【完結】あの頃からあなただけが好きでした

Mimi

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第26話 マリオン24歳⑩

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カーティスとクレアが恋人ではなかったのだとわかって嬉しいはずなのに。

3人で会った夜のクレアを思い浮かべると、カーティスに協力した偽装だった、なんて信じられなかった。
彼女は私を睨んでいたし、腹を立てていた。
それに今日だって、トリシアが教えてくれたクレアの言葉は
『しゃしゃり出てくるな』だった。 
 
つまり私は、彼女にとって邪魔だったけど……? 
そんなクレアに本当の恋人が居た?
あのクレアを襲った人が本当の恋人だったなんて、それこそ本当なの?

考え込んだ私にブレナーが尋ねた。 


「またマリオンはあれこれ考えちゃってます、って感じだな?
 アイツからは何も言われていないの?」

「教会の帰りに会った時、君は俺の運命だとかは言われた」


あの日、あの公園で、彼は立ち上がった私を見つめて。
『どんな形であれ、君は運命のひとだから』
そう、カーティスに言われたけれど。

言われたと、話すそばから気恥ずかしい。
絶対、スコットなら爆笑してる。
聞かされたブレナーは……良かった、笑ってない。


ブレナーの手が私の頭をわしゃわしゃする。
彼からはよく私の事を昔飼っていた子犬に似ていると言われて、髪をかき混ぜるように頭を撫でられた。


「そこまで言われて、何が足りない?
 ずっと追いかけられたくて、引き伸ばしてる?」

「そんな事ないよ!」

「じゃあもう、あれこれ考えずにアイツの言う運命ってヤツに飛び込めよ」

「……」

「アイツの手を離して、後悔しない?
 さすがに今回君に振られたら、もうブルーベルは会いに来ないだろうね」

「……これが最後なのはわかってるの」

「運命なんてさ、思っていてもなかなか言えないよな。
 だけど俺は、俺の運命の相手と結ばれることが出来たし。
 俺から見たら……彼は君の運命の相手じゃないかな」

ブレナーはそう言って立ち上がり、テーブルの向こうからこちらに回ってきて、私の前に跪いた。


「俺の子犬であり、妹であり、大切な友人である君に。
 後悔はして欲しくないし、何より幸せになって欲しい」


その言葉が心に沁みて……冷えかけて胸につかえていた塊を溶かしていくみたいだった。
ブレナーの前で泣くのは、初めて。
彼は私を抱き締めて、背中をゆっくり撫でてくれた。
それは昔、泣いた姉を慰める為に私がした動作と同じ。


「明日、彼が迎えに来てくれるの……
 今度こそ私、幸せになれるのよね?」

答えるようにブレナーがぎゅっと抱き締めてくれる。


「スコットとふたりで、君をずっと見守っているから。
 意地なんか張らないで、アイツのところに行けばいい」


 ◇◇◇


翌日、約束した通り。
研究所の通用門を出ると、少し離れた所でカーティスが私を待っていてくれた。

彼の元に歩いて行く。
もう私は迷わない、彼が待ってくれている所へ歩いて行く。


「マリオン!」

呼ばれて振り返ると、スコットが私に向かってずんずん歩いてくる。
スコットの後には、彼を迎えに来たのかブレナーが居て。
私は彼に手を振った。

貴方が私の背中を押してくれた。
ありがとうと感謝を込めて、ブレナーに向かって手を振った。

それを眺めているけれど、カーティスは動かなかった。
私が自分のところに来ることを、彼は待っているのだ。


「昨日の事、ブレナーから聞いたよ。
 アイツ危ない人間だぞ、わかってる?」

スコットの口許が歪んでいて。
皮肉な口調だけど、私を心配してくれているのがわかる。
今日の昼はあえて、彼を避けていた。
多分、カーティスとの事でお説教されると思ったから。


「クレアだって、アイツの被害者に近いんじゃないか?」

「貴方、彼を誤解してる。
 仕事以外じゃ、あまり愛想良くないから冷めて見えるけれど、それほどひどい人じゃないわ」

「そんな事言ってるんじゃないよ、落ち着いて考えてみろよ」

「……」

「クレアをその気にさせて……って、やつじゃないか?
 アイツの言い分だけ聞いて、信用しちゃ駄目だ」

スコットが私の手を取る。


「貴方には賛成して欲しかったのに。
 何度も何度も考えて決めたの。
 私も彼を求めてるのに、もう別れを繰り返したくない」

私はスコットに握られた手を、もう片方の手で外した。


「彼の仕事に合わせて、ここを離れることになるかも知れないけど……」

「待って、仕事を辞める気か?」

「出来たら辞めたくないけど、彼と離れたくないから」

こんなことまで考えてしまうなんて、自分でも信じられない。
あんなに大切だった仕事を二の次にしてしまうなんて。
一度、カーティスとの未来を夢見てしまったら、たがが外れたように彼の事しか考えられなくなってしまった。


「次回食事に行って、ゆっくり話しましょう?
 カーティスのところに行くから、また今度ね?」

私の変わりように呆然としたスコットの後で、ブレナーが私に親指を立てていた。
彼が居るからスコットは寂しくなんかないはず。
私だって、貴方のように愛されて甘やかされたいの。
だから……これ以上何も言わないで欲しい。
スコットに背を向けて、私は歩き出した。


高校で16歳で知り合って、ここまで何年かかった?
色んな事があって、嬉しくて苦しくていっぱい泣いたけれど。
もう迷わないし、もう誰にも邪魔はさせない。

先では軽く両腕を広げたカーティスが待っている。
彼に何から話そう。
貰った蒼いリボンを今でも大切に持っている事?
昨夜は、あの詩集を何年か振りで読んだ事?


『あの頃から貴方だけが好きだった』

恥ずかしいけれど、告白してみようか。
そう言ったら、貴方は……

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