19 / 25
Chapter5
5-4
しおりを挟む
「ーーもう、大丈夫です」
一頻り泣いた和葉は、ようやく落ち着いて顔を上げてからハンカチで目元を抑えた。
「ん。ちょっとは落ち着いた?」
優しく抱きしめながら一定のリズムで背中をポンポンと叩いていた哲平は、名残惜しい気持ちを抱えながらも和葉を離す。
「はい。久し振りに泣いたらスッキリしました。すみません。取り乱してしまって……」
「気にすんなって。ほら、後藤もまだ開けてないんだろ?コレ一緒に飲もう」
「……はい」
缶コーヒーを開け、こくりと一口飲む。
哲平の肩を借りて縋り付くように泣いたのがなんだか恥ずかしくて、和葉は何を言っていいかがわからなくて黙る。
哲平は哲平で考え事をしているのか沈黙が続いた。
辺りは既に真っ暗。
飲んだコーヒーがやけに苦く感じた。
「ほら、これで目冷やして。そのままにしてたら明日腫れるぞ」
「ありがとう、ございます」
スーツのポケットに入っていたハンカチを濡らして持ってきた哲平は、和葉の手にそっとハンカチを置く。
ありがたく受け取った和葉はそのまま目を閉じて目の上に置いて瞼を冷やした。
「……中西さんは、私のどこが好きなんですか?」
ずっと気になっていたことをポツリと呟いて聞く。
哲平はギョッとした顔で和葉の方を振り向くも、和葉は瞼を冷やしていて哲平の方は見れるわけもなく。
「……えぇ……?それ普通聞く?」
苦笑いしながら顔の向きを前に戻した。
「……すみません。ちょっと気になっちゃって。
頑固で人に頼るのも相談するのも苦手で隠し事ばっかりで。悪いところを挙げたらキリが無くて。人に恨まれることはあっても好かれることは無いと思ってたから……」
乾いた笑いを零した和葉をちらりと横目で見て、哲平は一つ息を吐く。
「……悪い風に考えるからキリが無くなるんだよ。考え方一つでそんなのいくらでも変わるだろ」
「考え方?」
「頑固なのは自分の意思がハッキリしてるからだろ?人に迷惑かけたくないって気持ちがあるから相談したり頼ったりできなくなる。つまり自分の事より人の事を考えられる優しさがある。隠し事はまぁ……あれだ。誰でも一つや二つあるから気にすんな」
「……ポジティブですね……」
「ネガティブよりポジティブの方が良いだろ」
ハハっと笑う哲平に、和葉はその笑顔は見えていないのにすぐに脳裏に想像できた。
きっとくしゃっと笑っているんだろう。
「……本当、中西さんはずるいですね」
「え、何ソレ。どっからそんな話になったの」
「ふふっ、褒め言葉ですよ」
「褒めてんの?え、どこら辺が?え?」
和葉は口角を上げて微笑む。
「(……そっか。考え方一つで、いくらでも変わるのか)」
心に掛かっていた靄が少し晴れたような気がした。
「あぁ、肝心な質問に答えてなかった」
「……?」
目元のハンカチを少しズラして哲平を見つめる。
「仕事に真面目で一生懸命なところも優しいところもそうやって溜め込みすぎて泣いちゃう脆さも護ってあげたいと思うしもちろん好きだけど。
……一番好きなのは笑った顔だよ」
前を向いたままそう呟いた哲平の顔は目を伏せてとても穏やかに笑っていて。
何か愛おしいものを思い浮かべているような、慈愛に満ちたその表情に和葉は釘付けになり目を逸らせなかった。
そして何も言わない和葉に疑問に思った哲平が振り向くと、固まって動かなくなっている和葉とばっちり目が合って。
凝視されているとは思っていなかった哲平はわかりやすく頬を染めて慌てた。
「え、ちょ、何でそんな見てんのっ。ちゃんと目冷やしなさい」
「……」
「冷やしなさいっ!」
赤い顔でクイっとハンカチを戻されて視界が真っ暗になった和葉。
それにより正気に戻り、哲平の言葉が頭の中でぐるぐる回る。
「……ありがとう、ございます」
再びハンカチをそっと取った和葉は、哲平にふわりと微笑んだ。
それは哲平の好きな笑顔で。
「あぁーもうっ」
哲平は照れ隠しにポンポンと頭を撫でた。
「中西さん」
「ん?」
「今度、お時間いただけますか?」
和葉の問いに哲平は驚きつつも返事をした。
「いいけど……今度っていつ?」
「……来週の土曜日、空いてますか?」
頭の中でカレンダーを思い浮かべる。
「うん。今のところ予定は無いけど」
「じゃあ一日空けといてもらえますか」
「……わかった」
和葉は決意していた。
「(全部。全部話してみよう。どんな結果になったとしても。ありのままを伝えよう)」
和葉の目には、しっかりと光が宿っていた。
両手を胸に当てる。
「(……自分の気持ちに、正直になってもいいですか……)」
誰かに向けたその問いかけにトクン、トクン、と規則正しく動く心臓が、自分を後押ししてくれているような気がして。
「(……なんて、都合が良すぎるかな)」
また泣きそうになった。
一頻り泣いた和葉は、ようやく落ち着いて顔を上げてからハンカチで目元を抑えた。
「ん。ちょっとは落ち着いた?」
優しく抱きしめながら一定のリズムで背中をポンポンと叩いていた哲平は、名残惜しい気持ちを抱えながらも和葉を離す。
「はい。久し振りに泣いたらスッキリしました。すみません。取り乱してしまって……」
「気にすんなって。ほら、後藤もまだ開けてないんだろ?コレ一緒に飲もう」
「……はい」
缶コーヒーを開け、こくりと一口飲む。
哲平の肩を借りて縋り付くように泣いたのがなんだか恥ずかしくて、和葉は何を言っていいかがわからなくて黙る。
哲平は哲平で考え事をしているのか沈黙が続いた。
辺りは既に真っ暗。
飲んだコーヒーがやけに苦く感じた。
「ほら、これで目冷やして。そのままにしてたら明日腫れるぞ」
「ありがとう、ございます」
スーツのポケットに入っていたハンカチを濡らして持ってきた哲平は、和葉の手にそっとハンカチを置く。
ありがたく受け取った和葉はそのまま目を閉じて目の上に置いて瞼を冷やした。
「……中西さんは、私のどこが好きなんですか?」
ずっと気になっていたことをポツリと呟いて聞く。
哲平はギョッとした顔で和葉の方を振り向くも、和葉は瞼を冷やしていて哲平の方は見れるわけもなく。
「……えぇ……?それ普通聞く?」
苦笑いしながら顔の向きを前に戻した。
「……すみません。ちょっと気になっちゃって。
頑固で人に頼るのも相談するのも苦手で隠し事ばっかりで。悪いところを挙げたらキリが無くて。人に恨まれることはあっても好かれることは無いと思ってたから……」
乾いた笑いを零した和葉をちらりと横目で見て、哲平は一つ息を吐く。
「……悪い風に考えるからキリが無くなるんだよ。考え方一つでそんなのいくらでも変わるだろ」
「考え方?」
「頑固なのは自分の意思がハッキリしてるからだろ?人に迷惑かけたくないって気持ちがあるから相談したり頼ったりできなくなる。つまり自分の事より人の事を考えられる優しさがある。隠し事はまぁ……あれだ。誰でも一つや二つあるから気にすんな」
「……ポジティブですね……」
「ネガティブよりポジティブの方が良いだろ」
ハハっと笑う哲平に、和葉はその笑顔は見えていないのにすぐに脳裏に想像できた。
きっとくしゃっと笑っているんだろう。
「……本当、中西さんはずるいですね」
「え、何ソレ。どっからそんな話になったの」
「ふふっ、褒め言葉ですよ」
「褒めてんの?え、どこら辺が?え?」
和葉は口角を上げて微笑む。
「(……そっか。考え方一つで、いくらでも変わるのか)」
心に掛かっていた靄が少し晴れたような気がした。
「あぁ、肝心な質問に答えてなかった」
「……?」
目元のハンカチを少しズラして哲平を見つめる。
「仕事に真面目で一生懸命なところも優しいところもそうやって溜め込みすぎて泣いちゃう脆さも護ってあげたいと思うしもちろん好きだけど。
……一番好きなのは笑った顔だよ」
前を向いたままそう呟いた哲平の顔は目を伏せてとても穏やかに笑っていて。
何か愛おしいものを思い浮かべているような、慈愛に満ちたその表情に和葉は釘付けになり目を逸らせなかった。
そして何も言わない和葉に疑問に思った哲平が振り向くと、固まって動かなくなっている和葉とばっちり目が合って。
凝視されているとは思っていなかった哲平はわかりやすく頬を染めて慌てた。
「え、ちょ、何でそんな見てんのっ。ちゃんと目冷やしなさい」
「……」
「冷やしなさいっ!」
赤い顔でクイっとハンカチを戻されて視界が真っ暗になった和葉。
それにより正気に戻り、哲平の言葉が頭の中でぐるぐる回る。
「……ありがとう、ございます」
再びハンカチをそっと取った和葉は、哲平にふわりと微笑んだ。
それは哲平の好きな笑顔で。
「あぁーもうっ」
哲平は照れ隠しにポンポンと頭を撫でた。
「中西さん」
「ん?」
「今度、お時間いただけますか?」
和葉の問いに哲平は驚きつつも返事をした。
「いいけど……今度っていつ?」
「……来週の土曜日、空いてますか?」
頭の中でカレンダーを思い浮かべる。
「うん。今のところ予定は無いけど」
「じゃあ一日空けといてもらえますか」
「……わかった」
和葉は決意していた。
「(全部。全部話してみよう。どんな結果になったとしても。ありのままを伝えよう)」
和葉の目には、しっかりと光が宿っていた。
両手を胸に当てる。
「(……自分の気持ちに、正直になってもいいですか……)」
誰かに向けたその問いかけにトクン、トクン、と規則正しく動く心臓が、自分を後押ししてくれているような気がして。
「(……なんて、都合が良すぎるかな)」
また泣きそうになった。
1
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺にだけ見えるあの子と紡ぐ日々
蒼井美紗
ライト文芸
優也は毎日充実した大学生活を送っている。講義を受けてサークルに参加してバイトをして、友達もたくさんいるし隣には可愛い女の子もいる。
しかしそんな優也の生活には、一つだけ普通の人と違う点があった。それは……隣にいる女の子の姿を見ることができるのは、優也だけだという点だ。でも優也は気にしていない。いや、本音を言えば友達にも紹介したいし外でも楽しく会話をしたい。ただそれができなくても、一緒にいる時間は幸せで大切なのだ。
これはちょっと普通じゃない男女の甘く切ない物語です。
※この物語はカクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
初恋の呪縛
泉南佳那
恋愛
久保朱利(くぼ あかり)27歳 アパレルメーカーのプランナー
×
都築 匡(つづき きょう)27歳 デザイナー
ふたりは同じ専門学校の出身。
現在も同じアパレルメーカーで働いている。
朱利と都築は男女を超えた親友同士。
回りだけでなく、本人たちもそう思っていた。
いや、思いこもうとしていた。
互いに本心を隠して。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる