22 / 112
第1章 今日、あなたにさようならを言う
22
しおりを挟む
逃げようとしたのに失敗して、変態の空き巣に気付かれてしまった。
忍び込んだ部屋の住民に見つかったのに、逃亡するのではなく、笑っているのは居直り強盗に変更して、口封じをするためか。
もう遅いとは思ったけれど、悲鳴を上げようとわたしは大きく息を吸い込んだ。
「お帰りなさい!」
「……ゴホッゴホ」
キャー!と、辺りに響かせるつもりの息の吸い込みが、嬉しそうに露出狂から『お帰りなさい』と声をかけられたことで、途中で止まって行き場を失い、吐くか、吸い込むか、どっち付かずになって、わたしはむせた。
「どうした、大丈夫か!」
わたしが軽い呼吸困難に陥って咳き込んだので、その一瞬だけ変態は表情を変えて、わたしの方に手を伸ばしてきたので、その手を叩き落とした。
わたしを心配するような素振りから凶悪犯じゃないような気がしてきたから、追い出しにかかることにする。
「触らないでよ!
今すぐ、ここから出ていって!」
「……」
「出ていかないと、叫ぶからね!
早く出ていけ!」
「……やだなぁ、お恥ずかしいところ見せちゃったから、怒ってるんだね!
どこに出掛けてたの、ディナ?」
ディナ、と呼ばれた?
そんな愛称で呼ばれたことはない。
一般的にわたしの名前の愛称はジェリーか、ディナが多いが、キャンベル家ではカルディナと言う名のメイドが既にディナと呼ばれていたので、後から生まれたわたしはジェリーだった。
ディナと呼ぶと言うことは、わたしの名前を知っているこの女は初対面じゃない?
こんな物凄い素顔美人で、巨乳の、ナイスな身体を持つ変態がわたしの知り合いに居た?
超高速のスピードで父方の親戚、母方の親戚、領地、王都、幼小中高大、思い付く限りの知人女性のメイク無しの素顔を推測しながら思い浮かべて行くが、どれにもヒットしない。
いやいや、この際、どんな関係者だろうと許せない。
どう考えても、いくら知り合いであっても、招いていないのにウチの中に居るのはおかしいでしょ、全裸で!
お帰りなんて、馴れ馴れしくされても、この女に見覚えはないし、ここは強気で行くしかない。
「あんた、誰よ?
パピーに変な真似していないでしょうね!」
「えー、パピーに変な真似なんて、しないわよぉ。
だって、あたしがパピーなんだもん!」
自分はパピーだと主張する黒髪美女の金色の瞳が光った。
こんな女、相手していられない。
パピーが無事か気になって、急いでベッドを覗いたが、眠っているはずのパピーの姿はない。
「だからー、あたしがパピーなんだってぇ」
もしかして落ちたのかも、とベッドの向こう側を探してみる。
壁との狭い隙間には幼いパピーもさすがに入れないのは分かるのだが、確認だけしてみる。
「ねー、ねー、ディナ、探すの止めて話を聞いて」
女に話しかけられても無視して、モニカの部屋、バスルーム、レストルーム、全部の場所をパピーを呼びながら、見て回る。
そんなわたしの後ろを全裸の女が付いてくる。
どうしてなの。
どこにいるの。
あんな傷を負ったまま、消えてしまった小さなパピー。
少しの間だからと出掛けるんじゃなかった。
どこにもいない、パピーはどこにもいない。
力が抜けて床に座り込んだ。
物凄い喪失感がわたしを襲う。
「泣かないで、ディナ。
パピーはホントにあたしなの。
あたしは『時戻しの魔女』、昨日は無理して魔力を消耗して、子供の姿になってしまっていたの。
ありがとう、貴女のおかげで魔力が戻って、元の姿に……」
自分でも気付かないくらい、静かに涙が流れていたようだった。
時戻しの魔女と名乗った全裸の女に、わたしは抱き締められて。
もう一度パピーに会いたくて、わたしは泣いた。
忍び込んだ部屋の住民に見つかったのに、逃亡するのではなく、笑っているのは居直り強盗に変更して、口封じをするためか。
もう遅いとは思ったけれど、悲鳴を上げようとわたしは大きく息を吸い込んだ。
「お帰りなさい!」
「……ゴホッゴホ」
キャー!と、辺りに響かせるつもりの息の吸い込みが、嬉しそうに露出狂から『お帰りなさい』と声をかけられたことで、途中で止まって行き場を失い、吐くか、吸い込むか、どっち付かずになって、わたしはむせた。
「どうした、大丈夫か!」
わたしが軽い呼吸困難に陥って咳き込んだので、その一瞬だけ変態は表情を変えて、わたしの方に手を伸ばしてきたので、その手を叩き落とした。
わたしを心配するような素振りから凶悪犯じゃないような気がしてきたから、追い出しにかかることにする。
「触らないでよ!
