【完結】やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかったわたしは今度こそ間違えない

Mimi

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第1章 今日、あなたにさようならを言う

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「侯爵家の皆様とモニカは、両親が素直に同意したのを驚いたでしょうね。
 争う気で来たのに、梯子を外されたその顔が見られなくて残念です。
 4人だけかと思っていましたが、あちらの弁護士さんも同行されていたのですか?」

「モニカ・キャンベルの弁護士はエドワーズ侯爵家顧問のジェイレルズという三流弁護士で、今回は同行していません。
 モニカが証拠として用意していた前伯爵の遺言書をキャンベル卿がお認めにならなければ、司法の場で解決するぞ、と脅しのように名前を出してきましたが、それもキャンベル卿はあっさりと兄の筆跡で間違いない、本物だと太鼓判を押されて」


 あの父なら、クレイトンから逃げられるなら、例え5歳児が手習いで書いた手紙だろうと、亡兄の筆跡だと認めたのじゃないかしら。
 わたしの父はそういう人だ。


 フィリップスさんは侯爵家の顧問弁護士を三流と言い、モニカのことも呼び捨てになってきている。 
 個人でお仕事をされているようだけれど、祖父からも両親からも信頼されていて、尚且つわたしの身辺を見張るなんて、何でも屋でもあるのかな。


「来月のモニカの成人をもって、彼女はクレイトン女伯爵となり、婿入りする婚約者シドニー・ハイパーの父であるセドリック・ハイパー・エドワーズ侯爵閣下が後見をする、と。
 現在伯爵家に勤務している使用人は総入れ替え、その新たな人選は侯爵家が行うそうです。
 使用人達の新しい勤務先について、モニカはこちらに丸投げして王都へ戻ろうとしましたが、ペイジ夫人がそれを許すはずもなく、紹介状には新旧伯爵両方のサインが必要だと全員の行く先が決まるまで、ノックスヒルに留め置かれることになりました」


 父ジョージ・キャンベルをキャンベル卿、母をペイジ夫人と呼んだわ。
 わたしは割りと、こういうのが耳に残るタイプだ。


 フィリップスさんはどちらかと言うと、父より母との関係が近いんだ。
 つまり、まだ母が結婚する前から知っているのかな。
 年齢差があるから、友人とは違うわね。


「ミスターフィリップスと母は、どういうご関係でしょうか?」

 ノックスヒルでもムーアでも、フィリップスさんにわたしは会ったことがない。
 純粋に、興味で尋ねただけ。

 明らかに、フィリップスさんは焦っていた……何故?


 ぐふっ、とキッチンに居たオルが、何か音を漏らしたのが聞こえた。
 今まであまりにも静かで、その存在を消していたオルだったが、堪えきれなかったようだ。


 フィリップスさんが祖父のお抱え法律コンサルタントだと、オルは知っていたはずだ。
 わたしの喧嘩の巻き込まれ事故後に、彼が何度もわたしの病室に来ていたのは純粋なお見舞いだけじゃなくて、事故処理の示談とかそんな打ち合わせも兼ねて来ていたんだ。

 それなのにシアだった時は、含みを持たせた口振りで、わたしを揺さぶった。
 実はオルは性格が悪いのかも、多分。

 フィリップスさんが29歳のわたしの恋人なのか、なんて聞かなくて良かった。
 恥を掻かずに済んで、もう、それだけで、嬉しいわたしだ。



 肝心のフィリップスさんの方は、というと。
 返事を催促する面持ちのわたしから、初めて視線を逸らせた。 

 そんな口ごもるような質問じゃないよね? 
 無神経だった? 失敗……した?  
 


「……ペイジ夫人との関係ですか……
 年齢は私が7つ年下なので、幼馴染みとは言えませんが、幼い頃からお世話になっていました。
 私の実家がムーア家の隣だというのもあって、父が長年ムーア氏の顧問弁護士を勤めていました」


 フィリップスさんのお父様と言えば、愛の鞭を振るう人だ。
 わたしには、余り良い印象はない。


「母が早くに亡くなったのもあって、私はほぼ毎日と言ってもいい程、ムーア家でお世話になっていました。
 いつか、この御恩はお返ししたい、とずっと思っていました。
 父の法律事務所で働き出した私は、実質父の代わりにムーアの仕事をしていたんです」

「お父様の事務所は、モルガン&フィリップスでしょうか?」


 超超超一流の最大手の弁護士事務所だ。
 最近働いていた事務所を辞めた、と言っていたのは、ここのことだったんだ。
 名前を聞いたこともない侯爵家の顧問弁護士を三流、と片付けるのも、無理はない。


「この度、事務所を離れて個人で始めるに当たって、父からは妨害されるかと思っていましたが、ムーアの仕事はそのまま譲ってくれまして。
 家は追い出されましたが、どうにか生きていけそうですよ。
 ここまでで、他に何かご質問はございますか?」


 そこで、わたしは聞くことにした。
 一昨日の夜のことだ。

 あの日、あんな時間に、あの場所で、わたし達が会ったのは……




 



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