【完結】やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかったわたしは今度こそ間違えない

Mimi

文字の大きさ
上 下
55 / 112
第2章 いつか、あなたに会う日まで

しおりを挟む
 ムーアの邸を訪れたわたしを迎え入れてくれたのは、祖父の右腕のアーネストさんだ。


「お嬢さん、お忘れ物でもありましたか?」

 そうアーネストさんに尋ねられて、わたしが最近この邸を訪れていたらしい、と分かった。
 前回の訪問と日を開けずに来たから、若干戸惑っているようだ。
 16歳のわたしが今日の午前中まで何をしていたのか、わからないから本当に心臓に悪い。

 これはいつか、オルに会えたら文句を言ってやらねば!と、ささやかな楽しみにしておく。


 多忙な祖父は今日も訪問客があるらしく、その合間の休憩時間をわたしに当ててくださるようで、第3応接室で祖父を待つように告げられた。

 第3応接室には、2年後の祖父の誕生祝いの集まりで、従兄の小さな息子ウィルが壊した花瓶も無事な姿で飾られている。
 お茶をいただきながらそれを見て、改めて自分が時を戻ってきたのだと実感した。
 そして、この待ち時間の間に、どう話を進めようかと考えた。


 いくら祖父がわたしを可愛がっていたとしても、それは言うことなら何でも聞く様な盲目的な愛情ではない。
 祖父なら必ず、その証を求める……



「どうした、ジェリ」

 祖父が応接室に入ってきて、立ち上がったわたしを軽く抱擁した。
 祖父は語尾を伸ばさずにわたしを呼ぶ。
 その理由は『せっかちだから』と母は言っていた。


「次に会えるのは、いつか分かりません、と言ってたのは3日前の話だぞ」

 3日前なら入学式に出席してくれた祖父と、ここで食事をしたのね。


「お祖父様がお忙しい身なのは存じ上げています。
 お時間を取らせないように、出来るだけ手短に話しますので、お聞きくださいませ」

「大したものだ。
 入学して4日目で、話し方が大人びたな。
 家を出て寮に入ったら、甘えが減ったか」

 家を出て……と言ってくださったのに。
 その家に週末に帰りたいので列車の往復チケット代をください、と言ったので、祖父は暫くわたしの顔を何も言わずに見ていた。
 これは余計な心配をさせたのに違いない。


「ホームシックでも、寮で苛められて逃げ帰るのでもありません。
 クレイトンの現状確認を急ぎたくて、です」

「現状確認とは何だ?」

「従姉のモニカが巧妙に広めている噂です。
 領内で彼女はノックスヒルで冷遇されている、と誤解をされるようにわざと周囲に話しています。
 その結果、父より彼女こそが爵位を継ぐべきだったと思い込んでいる聖女信者が増えて来ているのは、お祖父様もご存じか、と」


 祖父は女性の前では喫煙はしないひとだが、無言でテーブルの上に置かれた葉巻入れの蓋を開け閉めした。
 何度かパタパタさせて、やはり吸うのをやめたのか、そこから手を離した。


「お前達家族は、誰も信じないと思っていたがな。
 私から見たら、お前達こそが一番の信者だった」


 これを言われると、辛い。

 その通り、父も母もわたしも。
 リアンもクリフォードも。
 ノックスヒルの全員がモニカを信じてた……
 今もわたし以外は彼女を信じている。


 徐々に、ノックスヒルの皆の、クレイトンの領民の、意識を変える。


 決してモニカは可哀想な女の子なんかじゃないんだ、と。


しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

処理中です...