【完結】やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかったわたしは今度こそ間違えない

Mimi

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第1章 今日、あなたにさようならを言う

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 わたしだって帰らないといけないの……
 この子を引き渡して、それから夜道をひとりで帰るのは怖いから、警邏のついでに送ってください、と頼んでみよう。
 それで万事解決!の、はずなのに。



 パピーがすがるようにわたしの腰に抱きついたので、わたしも路上に膝をついて抱き締めた。
 どうしてこんな、会ったばかりの真っ黒な小さな子供に心を掴まれちゃったんだろう?



 頭からは早く連れていけ、と指令が発令されているのに。
 この腕はパピーを抱き締めて、この胸は別れが辛くて震えてる……


「いたっ……」

 パピーが小さく呻いた。
 わたしがパピーの背中に回した手の。
 掌に当たった感触に、違和感があった。

 わたしはゆっくりと自分の掌を見た。
 その独特の粘り気が、ツンと鼻につく匂いが。
 それが何なのかを、はっきりと伝える。


 それは血だった。
 


 肩からずり落ちそうなぶかぶかの大きい服。
 パピーの背中は服にまで血が染み込んでいる。
 今まで気付けなかった。
 わたしの意識はおじさんにだけ集中していて、手荒に扱われたパピーのことは後回しにしていたのだ。

  
 その小さな背中に、パピーは深傷を負っていた。


 
 どうして先ずはこの子の体調に気遣えなかった?
 一体、いつ怪我をしたの?

 おじさんが何かしたようには見えなかった。
 じゃあ、わたしと知り合う前に?
 わたしにぶつかった時、既に背中はこの状態だったの?


 顔をしかめて、痛みを逃すためか、大きく息を吐いたパピーを前にして。

 しばらく呆然としていたので、わたしにかけられた声に直ぐに返事が出来なかった。


「その子は、怪我をしているようですね?
 貴女の力になりたいのです。
 貴女の侠気に心を奪われたこの僕に、お手伝いさせて下さいませんか?」


 ◇◇◇


 その人の行動は早かった。
 あっという間に痛みでぐったりしているパピーを自分のコートでくるんで抱き上げ、移動したガス燈の下で服を捲って、背中の傷を確認した。


「分かりますか?
 これは鞭で打たれた傷ですよ。
 一旦、塞いでいた傷口があの親父に乱暴に揺さぶられたせいで開いた感じですね」


 乱暴に揺さぶられたせい、と言ったのを聞いて頭が冷えて、浮わついていた気持ちが醒めた。
 この人は最初の方から見ていたんだ。
 だけど助けてくれなくて、全部終わってから声を掛けてきた。


 モニカのことは嗤えない。
 わたしにも守られたい願望があったのだと思い知る。
 見知らぬ男性から力になりたいと言われて、ちょっと頼りたいと思ってしまったのだ。
 

 こんな、どこの誰だかわからない……
 ちょっと格好いい大人の男の、大きな背中に。
    
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