【完結】やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかったわたしは今度こそ間違えない

Mimi

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第1章 今日、あなたにさようならを言う

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 わたしが知的で慎重な人?

 29歳のわたしがオルからそう見えていたのなら、いい格好していたんだと思う。
 わたしの性格は意地っ張りで、感情的。
 知的でも、慎重でもない。
 10年くらいでそれが変わるとは思えない。
 オルの前では、年上だから無理をしていたんじゃないかな。


 だけど、今のわたしは反対に、オルの年下。
 無理はしなくていい。
 言ってやりたいことを、飲み込まなくてもいい。


 本当は、こんな愚かな自分をオルに見せるのは嫌だ。
 だけど言葉にしないで察しろ、というのは無理な話だから。
 さすがの魔法士だって、そんな能力はないだろう。

 今夜はもう、素直に話が聞けないことは伝えたい。
 話し出す前に、深呼吸をした。


「気が付いてると思うけれど、わたしは今貴方にモヤモヤしてる。
 うまく説明出来ないけれど、でも。
 最後まで黙って聞いて。 
 わたしは、29歳のわたしと、16歳のわたしに嫉妬しているの。
 貴方が本当に会いたかったのは、今のわたしじゃなくて16歳のわたしだと言ったから。 
 それに、わたしに時戻しをさせたかった、と言った。
 それはきっとシドニーとの悪縁に困っている29歳のわたしのためだから。
 今のわたしが、いいように使われる、とひがんだの。
 何よりも、貴方が一番大切にして、愛しているのが10年後のわたしであるのが、すごく悔しいの」

「……」

「自分の言ってることが馬鹿みたいだ、と自分でも分かってる。
 わたしはわたしに……貴方を待つこと無く、戻ってきた貴方から直ぐにプロポーズされるであろう10年後のわたしに嫉妬しているの。
 貴方が作るオムレツを毎朝食べて、貴方の顔に好きなだけ触れて、貴方の能力を受け継いだ子供を産める10年後のわたしが妬ましいの。
 何故なら、貴方が10年後に戻ってしまって、ここに残された今のわたしは他の人を愛することも出来ず、ひとりきりでいつか来る貴方との出会いを待って待って、待ち続けるんだから。
 どうして、自分が恋人だと話したの?
 どうして、わたしを抱こうとしたの?
 ここに、わたしを置き去りにするくせに!」


 勢いを付けて、正直な思いを吐き出したわたしを、オルが辛そうな表情で見ていた。



「……ごめん、俺が悪かった。
 言われて初めて気が付いた。
 言ってることも、やってることも無神経だった、最低だな……」



 黙っていたら、オルに抱き締められた。


「どうしてモヤモヤしているのか話してくれて、ありがとう。
 明日、3年前に戻るのは、俺がやる。
 もう時戻しの話は、しない」

「……」

「こんな時は、抱き締めるのは許してよ。
 ……君は今、泣きそうな顔してる」


 こんな時でも、泣きそうでも。
 今はオルの腕の中では泣いたりしない。

 ……わたしが泣くのはベッドの中でだけ。


 ◇◇◇


 自分のベッドでひとしきり泣けば、心は落ち着いてきた。

『明日、3年前に戻るのは、俺がやる』
 本当に、明日オルは行ってしまうのだろうか。


 さっきは嫉妬で情緒が乱れて、考えられなかったけれど、時戻しの魔法について、もっと詳しく聞かなくてはならない。
 わたし(29も、16も含めての)に優しい、あのオルが。
 自分の代わりに3年前に行って欲しがっていたのは、何か理由があるのだ、と落ち着いてきた今ならわかる。


 絶対に時戻しを行わないといけない、何か。
 術者のオルが戻れない、何か。


 13年前から29歳のわたしが待つ元の10年後に大人の姿で戻るために、魔力を増やすには一筋縄ではいかないから、みたいな簡単な理由じゃない気がする。
 もっと、根本の......時戻しのシステムに、何かあるんだ。

 時戻しの魔法に、わたしを掛けたい理由。
 オルからそれを聞いて納得したら、わたしは時戻しの魔法に掛けられても構わない。
 オルがそうするのは絶対に、29歳のわたしのため、なんだから。


 昨夜、オルが言いかけた話の続きも聞かないと。
 人生を満喫していたリアンの後、ただ、と言いかけていた。
 家族に何かあったのだろうか……
 話を途中で遮って、10年後の自分への嫉妬でぐずぐず拗ねた自分が恥ずかしい。


 質問したいことはたくさんあったのに、シアからオルになった彼に堕とされて、後回しになっている。

 もう、わたしは29や16のわたしに嫉妬するのを止める。


 しっかりして!と一旦、この恋心を封印することにした。



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