今すぐ、ここから出ていって!」
「……」
「出ていかないと、叫ぶからね!
早く出ていけ!」
「……やだなぁ、お恥ずかしいところ見せちゃったから、怒ってるんだね!
どこに出掛けてたの、ディナ?」
ディナ、と呼ばれた?
そんな愛称で呼ばれたことはない。
一般的にわたしの名前の愛称はジェリーか、ディナが多いが、キャンベル家ではカルディナと言う名のメイドが既にディナと呼ばれていたので、後から生まれたわたしはジェリーだった。
ディナと呼ぶと言うことは、わたしの名前を知っているこの女は初対面じゃない?
こんな物凄い素顔美人で、巨乳の、ナイスな身体を持つ変態がわたしの知り合いに居た?
超高速のスピードで父方の親戚、母方の親戚、領地、王都、幼小中高大、思い付く限りの知人女性のメイク無しの素顔を推測しながら思い浮かべて行くが、どれにもヒットしない。
いやいや、この際、どんな関係者だろうと許せない。
どう考えても、いくら知り合いであっても、招いていないのにウチの中に居るのはおかしいでしょ、全裸で!
お帰りなんて、馴れ馴れしくされても、この女に見覚えはないし、ここは強気で行くしかない。
「あんた、誰よ?
パピーに変な真似していないでしょうね!」
「えー、パピーに変な真似なんて、しないわよぉ。
だって、あたしがパピーなんだもん!」
自分はパピーだと主張する黒髪美女の金色の瞳が光った。
こんな女、相手していられない。
パピーが無事か気になって、急いでベッドを覗いたが、眠っているはずのパピーの姿はない。
「だからー、あたしがパピーなんだってぇ」
もしかして落ちたのかも、とベッドの向こう側を探してみる。
壁との狭い隙間には幼いパピーもさすがに入れないのは分かるのだが、確認だけしてみる。
「ねー、ねー、ディナ、探すの止めて話を聞いて」
女に話しかけられても無視して、モニカの部屋、バスルーム、レストルーム、全部の場所をパピーを呼びながら、見て回る。
そんなわたしの後ろを全裸の女が付いてくる。
どうしてなの。
どこにいるの。
あんな傷を負ったまま、消えてしまった小さなパピー。
少しの間だからと出掛けるんじゃなかった。
どこにもいない、パピーはどこにもいない。
力が抜けて床に座り込んだ。
物凄い喪失感がわたしを襲う。
「泣かないで、ディナ。
パピーはホントにあたしなの。
あたしは『時戻しの魔女』、昨日は無理して魔力を消耗して、子供の姿になってしまっていたの。
ありがとう、貴女のおかげで魔力が戻って、元の姿に……」
自分でも気付かないくらい、静かに涙が流れていたようだった。
時戻しの魔女と名乗った全裸の女に、わたしは抱き締められて。
もう一度パピーに会いたくて、わたしは泣いた。
10
お気に入りに追加
623
あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ
悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。
残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。
そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。
だがーー
月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。
やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。
それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる