25 / 25
Chapter7
7-3
しおりを挟むその日の夜。
和葉と哲平は仕事終わりにいつものバーでソファーに身を沈めていた。
すっかり気に入ったベリーミックスは今日も甘酸っぱくてとても美味しい。
一口飲んでホッと一息。
和葉は少し緊張していた。
「中西さん。手紙渡してくれて、ありがとうございました」
「どういたしまして」
「わがまま聞いてもらって、すみませんでした」
「いいよあれくらい。むしろ役に立てたなら本望です」
哲平から、康平がどんな反応だったかは聞いていない。
知る必要は無いと思った。だってこれは所詮、ただの自己満足に過ぎないから。
「中西さんは、本当に優しいですね」
「そう?」
「はい。とっても」
照れ臭そうにしている哲平を見て、和葉はベリーミックスをもう一度一口飲んだ。
「中西さん」
「ん?」
哲平に向き直って呼びかけた和葉に、哲平はグラスを持ったまま軽く和葉の方を向く。
「好きです。中西さんのこと、好きになりました」
にっこり笑った和葉に、哲平は時が止まったかのように固まって動かなくなった。
「あ、あれ……?中西さん?聞いてます?」
哲平の反応に段々恥ずかしくなってきた和葉は、若干頰を赤くしながらも笑って哲平に呼びかける。
哲平は"好き"の二文字を飲み込むのにたっぷり数秒を要して。そして理解した瞬間、口をパクパクさせながらカァーっと耳まで真っ赤になった。
「え、は?え、ちょ、え!?ちょ、待って待って待って待って」
自分でもパニックになって何を言っているのかわかっていなかった哲平に、和葉は驚いて笑う。
「えぇ?ははっ、慌てすぎじゃないですか?」
「いやいきなりで心の準備ってものが……」
両手で顔を抑えて必死で赤い顔を見られないようにしているものの、真っ赤な耳が見えていて。
そんな姿に、和葉は愛しさがこみ上げるのだった。
「じゃあもう一回言うので心の準備してください」
「え、はい」
パタパタ手で顔を仰いで深呼吸をして、未だ赤い顔で「お願いします」と言う哲平に和葉はふわりと笑う。
「中西さん。好きです」
そんな和葉を見て、哲平は優しく抱きしめた。
その暖かさを感じて、和葉は思う。
──あぁ、生きていて、本当に良かった。
「私、今日ほど幸せだと思ったことないです」
「大丈夫。これからはずっと幸せだから」
「ふふ、すごい自信ですね」
「一緒にいれるだけで俺は幸せなんだよ」
「……私もです」
トクトクと優しい鼓動を刻む心臓の音が、和葉の脳裏に若葉の笑顔を思い浮かばせて。
浮かんだその幼い笑顔を、決して忘れないように。
……若葉。ありがとう。
カンパニュラに想いを乗せて。End.
2
お気に入りに追加
11
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……

シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる