24 / 25
Chapter7
7-2
しおりを挟む
数日後の金曜日。哲平は、会社の会議室で康平と最後の打ち合わせを終えた。
「お帰りになる前に、少々お時間いただいてもよろしいでしょうか」
「え?あ、はい。何でしょう」
呼び止めた哲平に、康平は首を傾げる。
「……こちらを」
ス、と康平の前に差し出した一通の真っ白な封筒。
「これは……?」
「後藤からです」
「……!」
哲平の言葉に目を見開いた康平は、受け取れないと渋ったものの。
「どうか、読んでやってください。後藤なりの、ケジメだそうです」
「……」
"一つ、お願いしたいことがあるのですが"
和葉が哲平にしたお願い事は。
"彼……康平に、渡してほしいものがあるんです"
"渡してほしいもの?"
"はい。私なりの、ケジメです"
康平が恐る恐る封筒を開けると、そこには一枚の便箋が。
折り畳んである便箋を開いて読み始めた康平は徐々に言葉を失うように唇を噛み締め、目に涙を溜めながら読み終わった便箋を置いて自分の両手を強く握った。
「……彼女から、全てを聞きました」
「……そうでしたか」
「……やっぱり、貴方は最低です」
「ハハッ。そうですね。……俺は最低です」
最低な人間なんですよ。
そう呟いた康平は、置いた便箋の文字をもう一度眺める。
今更このような手紙を、それも人伝いにお渡しする事をお許しください。
若葉は、貴方のことが大好きでした。
貴方のことを話す時、いつも本当に楽しそうで嬉しそうで。
聞いているこちらが恥ずかしくなるくらい、愛しさが溢れていた。
貴方は若葉が私ばかりに構う、と私に嫉妬していたようでしたが、私も貴方に嫉妬していました。
だって、若葉はいつも貴方の話ばかりだったから。
若葉の笑顔を一番見ていたのは、きっと貴方です。
二人の幸せな未来を奪ってしまって、本当にごめんなさい。
私を許さないでなんて、縛りつけるようなことを言ってしまってごめんなさい。
私は若葉に貰った命を無駄には出来ない。
だから私は若葉への償いを持って、若葉と共に生きていきます。
これを読んだら、封筒ごと捨ててくれて構いません。
だけどどうか。これからも毎年、花束を手向けに行くことだけは許してほしい。
若葉を愛してくれて、本当にありがとう。
後藤和葉
「俺は、自分のことしか考えられない最低な人間です。けどアイツはっ……和葉はそうじゃない。和葉は、自分のことはとにかく後回しで。人のことを思いやれる、とても優しい奴なんですよね」
「……はい」
哲平の頷きにフッと笑った康平は、便箋を封筒に仕舞おうとしてまだ中に何か入っていることに気が付いた。
「?……っこれは」
それはポストカードを少し小さくしたような物で。
カンパニュラ
花言葉
【感謝、誠実、節操、後悔】
別名
【守れなかった命の花】
「感謝、誠実、節操、……後悔。
守れなかった、命の、花……?」
書かれた文字を呆然と見つめ、ゆっくりと裏返す。
そこには真っ白な鐘のような形をした可愛らしい花で出来た花束の写真。
その花束はまさに、和葉が若葉に手向けた物で。康平が若葉のお墓で見たものだった。
「……後藤が言ってました。今度こそ、この命を守るんだって」
"もう後悔したくないんです。今度こそは、しっかりこの命を守りたい。若葉の姿形が無くても、若葉はここに生きてますから。もうあんな想いはしたくないから、今度こそはって。それを若葉に毎年誓ってるんです"
"まぁ、ただの自己満足なんですけどね"
「……中西さん」
「はい」
「俺も、前に進まないと。ですね」
一筋涙を流した康平は、そっと写真と便箋を仕舞って席を立つ。
「……若葉も。生きていたら、アイツみたいに綺麗になってたんですかね」
遠い目をして微笑みながらポツリと呟いた康平は、哲平の言葉を聞くこともなく会議室を出た。
そのまま振り返ることなくエレベーターに乗っていく康平。
和葉もまた、そちらを見ることは無かった。
「お帰りになる前に、少々お時間いただいてもよろしいでしょうか」
「え?あ、はい。何でしょう」
呼び止めた哲平に、康平は首を傾げる。
「……こちらを」
ス、と康平の前に差し出した一通の真っ白な封筒。
「これは……?」
「後藤からです」
「……!」
哲平の言葉に目を見開いた康平は、受け取れないと渋ったものの。
「どうか、読んでやってください。後藤なりの、ケジメだそうです」
「……」
"一つ、お願いしたいことがあるのですが"
和葉が哲平にしたお願い事は。
"彼……康平に、渡してほしいものがあるんです"
"渡してほしいもの?"
"はい。私なりの、ケジメです"
康平が恐る恐る封筒を開けると、そこには一枚の便箋が。
折り畳んである便箋を開いて読み始めた康平は徐々に言葉を失うように唇を噛み締め、目に涙を溜めながら読み終わった便箋を置いて自分の両手を強く握った。
「……彼女から、全てを聞きました」
「……そうでしたか」
「……やっぱり、貴方は最低です」
「ハハッ。そうですね。……俺は最低です」
最低な人間なんですよ。
そう呟いた康平は、置いた便箋の文字をもう一度眺める。
今更このような手紙を、それも人伝いにお渡しする事をお許しください。
若葉は、貴方のことが大好きでした。
貴方のことを話す時、いつも本当に楽しそうで嬉しそうで。
聞いているこちらが恥ずかしくなるくらい、愛しさが溢れていた。
貴方は若葉が私ばかりに構う、と私に嫉妬していたようでしたが、私も貴方に嫉妬していました。
だって、若葉はいつも貴方の話ばかりだったから。
若葉の笑顔を一番見ていたのは、きっと貴方です。
二人の幸せな未来を奪ってしまって、本当にごめんなさい。
私を許さないでなんて、縛りつけるようなことを言ってしまってごめんなさい。
私は若葉に貰った命を無駄には出来ない。
だから私は若葉への償いを持って、若葉と共に生きていきます。
これを読んだら、封筒ごと捨ててくれて構いません。
だけどどうか。これからも毎年、花束を手向けに行くことだけは許してほしい。
若葉を愛してくれて、本当にありがとう。
後藤和葉
「俺は、自分のことしか考えられない最低な人間です。けどアイツはっ……和葉はそうじゃない。和葉は、自分のことはとにかく後回しで。人のことを思いやれる、とても優しい奴なんですよね」
「……はい」
哲平の頷きにフッと笑った康平は、便箋を封筒に仕舞おうとしてまだ中に何か入っていることに気が付いた。
「?……っこれは」
それはポストカードを少し小さくしたような物で。
カンパニュラ
花言葉
【感謝、誠実、節操、後悔】
別名
【守れなかった命の花】
「感謝、誠実、節操、……後悔。
守れなかった、命の、花……?」
書かれた文字を呆然と見つめ、ゆっくりと裏返す。
そこには真っ白な鐘のような形をした可愛らしい花で出来た花束の写真。
その花束はまさに、和葉が若葉に手向けた物で。康平が若葉のお墓で見たものだった。
「……後藤が言ってました。今度こそ、この命を守るんだって」
"もう後悔したくないんです。今度こそは、しっかりこの命を守りたい。若葉の姿形が無くても、若葉はここに生きてますから。もうあんな想いはしたくないから、今度こそはって。それを若葉に毎年誓ってるんです"
"まぁ、ただの自己満足なんですけどね"
「……中西さん」
「はい」
「俺も、前に進まないと。ですね」
一筋涙を流した康平は、そっと写真と便箋を仕舞って席を立つ。
「……若葉も。生きていたら、アイツみたいに綺麗になってたんですかね」
遠い目をして微笑みながらポツリと呟いた康平は、哲平の言葉を聞くこともなく会議室を出た。
そのまま振り返ることなくエレベーターに乗っていく康平。
和葉もまた、そちらを見ることは無かった。
1
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺にだけ見えるあの子と紡ぐ日々
蒼井美紗
ライト文芸
優也は毎日充実した大学生活を送っている。講義を受けてサークルに参加してバイトをして、友達もたくさんいるし隣には可愛い女の子もいる。
しかしそんな優也の生活には、一つだけ普通の人と違う点があった。それは……隣にいる女の子の姿を見ることができるのは、優也だけだという点だ。でも優也は気にしていない。いや、本音を言えば友達にも紹介したいし外でも楽しく会話をしたい。ただそれができなくても、一緒にいる時間は幸せで大切なのだ。
これはちょっと普通じゃない男女の甘く切ない物語です。
※この物語はカクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
初恋の呪縛
泉南佳那
恋愛
久保朱利(くぼ あかり)27歳 アパレルメーカーのプランナー
×
都築 匡(つづき きょう)27歳 デザイナー
ふたりは同じ専門学校の出身。
現在も同じアパレルメーカーで働いている。
朱利と都築は男女を超えた親友同士。
回りだけでなく、本人たちもそう思っていた。
いや、思いこもうとしていた。
互いに本心を隠して。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる