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魔王城編
1.魔王城でお目覚め、そして凸る
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真っ青な青白い月が、夜空に浮かんでいる。
一体ここは⋯⋯
いや一旦、落ち着いて考えよう。
さっき僕は、歩道橋から落とされ、トラックに撥ねられて死んだ。確かにあのときの衝撃と痛みは鮮明に覚えている。最後に僕の名を呼んだ幼馴染みの顔も、僕を突き落とした大男の姿も。
だとしたら、僕は今なぜこうして生きている?
――もしかして、例の転生システムの恩恵か!?
僕にも一からやり直すチャンスが⋯⋯
「いや、違うな」
冷静に自分の身体を見てみろ。間違いなく十七歳の僕のままじゃないか。
服装は若干、いや全然違うけども。
とにかく、これは転生なんかじゃない。
僕はおもむろに立ち上がり、辺りを見渡してみた。
夜のはずなのに、月明かりのせいか僕の知る夜より幾分明るい。足元には歪な形の草が生えていて、その近くには背の高い木が一本植えられている。
そして驚いたのが、すぐ近くに異様に高い塀が立っているということと、それがかなり広い範囲を囲っているということ。
少し歩き回っただけでも、かなりの部分で現実とはかけ離れていた。
でもこれだけの手がかりでは、さすがに今の状況は理解できない。とりあえず誰かに訊ねる必要がありそうだ。
塀に沿って歩いていると、一箇所だけ大きく開けている場所を見つけた。そこがいわゆる正門らしかった。
木の陰に隠れて、その付近の様子を窺ってみる。
耳をそばだてて聴こえたのは、こんな会話だった。
「門兵は交代だ。お前らも休んでいいぞ」
「ああ、助かる。敵襲はどうだ?」
「偵察班からの報告だと、それはなさそうだ」
「そうか。今のあの方は危篤状態らしいな。敵襲なんてたまったもんじゃない」
⋯⋯色々腑に落ちないが、なんとなくわかった。
ここは城で、すぐそこにいるのは門を守る門兵たち。
そして言葉遣いからも、礼儀正しい印象を受ける。まさか問答無用で殺しにかかってくることはあるまい。
とりあえず、僕は彼らにこの世界のことについて訊ねることにした。
「あの、すみません⋯⋯」
僕は二人の鎧を着た兵に声をかけてみる。
そして二人は同時に振り返った。
「な、なんだお前は!?」
「いや、あのここってどこなんですかね?」
「待て、まさかお前人間か!?」
「へ?」
「侵入者だ!捕らえろー!!」
はぁあああ!?
僕はただ訊ね事をしたかっただけなのに、なぜ追いかけられる羽目になる?
いやとりあえず逃げよう!
「待てー!!」
角の生えた頭の鎧の兵士は、執拗に僕を追いかけてくる。でも鎧を着てるだけあってのろい。
これならなんとか……
「奴だ、放て!!」
今度は頭上から怒声が聞こえた。見上げた先にいたのは、塀の上から何かを構えた兵士。
「待て、これはやばい……」
ギリギリのところで放たれた矢を躱し、地面に転がった。
上には弓兵、後ろには鎧の兵士。詰んだ。
「何か、何か身を守れるもの――」
全速力で走りながら、身につけた装備品を探る。残念なことに、それらしいものはなさそうだ。
「ウソだろ!?いやいやこれどうやって⋯⋯」
焦りまくっていると、視界の右横に何やら半透明のパネルらしきものが現れた。
「⋯⋯ステータス?」
いやゲームかよ。よく見たら僕レベル1だし。
それでも何か対抗手段は――
スキル、〈隠密〉。
「終わりだぁあああ!!」
背後に迫っていた槍兵が突進してくる。
とりあえず、これに頼るしか――
「――〈隠密〉!」
そう唱えて攻撃を躱す。そしてその兵は逃した僕を探すようにきょろきょろと首を動かしていた。
「見失った!?」
「馬鹿な、まだすぐ近くにいるはずだ!!」
「探せ!!」
見えていない?いや、僕が隠れているのか⋯⋯?
「とりあえず、今のうちに⋯⋯」
兵士たちが四散して捜索を始めたところで、僕はそそくさと移動した。
「ほんとに、見えなくなってるんだな⋯⋯」
ステータス画面を確認する。
スキル〈隠密〉は発動状態。そして残り時間は三時間。
「三時間⋯⋯そのうちにここを出るか?」
でも、ここが本当に魔王城なのだとしたら……
「ちょっと面白いな」
独り言を言ってる場合じゃない。声だけ聞こえてる可能性だってある。
兵たちはまだ捜索を続けているが、一向に僕を見つけそうな気配はない。
僕は大きな城の周りを半周して、また正門らしき場所までたどり着いた。当然のように城の玄関にも角の生えた槍兵がいる。
普通に玄関を開けて入ったとしても、それはそれで不自然な感じがする。そもそもそれでバレる。
「誰かが入ってくるのを待つしか⋯⋯」
とりあえず誰かが玄関から入ってくるのを階段の影で待つことにした。
そしてしばらくして正門からやって来たのは、大きくねじれた角を二本頭に携えた顔立ちのいい男だった。
……その姿から察するに、種族は悪魔か鬼、ポジション的に中ボスくらい?
