【完結】あの頃からあなただけが好きでした

Mimi

文字の大きさ
上 下
16 / 29

第16話 マリオン24歳⑦

しおりを挟む
姉ジュリアからの想像さえしていなかった裏切りを、カーティスから聞かされて、実家にはもう戻らないと決別した私は気持ちを切り換える事にした。



故郷のコーカスから戻ってきて初めての週末。
私は大学の友人、トリシア・ボルトンとランチをした。
トリシアとは気が合って、1年に2、3回ほど会っている。
私もそうだが、トリシアは
『自分は自分、他人は他人』と、割りきっていると言うか……
他人のする事に口出せず、自分の決めた事にはあれこれ言うな、的な所がある。
その性格はある種の人達から見たら不遜と、捉えられるかも知れない。

私も自身が性格的に可愛くない事は承知していた。
だから、身内のはずの姉に裏切られて。
身近に居たルームメイトに、カーティスとの繋がりを2年も隠し続けられたのだ。


「3年前、君に会いに来たことがある」

「3年前って、まだ大学に居た頃?」

「みっともない話だけど、諦めきれなくて。
 君の友人から住所を聞いて、部屋を訪ねたんだ。
 その時にクレアと知り合った」


カーティスは私の数少ないコーカスの友人の名前を挙げた。


「君は忙しくしてて、楽しそうで幸せそうで。
 もう俺の出る幕はないな、と思って」

クレアに案内してもらった大学で私とスコットの姿を見たのだ、とカーティスは言った。
スコットが貴族階級の人間で、もう婚約もほぼ決まっている、と噂がある事も聞いたらしい。


「スコットからは恋人の事を打ち明けられていたから。
 貴族の義務として出席しなくてはいけないところに女性を同伴する時は、パートナーを頼まれていたの」

「そうか……」

スコットの事は誰にも言えなくて、彼との仲を聞かれても『友達だから』で、通していた。
噂があることも知っていたけれど、ふたりで否定しても消えなかった。 
まさか、それがカーティスの耳に入るなんて想像もしていなかった。


自分が来たことは内緒にしてくれ、とクレアに頼みつつも、それでも最後の悪足掻きをした、と彼は続けた。


「翌日に列車の予約を入れていたから、王都のホテルに泊まっていて、それをクレアに教えた。
 もしかしたら、口止めした話を聞かされた君が会いに来てくれないか、と期待して朝まで待ってしまった」

「待って、私何もクレアからは聞いていなくて!」

「……そうだったんだ。
 次の朝クレアが見送りに来てくれて、君には俺が来た事は話した、と言われて……
 もう本当に諦めようと決めたんだ」


『直接君には何も言えなくて。
 卒業前の事も、3年前の事も、どちらも人伝にした俺が根性なしだったから』

カーティスはそう言って、微かに笑った。
そして、キーナンさんがジュリアに買った指輪の箱を私に手渡して……私に背を向けた。


私がもっと素直な、可愛げがある女の子だったら……
彼女達は私が幸せになる邪魔をしたりしなかったの?
私が女の子同士の連帯感が持てる相手だったら……
この人徳の無さは、愛想の無い自業自得なのかな。


「マリオン、眉間に皺寄ってる」

トリシアが私の眉間に指を伸ばしてきて、トントンと軽くつつかれた。


「仕事の事? 何か煮詰まってるの?」

「……人間関係かな」

「んー、私もさ、知っての通り人付き合い上手じゃないから何も言えないけどさ、楽になるなら話してみる?
 聞くだけしか出来ないけどさ」

数は少なくても、トリシアのように信頼出来る友人は居て。
そうだ、私には家族みたいな親友スコットや、お兄さんみたいなブレナーだって居る。
今更失ってしまった初恋をぐずぐず思い煩ってもロクな事にならない。
彼は……カーティスは。
もう前を向いているのだから。


「トリィがそう言ってくれるだけで嬉しいよ。
 大丈夫、何とかなる。
 どうしようもなくなったら、泣きつくから」

いかにも、な感じだけど、握り拳をトリシアに見せた。
彼女はまた、私の額に指を伸ばして弾いた。


「そうそうクレアが帰ってきてるでしょう?
 もう会ったの?」

「……会ったよ」

「高校とか大学とか、知り合いに片っ端から連絡して。
 結婚するって、自慢してるらしいけど。
 お相手に誰も会ってないんだよね、マリオンは自慢の恋人に会わせて貰った?」


ぐずぐず考えない、と決心したそばから聞かされる。
もう暫くは大学の友人達とは会わないようにしないと。
トリシアは気楽に話せるだろうと、新しくクレアの話題を振ってくれただけ……


「すごい素敵だ、って言ってるのにさぁ、全然会わせてくれないから、クレアの妄想疑惑出てるんだよ」

ふと、魔が差した。
私じゃない誰かが、私の身体を乗っ取って話し出す。

『コレクライ、イッテモイイナ?』



「……クレアの恋人は、私の高校の同級生なの」

「え?」
 
「彼は大学まで私に会いに来てくれたんだけど、案内したクレアからは聞いていなかったの。
 それで会えなくて、ね」

「それ……」

「彼には私に伝えた、と言ったみたい。
 私の初恋の相手だったんだけどね。
 結婚式ではブライズメイドを頼まれたから」


『コレダケハ、イッテヤル』

誰かじゃない、私が言ってるんだ。
私の話を聞いて、トリシアが何とも言えない表情をした。


トリシアは軽々しい話はしない。
それは皆知っている。
だから、彼女の言う事は皆信じる。
他人の事に口出ししない彼女だから、この話をあちこちで言う事はないし、胸に止めているだけかも知れない。
だからこそ、私はトリシアに話したのだ。

彼女が口にすると。
それは真実となり、皆は信じるから。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を、あなたのために

月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

いっそあなたに憎まれたい

石河 翠
恋愛
主人公が愛した男には、すでに身分違いの平民の恋人がいた。 貴族の娘であり、正妻であるはずの彼女は、誰も来ない離れの窓から幸せそうな彼らを覗き見ることしかできない。 愛されることもなく、夫婦の営みすらない白い結婚。 三年が過ぎ、義両親からは石女(うまずめ)の烙印を押され、とうとう離縁されることになる。 そして彼女は結婚生活最後の日に、ひとりの神父と過ごすことを選ぶ。 誰にも言えなかった胸の内を、ひっそりと「彼」に明かすために。 これは婚約破棄もできず、悪役令嬢にもドアマットヒロインにもなれなかった、ひとりの愚かな女のお話。 この作品は小説家になろうにも投稿しております。 扉絵は、汐の音様に描いていただきました。ありがとうございます。

次は絶対に幸せになって見せます!

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢マリアは、熾烈な王妃争いを勝ち抜き、大好きな王太子、ヒューゴと結婚したものの、結婚後6年間、一度も会いに来てはくれなかった。孤独に胸が張り裂けそうになるマリア。 “もしもう一度人生をやり直すことが出来たら、今度は私だけを愛してくれる人と結ばれたい…” そう願いながら眠りについたのだった。 翌日、目が覚めると懐かしい侯爵家の自分の部屋が目に飛び込んできた。どうやら14歳のデビュータントの日に戻った様だ。 もう二度とあんな孤独で寂しい思いをしない様に、絶対にヒューゴ様には近づかない。そして、素敵な殿方を見つけて、今度こそ幸せになる! そう決意したマリアだったが、なぜかヒューゴに気に入られてしまい… 恋愛に不器用な男女のすれ違い?ラブストーリーです。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...