【完結】やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかったわたしは今度こそ間違えない

Mimi

文字の大きさ
上 下
13 / 112
第1章 今日、あなたにさようならを言う

13

しおりを挟む
 出来る限り、余分な現金は持たないように、と。
 クレイトンから出る時に、母から言われていた。


 明日からの週末をモニカと部屋で、だらだらと過ごすだけの予定だったわたしは、手持ちの70ルアで生きていけるはずだった。
 だけど、もう財布には20ルアしか残っていない。
 割り勘要員のモニカは居なくなったし、ひとりで全額払わなくてはいけない。
 これでは運賃ギリギリで、キャリッジの運転手へのチップは渡せない。


 ……そして銀行は週明けまで閉まっている。



 勿論パピーを助けたことは後悔なんてしていない。
 ただ、他にやりようはあったのに、身分を明かしてお金で解決しようとした。

 おじさんに泣き落としで許しを乞えば、どうにかなったかも?
 周囲の人達に助けを求める方が早かったかも?


 わたしはいつもこうだ。
 深く考えることをせずに行動して、発言して。
 後から後悔して、迷う。


「ごめんなさい、ごめんなさい、今はお金を返す宛がありません」

 情けないけれど、悔やんでいる気持ちが表情に出ていたのか、わたしのコートの裾を摘まんだパピーが謝ってくる。
 分かってる、返す宛が有るなら、盗んだりしない。
 小さい子供に気を遣わせて、わたしの方が謝りたい。


「……ずっと、ごめんなさいばっかりだね?
 こんな時は、ありがとうでいいんだよ」

「……ありがと」

 小さな声でパピーが御礼を言ってくれた。
 それで迷いを吹っ切ることが出来た。

 うん、これで良かったんだ。
 たった50ルアで、パピーは盗みをした不良児童というレッテルを警察から貼られずに済むのだから。
 わたしは良いこと、したよね?

 母はわたしを『よくやった、無駄に使った訳じゃないわね』と誉めてくれるだろう。


「君のおウチはどこ?
 送っていくから教えて?」

「……」

「じゃあ、警察に預けるしかないの。
 ごめんね、迷子だから連れていくからね」

「……連れていかないで」


 わたしはパピーを助けたいと思った。
 だけど、それはただ1回限りの同情で、これからもずっと面倒を見てあげられる訳じゃない。
 中途半端な真似をして無責任だと言われればそうなんだろう。
 
 警察に連れていけば、何処かの児童施設にパピーは預けられる。
 だけど、もう空腹の為に盗みを働かなくても済む。

 生き延びるために小さな犯罪を繰り返せば、段々それが当たり前になって、悪に手を染めることに躊躇が無くなる。
 やがて、犯罪のやり口は大胆に、内容は凶悪になっていって……

 そのせいで、いつかパピーは誰かの命を奪うようになるかもしれないし。
 反対に誰かによって命を落とすことになるかもしれない。


 施設に入ると、自由は奪われるだろうけれど。

 パピーの将来を考えたら、ここは心を鬼にしても、警察へ連れていかないといけない。

 
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

処理中です...