「ジェイル様、おかえりなさいませ」
「ご苦労、監獄は異常なしか?」
「左様でございます」
「そうか。なによりだ」
赤と黒のマントを床に引きずらせながら、彼は堂々と城に入っていく。
いや気後れしている場合じゃない。彼のあとをついて城に入らないと。
彼のあとについて入った先に広がったのは、世界史の教科書でしか見たことのないような高貴な空間。
――そして、おびただしい数の化け物たち。
一体ここは⋯⋯
いや一旦、落ち着いて考えよう。
さっき僕は、歩道橋から落とされ、トラックに撥ねられて死んだ。確かにあのときの衝撃と痛みは鮮明に覚えている。最後に僕の名を呼んだ幼馴染みの顔も、僕を突き落とした大男の姿も。
だとしたら、僕は今なぜこうして生きている?
――もしかして、例の転生システムの恩恵か!?
僕にも一からやり直すチャンスが⋯⋯
「いや、違うな」
冷静に自分の身体を見てみろ。間違いなく十七歳の僕のままじゃないか。
服装は若干、いや全然違うけども。
とにかく、これは転生なんかじゃない。
僕はおもむろに立ち上がり、辺りを見渡してみた。
夜のはずなのに、月明かりのせいか僕の知る夜より幾分明るい。足元には歪な形の草が生えていて、その近くには背の高い木が一本植えられている。
そして驚いたのが、すぐ近くに異様に高い塀が立っているということと、それがかなり広い範囲を囲っているということ。
少し歩き回っただけでも、かなりの部分で現実とはかけ離れていた。
でもこれだけの手がかりでは、さすがに今の状況は理解できない。とりあえず誰かに訊ねる必要がありそうだ。
塀に沿って歩いていると、一箇所だけ大きく開けている場所を見つけた。そこがいわゆる正門らしかった。
木の陰に隠れて、その付近の様子を窺ってみる。
耳をそばだてて聴こえたのは、こんな会話だった。
「門兵は交代だ。お前らも休んでいいぞ」
「ああ、助かる。敵襲はどうだ?」
「偵察班からの報告だと、それはなさそうだ」
「そうか。今のあの方は危篤状態らしいな。敵襲なんてたまったもんじゃない」
⋯⋯色々腑に落ちないが、なんとなくわかった。
ここは城で、すぐそこにいるのは門を守る門兵たち。
そして言葉遣いからも、礼儀正しい印象を受ける。まさか問答無用で殺しにかかってくることはあるまい。
とりあえず、僕は彼らにこの世界のことについて訊ねることにした。
「あの、すみません⋯⋯」
僕は二人の鎧を着た兵に声をかけてみる。
そして二人は同時に振り返った。
「な、なんだお前は!?」
「いや、あのここってどこなんですかね?」
「待て、まさかお前人間か!?」
「へ?」
「侵入者だ!捕らえろー!!」
はぁあああ!?
僕はただ訊ね事をしたかっただけなのに、なぜ追いかけられる羽目になる?
いやとりあえず逃げよう!
「待てー!!」
角の生えた頭の鎧の兵士は、執拗に僕を追いかけてくる。でも鎧を着てるだけあってのろい。
これならなんとか……
「奴だ、放て!!」
今度は頭上から怒声が聞こえた。見上げた先にいたのは、塀の上から何かを構えた兵士。
「待て、これはやばい……」
ギリギリのところで放たれた矢を躱し、地面に転がった。
上には弓兵、後ろには鎧の兵士。詰んだ。
「何か、何か身を守れるもの――」
全速力で走りながら、身につけた装備品を探る。残念なことに、それらしいものはなさそうだ。
「ウソだろ!?いやいやこれどうやって⋯⋯」
焦りまくっていると、視界の右横に何やら半透明のパネルらしきものが現れた。
「⋯⋯ステータス?」
いやゲームかよ。よく見たら僕レベル1だし。
それでも何か対抗手段は――
スキル、〈隠密〉。
「終わりだぁあああ!!」
背後に迫っていた槍兵が突進してくる。
とりあえず、これに頼るしか――
「――〈隠密〉!」
そう唱えて攻撃を躱す。そしてその兵は逃した僕を探すようにきょろきょろと首を動かしていた。
「見失った!?」
「馬鹿な、まだすぐ近くにいるはずだ!!」
「探せ!!」
見えていない?いや、僕が隠れているのか⋯⋯?
「とりあえず、今のうちに⋯⋯」
兵士たちが四散して捜索を始めたところで、僕はそそくさと移動した。
「ほんとに、見えなくなってるんだな⋯⋯」
ステータス画面を確認する。
スキル〈隠密〉は発動状態。そして残り時間は三時間。
「三時間⋯⋯そのうちにここを出るか?」
でも、ここが本当に魔王城なのだとしたら……
「ちょっと面白いな」
独り言を言ってる場合じゃない。声だけ聞こえてる可能性だってある。
兵たちはまだ捜索を続けているが、一向に僕を見つけそうな気配はない。
僕は大きな城の周りを半周して、また正門らしき場所までたどり着いた。当然のように城の玄関にも角の生えた槍兵がいる。
普通に玄関を開けて入ったとしても、それはそれで不自然な感じがする。そもそもそれでバレる。
「誰かが入ってくるのを待つしか⋯⋯」
とりあえず誰かが玄関から入ってくるのを階段の影で待つことにした。
そしてしばらくして正門からやって来たのは、大きくねじれた角を二本頭に携えた顔立ちのいい男だった。
……その姿から察するに、種族は悪魔か鬼、ポジション的に中ボスくらい?
「ジェイル様、おかえりなさいませ」
「ご苦労、監獄は異常なしか?」
「左様でございます」
「そうか。なによりだ」
赤と黒のマントを床に引きずらせながら、彼は堂々と城に入っていく。
いや気後れしている場合じゃない。彼のあとをついて城に入らないと。
彼のあとについて入った先に広がったのは、世界史の教科書でしか見たことのないような高貴な空間。
――そして、おびただしい数の化け物たち。
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