。
 前回は貴女の悩みに寄り添えなくてごめんなさい、という気持ちからだ。


 泣き虫のオルと知り合ってから、本当に涙腺がおかしくて。
 強かったわたしを返して!と彼に文句を言いたくなる。


 ……祖父には、クレイトンの孤児院にオルと呼ばれる子供が居ることは伏せた。

 中身が19歳のわたしは祖父が優しいだけの人じゃないことを知っている。
 あのふわふわした父を婿と受け入れたのは、それなりの計算があったからだろうし。

 今は、多分フィリップスさん以外の人を使って、10歳のオルシアナス・ヴィオンを捜索しているだろうことも、察している。
 もうフィリップスさんとわたしを、どうこうする気はなくなったと思う。

 今はそれよりも、時戻しをする魔力を持ち、王族専属になるオルに興味を持っている。
 祖父は切り換えが早いから、とにかく誰よりも早くオルを囲い込みたいのだと思う。

 あの孤児院のオルくんが、わたしのオルであろうとなかろうと。
 魔法学院へ入学する前の彼を、祖父に近付けさせたくはない。
 大好きな祖父に対してさえ、こんな考え方をするわたしは、紛れもなくムーアの子供だ。


 ◇◇◇


 週明け早々に、選択科目の授業が始まった。
 オルも時戻しをさせるなら、入学式前に戻して欲しかった。

 そうしてくれたら、わたしはシドニーとの接点をひとつでも減らすために、外国語の選択をヒューゲルト帝国語にしなかったのに!
 わたしは既にこの言語を習得していたのに、少しでも楽をしたくて選択していたのだ。

 ……そして、その1回目の授業開始前に、1時限前に同じ席についていたシドニーと顔を合わせて、都会育ちのクールな格好良さに惹かれてしまったのだった。
 ただただ黒歴史である。


 その黒歴史が始まった日は、わたしの記憶では今日だった。
 帝国語は席が決められていて、仕方なく前回と同じ席に座った。
 机の中を探ると、やはりシドニーのハンカチが忘れられていた。

 前回はハンカチに刺繍されたガタガタの花が可愛くて、まさか男性の持ち物だと思わなくて。
 それをまじまじと見ていたら、忘れ物に気付いたシドニーが戻ってきて知り合った、というわけで。
 今回は直接やり取りをしないで済むように、先生に届けようと席を立ったら、残念ながら。

 シドニー・ハイパーがこっちへやって来るのが見えた。
 それに気付いていない振りをして、教壇で名簿を開きかけていた先生に声をかけた。


「どなたか、忘れ物を……」

「それは俺のだ」


 語学クラスの同級生達が席について注目するなかで、シドニーに腕を掴まれた。


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