カンパニュラに想いを乗せて。

青花美来

文字の大きさ
上 下
20 / 25
Chapter6

6-1

しおりを挟む
哲平との約束の土曜日は、あっという間にやってきた。

哲平は毎日気が気じゃなかったし、和葉も心なしかそわそわしているような雰囲気だった。

由美がそんな二人を間近で見て怪しいと思っていたくらいには。

土曜日は仕事が休みのため、普段スーツの哲平とビジネスカジュアルの和葉はお互いのプライベートな私服を見るのすら初めてだった。

和葉が待ち合わせに指定したのは、街中にあるカフェだった。

時刻は午前十一時。和葉が店内に入って周りを見渡すと見慣れた顔を見つける。

案内してくれようとしたスタッフの方に断りを入れてその席へ向かった。


「中西さん。お待たせしてしまってすみません」

「ん?ああ、全然だいじょ、うぶ……」

「?どうしました?」

「いや、……私服だとなんかイメージ違って新鮮だなー……と」

「?……そうですかね?」


シンプルな白シャツに細身のジャケットに黒のパンツという至ってシンプルな服装の哲平。

対して和葉は淡い色合いのシフォンワンピースの上に薄手のカーディガンを羽織り、足元はぺたんこ靴。

和葉は仕事に於いてはパンツスタイルが多いため、哲平からすればスカート、況してやワンピースは中々見慣れず新鮮だった。

席に着き、レモンティーを注文してから哲平と向き直る。


「私からお誘いしておいてお待たせしてしまいすみませんでした」

「いや、俺が早く来すぎただけだから」


片手を振って気にしてないと言った哲平は、先に注文していたアイスコーヒーを飲みながら聞く。


「今日はどこに行くんだ?綺麗目な格好って言われたからこんなんで来たけど……」

「……静かにお話ができるところへ。服はこんなんで大丈夫です」

「……果たしてそれは何処に」

「軽く何か食べていきましょう」

「あ、はい」


言われるがままにサンドイッチのセットを食べた2人はカフェを出る。会計は和葉が自分の分は自分で払うと言ってきかなかったため渋々別会計に。

街中を高身長の男女が歩いていると、それだけで目を引くものだ。

この2人も同様、かなりの高身長のため大分周りの視線を集めていた。が、本人達は全く興味がなさそうだった。

むしろ和葉に至っては気付いてすらいなかった。

数分歩いて着いた先は、有名ホテルのラウンジだった。


「何でここにっ!?」


小声で聞いた哲平に、和葉は


「ここが1番落ち着いて静かにお話できると思ったので」


と淡々と答えた。

確かに土曜日の午前中ということもあり、人は疎らだった。ここは有名なホテルでラウンジは席一つ一つが少しゆとりを持って配置されている。そのため周りに誰かいたとしても話し声が聞こえにくく、あまり気にならないのだ。


二人はラウンジの一番端、周りからは見えにくい場所を選んで腰掛けた。ソファーのスプリングがいい具合に体を包んでくれて、なんとも座り心地が良い。


それぞれアイスコーヒーとアイスティーを頼み、ゆっくりと流れるクラシックのBGMを聞きながら飲み物が運ばれてくるのを静かに待った。


「ーーお待たせ致しました」


運ばれてきた飲み物を一口飲む。

自分で思っていたよりも大分緊張しているのか、和葉の喉はカラカラだった。

喉が少し潤ったところで深呼吸をして、それからゆっくりと話し始めた。


「中西さん。私は昔、死んでいたはずでした」

「……!」


哲平は目を見開いた。


「それでも私が今生きているのは、"ココ"に傷があるからです」


そう言って胸に一本の縦線を手で描いた。


「……傷?」


それは、哲平にとっては映画やドラマでしか見たことがない、どこか現実味のない表現で。

ぼんやりと可能性に思い当たった時、言葉を失った。


「……少し、昔話にお付き合いいただけますか」


和葉は切なげに、思い出すように一度目を閉じて苦しそうに微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

長谷川さんへ

神奈川雪枝
ライト文芸
不倫シリーズ

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺にだけ見えるあの子と紡ぐ日々

蒼井美紗
ライト文芸
優也は毎日充実した大学生活を送っている。講義を受けてサークルに参加してバイトをして、友達もたくさんいるし隣には可愛い女の子もいる。 しかしそんな優也の生活には、一つだけ普通の人と違う点があった。それは……隣にいる女の子の姿を見ることができるのは、優也だけだという点だ。でも優也は気にしていない。いや、本音を言えば友達にも紹介したいし外でも楽しく会話をしたい。ただそれができなくても、一緒にいる時間は幸せで大切なのだ。 これはちょっと普通じゃない男女の甘く切ない物語です。 ※この物語はカクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

初恋の呪縛

泉南佳那
恋愛
久保朱利(くぼ あかり)27歳 アパレルメーカーのプランナー × 都築 匡(つづき きょう)27歳 デザイナー ふたりは同じ専門学校の出身。 現在も同じアパレルメーカーで働いている。 朱利と都築は男女を超えた親友同士。 回りだけでなく、本人たちもそう思っていた。 いや、思いこもうとしていた。 互いに本心を隠して。

消えた記憶

詩織
恋愛
交通事故で一部の記憶がなくなった彩芽。大事な旦那さんの記憶が全くない。

処理中です...