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第15話 クレア22歳
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大学で親しげなマリオンとスコットの姿を見て、カーティスは黙って帰ろうとした。
私に案内してくれたお礼だけを言って、立ち去ろうとした彼に
『どうしてこの男は私に、簡単にさよなら言えるの?』と、不思議だった。
大抵の男ならこのままお別れしたくないと、私を食事やお酒に誘うのに。
上手い具合にマリオンとスコットの仲を誤解したなら、余計に隣に居る私に目を向けてもいいはずなのに。
「カーティスさんはコーカスに住んでらっしゃるんですか?
もしご都合がいいなら、こちらの美味しいお店にでも行きませんか?」
何で女の私が誘わないといけないのよ。
イラついたけれど、彼が誘わないから仕方ない。
「いや、今日はもう帰らないといけないので、失礼します」
『にべもない』とはこうだと見本のように彼が答える。
さっきまで愛想よく微笑んでいたのに、全く笑いもしない。
冷たくもないけれど、興味なんて全然無い瞳が私を見る。
いつもならこんな扱いされたなら腹が立って、
『あぁそうですか』と帰るのに、何故か私は彼にしつこくしてしまった。
「マリオンの様子、手紙でお知らせしましょうか?」
今日が駄目なら住所だけでも手に入れたい。
今、彼の頭の中はマリオンと、さっき見た情景でいっぱいなのかもしれないけど。
時間がたって冷静になったら、付け入る隙も出てくる。
カーティスが身に付けている品だって、結構お金がかかってる。
多少、いつもよりこちらが譲歩しないといけなくても。
手に入れる価値が彼にはあると思った。
その日、カーティスが教えてくれたのはガーランド港がある港町のシーフードレストランの住所だった。
自宅ではなく、店舗の住所なんてあんまりだと思ったけど。
それから1ヶ月に1回のペースで、彼に手紙を出した。
すると1ヶ月遅れで、彼から返信が来る。
それらは決まって薄いブルーの封筒で差出人はイニシャルだけ。
たまに先に部屋に帰っていたマリオンがポストからそれを取り出して、テーブルの上に置いている事もあったけど、カーティスからの手紙だと全く気付いてはいなかった。
元々、マリオンは他人に興味がないから当たり前なんだけど。
出し抜いたようで気分がいい。
遅れながらも、素っ気ない文面でも、カーティスから返信がある、という事は可能性は0じゃない。
大学を卒業したら、ガーランド市で就職しようと決めた。
もちろんマリオンには何処で働くかは詳しく話さない。
あの女は自分から私には連絡しないだろうから、いくらだって誤魔化せる。
卒業して次に会う時は。
私がカーティスを、手に入れた時。
そして現在、私はガーランド市役所の衛生局で働いている。
ウチは古くから王都で、薬局を数店舗営んでいた。
それで、私は薬学部に通っていたのだけど。
まだ合格困難な薬剤師免許は取っていなかった。
私の上には兄が2人居て、どちらも出来る方だから父から見ても、私では力不足だとわかっていたようだ。
店の経営を任せられる力量の無い私に無駄な期待などしていない父は、私が王都から離れてガーランドで就職したいと言ったら、伝手を使ってくれた。
地方都市のガーランドは、港がある事から物流と人流の入出が盛んで、衛生局は常に人手が足りないようで、大学の薬学部を卒業した私はコネだけど大歓迎された。
忙しい部署だったけれど、時間通りに退勤出来て、暦通りに休日があり、その上規定の有給も消化するように言われるのが嬉しい。
平日の夜も週末も、飲食店を経営するカーティスとは会えないけれど、お店に行けば顔を見ることが出来た。
その時間が確実に取れるのが嬉しかった。
レストランの定休日には、彼を誘った。
最初は前日に食事に行って、今思い付いたみたいに誘った。
『急に言われても予定がある』と断られるのが3回続いて。
それならばと、週末に翌週定休日に誘うことにした。
『今月の休みの予定はもう決まっている』と言われて……
惨めな気分になったが、来月なら?と食い下がった。
ここまで来たら意地もあった。
私が自分を追いかけて、ガーランドまで来たのはわかっているくせに。
1度くらいデートしてくれてもいいじゃないか。
『あんたに会う為に何回この店に来たと思ってるんだ』
今回も、空振りだったら。
……後3回、いや後10回誘っても断られたら。
もうあきらめて、仕事も辞めて王都に帰ろう。
こんな血も涙もない冷血な男はこちらから……
「いいよ、来月は第2週目なら空いてる」
港町のシーフードレストランは、ディナーの時間でも賑やかだ。
色んな人が行き交い、色んな地方の言葉を投げ掛けあう喧騒の中で。
カーティスのその言葉はクリアに聞こえた。
私に案内してくれたお礼だけを言って、立ち去ろうとした彼に
『どうしてこの男は私に、簡単にさよなら言えるの?』と、不思議だった。
大抵の男ならこのままお別れしたくないと、私を食事やお酒に誘うのに。
上手い具合にマリオンとスコットの仲を誤解したなら、余計に隣に居る私に目を向けてもいいはずなのに。
「カーティスさんはコーカスに住んでらっしゃるんですか?
