【完結】やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかったわたしは今度こそ間違えない

Mimi

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第1章 今日、あなたにさようならを言う

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「傷を見ただけで、鞭だと分かるんですか?」

「猛獣を調教するために使用するような長く振り回す鞭ではなくて。
 貴女にも、そう貴族のご令嬢なら、マナーがうまく出来なかった時、家庭教師が手を出しなさい、というあの、短くて細くて、そのくせ与えるダメージは大きい、あの恐怖の、愛の鞭、と言い張る……覚えていませんか?」

「家庭教師に鞭なんて使われたことはありません。
 父がそんなことを許すはずありませんもの」

「はぁ……素晴らしいお父上なんでしょうね。
 あの鞭の恐ろしさを知らない貴女は恵まれたひとですね」


 何故だか皮肉を言われたように感じたけれど、気のせいかも知れない。


「……これから、夜間病院に連れて行きます」


 わたしの鞭打ち経験の話より、今はパピーの傷の治療が先だ。
 痛みと疲れと安心感からか、眠りに落ちたパピーを受け取ろうと、手を伸ばしたのに渡してくれない。


「病院で受診するのはお勧めしませんね」

 やはり、さっき皮肉かと思ったのは、気のせいではなかったのかもしれない。
 その声の冷たさは、わたしをぞっとさせた。


「どうしてですか?
 こんな、こんな小さい子供を鞭で打つなんて、信じられない。
 まず病院で治療して、誰にやられたのか聞き出して、その後直ぐに警察へ被害届をだ……」

「だから!
 行ったら駄目です!」

 話している途中で遮られて叱られて、わたしは黙った。
 すごく当たりが柔らかい感じの人だし、心細くなってここまで付いてきてしまったけれど、ようやく警戒心が沸き上がってきた。


「止める理由を言わないなら、その子をわたしに返して。
 大声を出しますよ?」

「……貴女なら良く考えれば分かることでしょう?
 明らかに虐待を受けた幼い子供ですよ?
 善意で動いたのに、貴女はその場で拘束されるでしょうね」

「わたしが虐待したと疑われる、と言うことですか?
 でも、パピーが証言してくれるわ」

「子供が虐待した親を庇って、自分の不注意で怪我をした、と言い張る事案は多いんです。
 いくら、この子が貴女じゃないと証言しても、病院へ連れて行ったのは貴女です。
 この子との関係について誤魔化しきれずに、全部聞き出される。
 せっかく貴女が50ルアでこの子を庇った盗みの件も、明らかにされる。
 貴女もそれをご存知だから避けたかったのでしょうけれど、犯罪を犯した子供は普通の孤児とは違う矯正施設へ送られる」

「……」

「幸いにも虐待の疑いが晴れたとしても、未成年の貴女は取り敢えず保護者が引き取りに来るまで、警察に留め置かれることになるでしょう。
 お父上以外に貴女を迎えにきてくれる人は居ますか?
 知人ぐらいでは駄目です。
 ご領地は確か、クレイトンでしたよね?
 良いところですよね、遠いけれど。
 王都からは6時間くらいかかるんだったかな」

「……」


 明日はモニカがシドニーと、侯爵ご夫妻と共にノックスヒルへ帰る日だ。
 警察からわたしの引き取りを連絡された父は、入れ違いで王都へ向かうだろう。


 ……駄目だ、今は父にクレイトンに留まっていて貰わないと。
 



 
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