【完結】あの頃からあなただけが好きでした

Mimi

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第8話 マリオン18歳①

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最終学年が始まった。

今年もカーティスとは、クラスが離れてしまった。
彼と3年間同じクラスの女生徒も居て(私はそういう事をチェックするタイプだ)
私と彼には縁がないのかも、と思い始めていた。

何より、私達を繋いでいたキーナンさんとジュリアの手紙のやり取りは減ってきていた。
これまでの流れは、キーナンさんからの手紙にジュリアが返信していたのだけれど、それが減りつつあって。
側で見ている私も体調が悪くなりそうなくらい、ジュリアは落ち込んでいた。

徐々に姉からの手紙にキーナンさんが返信する様になってきていて、その返信さえジュリアが2通出して1通帰ってくる感じ。


「今、本当に忙しくしてるだけだから」

何の心配も要らない、とカーティスは笑う。
キーナンさんは夏前から商会の経理に関わるようになって、以前より仕事量が増えたらしい。

「お姉さんにはまだ内緒にしてて欲しいんだけど、キーナンは先月に王都へ行った時に、指輪を買ってる」

「指輪を!
 じゃあ、じゃあ……」

「俺達が姉弟になる日も近かったりして」


時間が取れなくて手紙の量は減ったかもしれないけれど、ジュリアとのデートは
『月1回は死守する』と、カーティスに話したそうだ。

ジュリアの、その月に1度のデートにかける意気込みはいつも凄くて、それだけ好きなら早くキーナンさんの胸に飛び込めばいい、と思うのだが。
貧乏子爵家でも、婿入りの縁談を持ってきてくれる人は居て。
今に父に無理矢理にでも縁付けられてしまいそうな気がする。
それなのに、幼い頃から家を継ぐのだと言い聞かされていたジュリアは中々行動出来ないようだった。

だがカーティスの話が本当なら、とうとうキーナンさんはプロポーズをするつもりだ。


「自分の好きなものを諦めなくていい貴女が羨ましい」

何度かジュリアに言われたけれど。
諦めたくないなら、そうすればいいのに。
求婚を待ってるんじゃなくて、自分からキーナンさんのところに行けばいい。
私だって、大学受験を認めて貰えるまで、どれだけ両親を説得したか……
冷たいようだが、ジュリアにそう言いたかった。


なんだかんだ言って、次女の私は気楽だった。
ジュリアは後に残されて自分の代わりになってしまう私に、気を遣ってくれていたのかもしれないのに。


 ◇◇◇


そんな会話を彼と交わして、しばらく経った頃から、カーティスが学園に来なくなった。
姉から託されて、彼に渡せない手紙は教科書に挟んだまま。
当然のようにキーナンさんからジュリア宛の手紙も途絶えた。
学園から帰宅する私を、待ち構えていたようにジュリアが私室に連れ込むのだが、私が渡せる手紙は今日も無い。


「どういう事? どうして休んでいるの?
 弟さん、病気なの?」

それは私の方が聞きたい。
キーナンさんとの次の約束はいつなの?
カーティスは体調が悪くて休んでるの?
ジュリアに早く確認して貰いたい。
もうすぐ学期末試験があって、3年生は大きなテストは今回のみなので、これを受けないとカーティスは卒業出来ない。

ブルーベル商会へ彼を訪ねに行く勇気は無かったし、クラスメートでさえない私が、先生に彼の休んでいる理由を尋ねることは躊躇われた。


「明後日……明後日キーナンに会うわ。
 いつも前には確認の手紙をくれていたのに……」

ジュリアは落ち着きの無い様子で繰り返した。


「明後日、あさ……」

そして、ジュリアはポロポロと涙を溢した。
キーナンさんは本当にジュリアの為に指輪を買ったんだよね?
子供の様に泣く姉に掛けられる言葉が見つからなくて。
私は彼女を抱き締めて、何度も背中を撫でた。

明後日、キーナンさんからのプロポーズがあれば。
何もかも、笑い話になる。
泣いちゃって子供みたいだったね、と姉をからかえる……



2日後、ジュリアの元にキーナンさんが現れる事はなかった。
姉は約束したカフェで5時間、閉店時間まで恋人を待った。


夕食ギリギリに帰宅した姉に、母が注意した。
『これからは気を付けますから』と、姉は小さな声で言って頭痛がするからと、食事もせず私室へ引き取った。

姉の居ない夕食の席で両親が姉の結婚について会話していた。
どうして本人の居ない所で話をするのか、と言ってやりたかったけれど。
とばっちりで、私の受験について文句を蒸し返されそうで、
私は静かにしていた。
私は狡い……自覚していた。


もし、カーティスが明日登校してきたら。
お兄さんの不実をなじってやろうと思っていた。
ジュリアへの気持ちが冷めたのなら、はっきり伝えるのが筋でしょうと。

カーティスとはそんな理由でしか、もう会えないのかもしれない……

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