もしご都合がいいなら、こちらの美味しいお店にでも行きませんか?」
何で女の私が誘わないといけないのよ。
イラついたけれど、彼が誘わないから仕方ない。
「いや、今日はもう帰らないといけないので、失礼します」
『にべもない』とはこうだと見本のように彼が答える。
さっきまで愛想よく微笑んでいたのに、全く笑いもしない。
冷たくもないけれど、興味なんて全然無い瞳が私を見る。
いつもならこんな扱いされたなら腹が立って、
『あぁそうですか』と帰るのに、何故か私は彼にしつこくしてしまった。
「マリオンの様子、手紙でお知らせしましょうか?」
今日が駄目なら住所だけでも手に入れたい。
今、彼の頭の中はマリオンと、さっき見た情景でいっぱいなのかもしれないけど。
時間がたって冷静になったら、付け入る隙も出てくる。
カーティスが身に付けている品だって、結構お金がかかってる。
多少、いつもよりこちらが譲歩しないといけなくても。
手に入れる価値が彼にはあると思った。
その日、カーティスが教えてくれたのはガーランド港がある港町のシーフードレストランの住所だった。
自宅ではなく、店舗の住所なんてあんまりだと思ったけど。
それから1ヶ月に1回のペースで、彼に手紙を出した。
すると1ヶ月遅れで、彼から返信が来る。
それらは決まって薄いブルーの封筒で差出人はイニシャルだけ。
たまに先に部屋に帰っていたマリオンがポストからそれを取り出して、テーブルの上に置いている事もあったけど、カーティスからの手紙だと全く気付いてはいなかった。
元々、マリオンは他人に興味がないから当たり前なんだけど。
出し抜いたようで気分がいい。
遅れながらも、素っ気ない文面でも、カーティスから返信がある、という事は可能性は0じゃない。
大学を卒業したら、ガーランド市で就職しようと決めた。
もちろんマリオンには何処で働くかは詳しく話さない。
あの女は自分から私には連絡しないだろうから、いくらだって誤魔化せる。
卒業して次に会う時は。
私がカーティスを、手に入れた時。
そして現在、私はガーランド市役所の衛生局で働いている。
ウチは古くから王都で、薬局を数店舗営んでいた。
それで、私は薬学部に通っていたのだけど。
まだ合格困難な薬剤師免許は取っていなかった。
私の上には兄が2人居て、どちらも出来る方だから父から見ても、私では力不足だとわかっていたようだ。
店の経営を任せられる力量の無い私に無駄な期待などしていない父は、私が王都から離れてガーランドで就職したいと言ったら、伝手を使ってくれた。
地方都市のガーランドは、港がある事から物流と人流の入出が盛んで、衛生局は常に人手が足りないようで、大学の薬学部を卒業した私はコネだけど大歓迎された。
忙しい部署だったけれど、時間通りに退勤出来て、暦通りに休日があり、その上規定の有給も消化するように言われるのが嬉しい。
平日の夜も週末も、飲食店を経営するカーティスとは会えないけれど、お店に行けば顔を見ることが出来た。
その時間が確実に取れるのが嬉しかった。
レストランの定休日には、彼を誘った。
最初は前日に食事に行って、今思い付いたみたいに誘った。
『急に言われても予定がある』と断られるのが3回続いて。
それならばと、週末に翌週定休日に誘うことにした。
『今月の休みの予定はもう決まっている』と言われて……
惨めな気分になったが、来月なら?と食い下がった。
ここまで来たら意地もあった。
私が自分を追いかけて、ガーランドまで来たのはわかっているくせに。
1度くらいデートしてくれてもいいじゃないか。
『あんたに会う為に何回この店に来たと思ってるんだ』
今回も、空振りだったら。
……後3回、いや後10回誘っても断られたら。
もうあきらめて、仕事も辞めて王都に帰ろう。
こんな血も涙もない冷血な男はこちらから……
「いいよ、来月は第2週目なら空いてる」
港町のシーフードレストランは、ディナーの時間でも賑やかだ。
色んな人が行き交い、色んな地方の言葉を投げ掛けあう喧騒の中で。
カーティスのその言葉はクリアに聞こえた。
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