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第1章 今日、あなたにさようならを言う
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「なる程ね、モニカにとってはわたしの家族は、泥棒で。
自分は権利を奪われ虐げられたお姫様?
爵位と屋敷を乗っ取った叔父家族に、毎日使用人のようにこき使われている、と聞かされた?」
そんな筋書きの物語は、昔から廃れることなく存在する。
両親が亡くなってしまったせいで、乗り込んできた親戚から虐げられる正当な後継者。
確かに、ウチの家族がモニカの住む伯爵邸に引っ越したけれど、それは爵位を継いだんだから仕方ない。
ウチから連れて行った使用人達も、元から居た伯爵家の使用人達もうまく折り合いを付けて協力して、皆で傷付いた『モニカお嬢様』を、見守っていた。
気持ちよく風が通る邸内で一番いい部屋にずっと住んでいたモニカ。
わたしより新しく作るドレスの枚数が多かったモニカ。
避暑で2週間もウチに泊まっていたくせに、シドニーにはそれが見えていなかったの?
「やめてくれ、そんな言い方は君らしくない。
モニカも少し思い込んでるだけだ」
「少し、じゃないでしょ?
貴方からもわたし達がモニカを冷遇しているように見えたの?
もしかしたら、自分が王都へ出て、高等学院や大学へ通えなかったのも、叔父夫婦が……
わたしが進学の邪魔をしたせいだ、って言ったんじゃないの?」
彼女が王都にある高等学院や大学に進学しなかったのは、本人がそうしたいと言ったから。
わたしより2歳年上の姪に『遠慮はしないでくれ』と両親は何度も進学を勧めた。
それでも、自分はクレイトンに残り、領内の子供達の世話をしたい、と言っていたから。
何度もモニカは言いはった。
『遠慮などしていません、わたしはクレイトンの地が好きだから、ここに居たいのです』
「モニカの言うことが真実ではなく、それが思い込みであっても、ずっと彼女が苦しんでいるのは事実なんだ。
だからもう彼女は君達家族から早く離れるべきだと思って、婚約を早めたんだ。
結婚は俺が大学を出て仕事も落ち着いてからになるが、これを機に、モニカはウチの実家に引き取らせて貰うよ」
「……確かに真実より事実の方が大切ね。
そう……モニカにずっとそう思われていたのなら、ウチを出ていくのにわたしは反対しない。
でも、良かったわ。
伯父様達は列車事故で亡くなったの。
そこだけは父が関わっているのではないとはっきりしていて、それは紛れもない事実だから。
伯爵になりたかった父が企んだ殺人だ、と触れ回られないだけ不幸中の幸いだった」
「おい、ジェン! 言っていいことと悪いことがあるぞ!」
シドニーがわたしに対して大声をあげたのは初めてだった。
伯父達の死因が事故だったことを、不幸中の幸いと言ったわたしは酷い女なのね。
でも真実なんかどうでもよくて、嘘だらけの事実を受け入れたいシドニーだって、わたしにとっては酷い男じゃない……
「酷いわ、ジェリー……」
背後から声が聞こえたので、振り返った。
キッチンの入り口にモニカが立っていて。
ショックで震える彼女の瞳から。
彼女の菫色の瞳から、綺麗な涙が一筋流れた。
自分は権利を奪われ虐げられたお姫様?
爵位と屋敷を乗っ取った叔父家族に、毎日使用人のようにこき使われている、と聞かされた?」
そんな筋書きの物語は、昔から廃れることなく存在する。
両親が亡くなってしまったせいで、乗り込んできた親戚から虐げられる正当な後継者。
確かに、ウチの家族がモニカの住む伯爵邸に引っ越したけれど、それは爵位を継いだんだから仕方ない。
ウチから連れて行った使用人達も、元から居た伯爵家の使用人達もうまく折り合いを付けて協力して、皆で傷付いた『モニカお嬢様』を、見守っていた。
気持ちよく風が通る邸内で一番いい部屋にずっと住んでいたモニカ。
わたしより新しく作るドレスの枚数が多かったモニカ。
避暑で2週間もウチに泊まっていたくせに、シドニーにはそれが見えていなかったの?
「やめてくれ、そんな言い方は君らしくない。
モニカも少し思い込んでるだけだ」
「少し、じゃないでしょ?
貴方からもわたし達がモニカを冷遇しているように見えたの?
もしかしたら、自分が王都へ出て、高等学院や大学へ通えなかったのも、叔父夫婦が……
わたしが進学の邪魔をしたせいだ、って言ったんじゃないの?」
彼女が王都にある高等学院や大学に進学しなかったのは、本人がそうしたいと言ったから。
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それでも、自分はクレイトンに残り、領内の子供達の世話をしたい、と言っていたから。
何度もモニカは言いはった。
『遠慮などしていません、わたしはクレイトンの地が好きだから、ここに居たいのです』
「モニカの言うことが真実ではなく、それが思い込みであっても、ずっと彼女が苦しんでいるのは事実なんだ。
だからもう彼女は君達家族から早く離れるべきだと思って、婚約を早めたんだ。
結婚は俺が大学を出て仕事も落ち着いてからになるが、これを機に、モニカはウチの実家に引き取らせて貰うよ」
「……確かに真実より事実の方が大切ね。
そう……モニカにずっとそう思われていたのなら、ウチを出ていくのにわたしは反対しない。
でも、良かったわ。
伯父様達は列車事故で亡くなったの。
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伯爵になりたかった父が企んだ殺人だ、と触れ回られないだけ不幸中の幸いだった」
「おい、ジェン! 言っていいことと悪いことがあるぞ!」
シドニーがわたしに対して大声をあげたのは初めてだった。
伯父達の死因が事故だったことを、不幸中の幸いと言ったわたしは酷い女なのね。
でも真実なんかどうでもよくて、嘘だらけの事実を受け入れたいシドニーだって、わたしにとっては酷い男じゃない……
「酷いわ、ジェリー……」
背後から声が聞こえたので、振り返った。
キッチンの入り口にモニカが立っていて。
ショックで震える彼女の瞳から。
彼女の菫色の瞳から、綺麗な涙が一筋流れた。
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