【完結】やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかったわたしは今度こそ間違えない

Mimi

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第2章 いつか、あなたに会う日まで

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 祖父なら潰すのは簡単だろうと思う。
 モニカは前伯爵の娘だったというだけで、何の後ろ楯もなく。
 シドニーのエドワード侯爵家は張りぼてだ。
 3年後の祖父はそれが分かっていたけれど、どちらも潰さなかった。


「わたしが潰したいのはモニカの存在じゃありません。
 そんなことになれば、領内でますます彼女は神格化されてしまいます。
 わたしは彼女本人や周りが抱いている幻想……
 自分は悲劇のヒロインだと思い込んでいる幻想を潰して、現実を突き付けてやりたい。
 それに加担した父や母もわたしも無罪ではない、ですから……
 シドニー・ハイパーでしたら、もう会いましたし、これからは会いません」

「……いいだろう。
 これから毎月帰る予定と言うなら、交通費は自分で稼ぎなさい。
 2度目なんだから、学業に遅れを取ることはないな?
 学院には私から家業を勉強するためだと届けるから、週末土曜だけでいいから、シーズンズで働きなさい。
 毎月帰省となるとペイジがうるさいから、これも私から今夜ジョージに電話を入れる。
 お前が帰ってくることはジョージは大歓迎だし、アレが喜ぶならペイジは黙る」

「わかりました。
 では、来週からよろしくお願いいたします」

 毎月帰省するもっともらしい理由を決めて、挨拶を終えて立ち上がってから、伝え忘れていたことを思い出した。


「そうだ、じぃじ。
 2年後にあの花瓶をウィルが割ってしまうの。
 高価な物ですよね? 片付けておきます?」

「……それで、ウィルは怪我をするのか?」

「いえ、あの子は無事です。
 でも、泣いて泣いて謝って」

「怪我がないなら、そのまま飾っておく。
 物はいつかは壊れる。
 ウィルは次から気を付ける、それでいい」


 ◇◇◇


 帰りに、車を出しましょうとアーネストさんが言ってくださったのでお断りをした。


「来週から土曜だけシーズンズで働くことになりました。
 ご挨拶がてら、お店を覗かせていただいてもいいですか?」

 アーネストさんが本店に電話をして許可を取ってくださり、近くまでオムニバスに乗って、バス停からぶらぶらとお店まで歩いた。



 シーズンズはフルーツと甘いものが好きな母のために、祖父が作った店だ。
 今は祖母が社長だけれど、母が伯爵夫人、リアンが次期伯爵となっているので、誰かと結婚した後にわたしがシーズンズを継ぐ話は出ていた。


 結婚相手以外は既に決まっている将来のことを考えながら、夕方の街を歩く。
 クレイトンに行く前は幼すぎて、シーズンズの商品は食べたけれど店舗に足を踏み入れたことはない。


 テイクアウトの行列を横目に裏口からお店の中に入る。
 既に待機してくださっていた支配人のベイカーさんに挨拶をして、従業員用通用口から更衣室への道順を歩きながら、使用するロッカーや休憩室等も教えて貰う。
 その後、厨房を案内していただき、ここでも皆さんに挨拶をする。


「開店1時間前には出勤してください」


 わたしの勤務時間は10時から17時。
 休憩も1時間いただけるし、週1で月にして3回だけの勤務形態は働くというよりはお手伝いレベルで、それで300ルアは申し訳なかった。 


 だが、その認識は甘かったようで。
 最初はテイクアウトのお客様の行列を、整理するのをお願いします、と仕事内容を伝えられた。
 暑くても寒くても、雨の日でも、外で並んでいるお客様から事前に注文を聞き取り、間違えずに内に伝えて、商品をお渡しするのは、思っているより簡単ではありませんよ、と笑顔で脅された……
 ご注文された商品が分からなかったり、尋ねられて直ぐにお薦めを答えられないようでは失格です、とベイカーさんの脅しの笑顔が深くなる。


 最後に商品を見せていただくためにベイカーさんと売場へ歩いていたら、
『お前!』と言われた気がして、声がした方を見た。


 イートインのホール入口にシドニーとゲイン、ふたりの女性が立ってこちらを見ていた。
 わたしに声をかけたのはゲインだと思う。


「お前、ここまで付いてきたのかよ」

「……いいえ、違いますが」

「は? 嘘をつくなよ!」


 何を言ってるのか。
 予約もなく、店内に入れるわけがないのに。
 ゲインの頭の悪さに腹も立たない。
 こんな馬鹿野郎だから、ファーストネームで呼んで貰えないんだ。 


 人が否定しているのを聞け。
 そしてもう少し場所を考えてから、口に出せ。
 ここは学院の食堂じゃない。
 3年生でも学院外では神様じゃない。
 高等学院の制服が泣く。


 一見して関係者とはわからないスーツ姿のベイカーさんの冷たい眼差しに、同伴している3年生の女子が気付いて、黙るようにゲインの服を引っ張った。



 シドニー本人がわたしをどう思ったのかは分からない。
 彼はただ見ているだけ。
 食堂では睨まれたように感じたけれど、今はそんな感じではない。
 まるで、自分は関係ない、どうでもいい、という感じ。


 その投げやりな雰囲気は、わたしが知っていたシドニー・ハイパーとは違う人物のように見えた。


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