【完結】やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかったわたしは今度こそ間違えない

Mimi

文字の大きさ
上 下
54 / 112
第2章 いつか、あなたに会う日まで

しおりを挟む
 寮生の1年生女子が囲むランチのテーブルに、メリッサが案内してくれた。
 明日からはこの1年席に、絶対に座ろう。
 気を取り直して、クラスメートの女子達と会話をやり取りして。
 今日がいつなのか、判明した。

 月曜日に入学して、今日は木曜日。
 火曜日から授業選択のオリエンテーションが2日あって、今日から午後も授業があり、この後、決定された時間割りをひとりひとり受け取るらしい。


 午後からの授業の予鈴が鳴り、全員でだらだらと教室へ向っていると。
 今日も早めに下校出来そうだし、授業が始まって宿題に追われる前の最後の日だから、夕食まで皆で街に繰り出そうと意見が出た。


「シーズンズに行きたいね」

「予約いっぱいだって」

「じゃあ違うとこ?」


 10人以上で甘いものを食べるのは、女子の連帯感を共有するのに必要だとは思うけれど、わたしは不参加を伝えた。
 以前のわたしなら、他に用があるからと行かない選択はなかった。
 皆と同じ様に行動しないと、外れてしまうと思っていたのだ。
 外れてしまうことが一番怖かった。


「ジェリー、何で行かないの?」

 行かない理由を尋ねられたので、今日は祖父と約束があって、と答えた。
 これなら、協調性のない女だと文句は出ないと思う。




 お酒を提供しない飲食店やカフェは朝食を食べさせる店が多く、早朝開店して18時前には閉店していた。
 そんな中、シーズンズは11時開店22時閉店で、学校や仕事帰りに寄ってもゆっくり出来ると、食事やお酒を出さなくても人気があった。
 イートインは予約がなければ無理だったし、21時までのテイクアウトは行列が名物扱いされる程だった。

 それで、わたしとシーズンズの関係を学院内で明かすのは、面倒の元としか思えなくて秘密にしていた。
 前回はメリッサにだけ、半年以上経ってから告白したけれど、彼女の性格も口の堅さも既に知っているから打ち明けるのは、もっと早くてもいいかな。



 放課後、寮に戻り私服に着替えて、寮母さんに祖父の邸に行く旨と夕食不要の届けを提出した。
 そして学院前のバス停から2階建てオムニバスに乗り込んだ。
 上級生と思われる何人かは一緒に乗り込んだが、幸い街へ繰り出すと言ってたクラスメート達とは時間がずれていたようで、ホッとした。


 屋根無しの2階部分に乗って、午後の風に吹かれて振動に揺られながら、わたしはオルとの会話を思い出していた。


 それは時戻しの魔法に掛けられる前に、確認したことだった。


『わたしが3年後に時戻しの魔法に掛けられて、16歳からやり直しになったこと』

 それを誰かに打ち明けてもいいのか、という……




「君のひとりだけの力では無理なこともあると思う。
 この人なら、と協力を仰げそうな人になら打ち明けてもいいんじゃないかな。
 それを信じるか信じないかは、相手次第だけどね」



 魔法士の誓いは、魔法士だけに発動される。
 元々、時戻しは術者が行うもので、他者に時戻しを掛ける等今まで無かったのだと言う。
 オルはその盲点を衝ける、と笑っていた。


「今回、君が俺から掛けられたことを報告すれば、また新たに誓約が増えると思うけど、現状では掛けられた君には何の制約もかけられていない。
 だけど、呉々も神の領域だけは触れないように気をつけて」


 それならば、協力を得たいのは先ずはこの人しか居ない。
 

 わたしはこれから、ムーアのじぃじ。
 ヒューゴ・ムーアに『時戻し』を打ち明けて、協力して貰おう、と決めた。


 わたしの祖父は、いち早くモニカの本性に気付いていた。
 王都に出てきたモニカを身近で牽制出来ずに、素行調査をフィリップスさんに依頼するくらいに。


 この年のじぃじが、既にモニカに目を付けていたかは、わからないけれど、全てを話すならじぃじしか居ない。


 時戻しを信じるか信じないかは、祖父次第。
 信じて貰えないなら、乙女の夢物語で終わらそう。


しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

処理中です...